「魔女と戦争モノ」へのまっすぐな挑戦

 「天使」と呼ばれる謎の生命体の襲来により、壊滅の危機に陥った世界。絶望的な状況で足掻き続ける一部の人類は、天使と対立する「悪魔」と契約し、絶大な空戦能力を得た「魔女」を戦線に投入する。主人公の少女ミサキはとある事情で強大な悪魔の力を借り受けた魔女。彼女は妹分の悪魔ソロネや仲間の魔女と共に、大切な人たちとの日常を守るため今日も戦い続ける。

 「魔女と戦争モノ」と言ったらいいのでしょうか。特別な力を持った少女たち(大人の女性も含む)が近代戦争の主体となり、輝かしい戦功を挙げながら戦場のリアルに立ち向かっていくあの系統のお話です。アニメやゲームでも人気シリーズが生まれており、一定の支持を受けているジャンルと言えるでしょう。
 さてこのジャンル、独特の漂白作用を持っています。私も似た主題の小説を書いているので分かります。戦争の生臭さを高尚なものとして掲示しながら、それを美少女のキャッキャウフフで中和できるんです。おいしいとこ取りができます。商業での人気シリーズほど、消費者に向けてその作用を効果的に用いています。

 ではこの作品はどうでしょうか。
 主人公であるミサキちゃんは、健気でひたむきで優しくて真面目で妹にダダ甘で…でも時には厳しい女の子です。戦闘面では特別な装備を任されていますが、戦いに向いた気性も特段の才能も持ち合わせていない努力の人です。思想は妹や身近な仲間たちへの親愛が大きく占めており、愛国心とか敵へのヘイトとかが人一倍強いわけではありません。光属性でも闇属性でもありません。
 なんというか、彼女は普通にいい子です。特徴がないのとは違います。生まれと育ちと使命と理想が、主人公を丁寧に丁寧に形作っているんです。彼女を通してみるこの物語は、高空を駆けバケモノや戦闘機と戦う美少女の英雄譚であるにもかかわらず、極めて等身大の価値観で描かれています。それは、戦争を少女性で漂白するなんともアレな作用に真っ向から向き合うフラットな視点です。

 ことファンタジー戦記では、戦争文学的な重みや燦然と輝くヒロイン像を楽しむのもいいでしょう。でも、その時代に生まれた人が、そこにある苦難にあるだけの力で立ち向かうお話もいいですよ。そこには素朴ながら、そっと胸に染み入るような人間賛歌があります。ミサキちゃんと同じ視点で、ただまっすぐに彼女の戦いを見届けたくなる。『皇国魔女航空戦隊』はそのような”静かに刺さる”お話です。
 長くなりましたが、めっちゃ面白いよ! 気楽に読もう!

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