第41話 既視感
俺からのパーティー勧誘の言葉に、顔をしかめる霧崎。
少しの間のあと、彼女はキッと眉を吊り上げる。
「ふざけてるの? 私のスキルを言い当てただけでもムカつくけれど……〈雷霆の鼓動〉のことを知っているのなら、私が仲間を求めていないことくらい分かるはずよ」
〈雷霆の鼓動〉はスキル発動中、自動で周囲に雷の空間を展開する。
その空間は自身に対するバフ効果を生み出すのに対し、他者にはデバフとなってしまうため、仲間と戦うには使い勝手の悪いソロ向けのスキル。
そういう意味では霧崎の発言が正しい。
だが――
「そこについては心配いらない。俺たちと組めば、そのスキルのデメリットを打ち消せて――」
「ふざけたことを言わないで!」
俺の言葉を遮るように、霧崎が叫ぶ。
「そんな甘言で説得しようとしたってそうはいかないわ。貴方のような人を、私は絶対に信じない」
「…………」
「話がそれだけならもういくわ。精々、つまらないことで命を落とさないよう気を付けることね」
そう言い残し、去っていく霧崎。
俺はしばらくその背中を見続けていた。
すると、
「あの、奏多さん……」
恐る恐るといった様子で祈が話しかけてくる。
俺はそんな彼女に軽く頭を下げた。
「悪い、祈。許可を取る前に勧誘したりして」
「い、いいえ! 奏多さんの判断なら信じられますから!」
先ほど霧崎に言われた言葉を否定するように、祈は力強くそう言ってくれる。
「ただ……少し不思議に思って。随分と彼女のことを気にかけるんだなと……」
「……少し、昔の知り合いに似ててな」
「昔の知り合い、ですか?」
きょとんと首を傾げる祈。
「いや、悪い。正確には昔じゃなくて、未来でのことなんだけど……」
祈には既に10年後のことを伝えているためいいかと考え、話しを続ける。
「出会った時から、他人に対してなかなか心を開かなかった相手がいるんだ。過去に手痛い失敗で仲間を失って、それから一人きりでダンジョンを攻略することを決意したらしくてさ」
「……奏多さんは、霧崎さんもそういった理由で今のような態度になっていると?」
「ほとんど直感だけどな。まあ見ての通り、勧誘は断られたけど……」
正直、残念だ。
霧崎が心配だったが一番の理由だが、単純に〈雷霆の鼓動〉が強力なスキルだったからというのもある。
あのスキルは、俺の〈共鳴〉や祈の〈調律〉と組み合わせると相性抜群になるはずだから。
とはいえ、これ以上無理に言い寄る訳にもいかない。
俺や祈には時間がない。
一刻も早く最前線にいかないといけないのだから。
切り替えて、俺は祈に伝える。
「これ以上こだわっても仕方ない。この階層を攻略するための準備を整えるか」
「はい! ……ところで、奏多さん。今の話に出た人は、その後どうなったんですか……?」
「ん? ああ、道中は色々とこじれたりしたんだけど……最後にはきちんと信頼関係を結んで、何度も一緒にボスと戦ったぞ」
脳裏に、これも霧崎と同じ金髪を靡かせる女性――回帰前の最後の瞬間まで隣にいてくれた彼女を思い出す。
まあ、それはともかく、
「それじゃ、ボス討伐前の特訓というか」
「はい!」
元気よく頷く祈と共に、俺は町の外に向かうのだった。
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