第40話 パーティー勧誘
霧崎と男たちの言い合いが過熱していく中、
「またアイツらか……」
俺たちのすぐそばに立っていた店主が、おもむろにそう呟いた。
「奴らを知っているのか?」
俺の問いかけに、店主は苦々しい表情を浮かべる。
「ああ。『
「なるほど、そういう奴らか……」
数の暴力で良いようにふるまっているということだろう。
一周目では聞いたことがないが、『新世紀会』に近い相手だと判断できる。
こういう奴らは、どこにでもいるということだ。
「この前なんか、一緒に組んでた冒険者が半死半生で逃げ込んできたんだ。それ以来、誰も組みたがらなくなってな」
「…………」
店主の言葉に、俺は眉をひそめる。
しかし、そうこうしている間にも、言い合いは進んでいた。
「いいか、嬢ちゃん。このまま一人でやろうってんなら、後悔することになるぜ?」
「そうそう、隊長の言う通りだぜ。俺たちと組んだ方が――」
「いい加減にしてもらえる?」
霧崎の声が、冷たく男たちを遮る。
「貴方たちの力なんてなくても、私一人で攻略してみせるわ」
霧崎はそう言い残し、食事も取らずに店の外へ向かう。
その背中には強い意志が感じられたが、同時に何か危うさも漂っていた。
(このまま放っておくと、まずいことになりそうだ)
一周目で幾つもの絶望を見届けてきた俺の直感が、決して彼女を見過ごしてはいけないと警告していた。
「お代はこれで。行こう、祈」
「えっ? は、はい!」
俺はお代をテーブルに置き、霧崎の後を追う。
祈も慌てて後に続いた。
「舐めやがって。絶対に後悔させてやる……」
その時、後ろから男たちの不満げな声が届く。
小さく、くぐもっていたせいか、何を言っているかまでは聞き取れなかった。
いずれにせよ、今、彼らに構っていられる余裕はない。
急いで店を出ると、霧崎はすぐそこにいた。
俺は彼女に声をかける。
「待ってくれ!」
「はあ。まだ何か用……」
冷たい声で振り返った霧崎は、そこでようやく俺が『赤蛇の牙』ではないと認識したようだった。
「貴方は確か、この前の……」
「ああ。『古代神殿跡』で会った冒険者だ」
俺は一歩前に出て、真摯な表情で語りかける。
「一人でボスに挑むのは、危険すぎる」
「……わざわざ、そんなことを言うために追いかけてきたの?」
「ああ。あの連中に同意するわけじゃないが、ここのボスは一筋縄ではいかない。強さの問題じゃなく、ボスの特徴からしてソロでの攻略は向いていないんだ」
霧崎は眉をひそめた。
納得がいっていない様子の彼女に向けて、核心を突くように俺は続ける。
「……そう。たとえ、〈
「――――!」
霧崎が目を見開く。
保有しているスキルを言い当てられたことに驚いているのだろう。
その瞳には警戒の色が強まっていた。
「どうして、私のスキルを……」
「『古代神殿跡』での戦い方を見れば、そのくらいは分かる。あのスキルは確かに強力だ。でも、それだけじゃ20階層のボスには太刀打ちできない」
霧崎は腕を組み、なお強がるように言い返す。
「だから、あんな奴らと組めって? 冗談じゃないわ」
「そうじゃなくて」
俺は一呼吸置いてから、真剣な眼差しで彼女を見つめる。
「よかったら、俺たちとパーティーを組まないか?」
「……はあ?」
「え?」
俺の提案に霧崎と、そして隣にいる祈も同時に驚きの声を上げるのだった。
◇◆◇
霧崎や奏多たちが店を出た直後。
『赤蛇の牙』の面々は、店内で苛立ちを露わにしていた。
「クソッ、あのツンケンした女!」
「なめやがって……!」
すると、他の客から警戒するような視線を向けられていることに気付いたメンバーの一人が、いきなり椅子を蹴り飛ばす。
「見世物じゃねぇぞ! なに見てやがる!」
その荒々しい声に、周囲の客たちは慌てて目を逸らす。
店内に重苦しい空気が漂う中、リーダーが小さく口を開いた。
「……まったく、せっかく声をかけてやったってのに、断るなんざ礼儀がなってねえよな」
リーダーの声は静かだったが、その目は獰猛な光を宿していた。
「隊長、このまま引き下がるんですか?」
「そう見えるか?」
低く笑う声に、部下たちも薄汚い笑みを浮かべる。
「あんな舐められ方、このまま許してやるほど、俺たちゃ優しくねえよ。それに、あの様子じゃ今日にでもボスに挑むはず……この際だ。ボス部屋まで先回りして、あの女の袋叩きにしてやろうじゃねえか」
その言葉に、メンバーたちが下卑た笑い声を上げる。
「へへっ、そうですね。あの生意気な態度、思い知らせてやりましょうよ」
「そうだな。まずは力尽くで分からせて、それから俺たちの仲間に引き入れるってのが筋ってもんだ。それでも断るようなら……その時は相応のおもてなしをしてやればいい」
「なるほど! いいですねぇ」
リーダーは悪意に満ちた笑みを浮かべながら、ゆっくりと立ち上がった。
「俺たちに逆らったらどうなるか、教えてやろうじゃねぇか」
その笑みには、これまでに何度も同じことを繰り返してきたことを物語る残虐性が滲んでいるのだった。
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