情で味付け、人情食堂!

崔 梨遙(再)

1話完結:1100字

 僕がまだ学生の頃、たまに行く食堂があった。その時、もう日が暮れていた。たまたま、客は僕1人だった。僕は新聞を読みながら定食を食べていた。店は、50代~60歳くらいの夫婦が営んでいた。


 そこへ、1人の男が入って来た。くたびれたスーツを着た、外国人、年齢不詳の男だった。


「いらっしゃいませ」

「スミマセン、コレデ何カ、食ベサセテ、クダサイ」


 カバンを開けると、チョーカーなどが入っているのが見えた。女将さんは言った。


「そんなんええわ、困った時はお互い様やで。お腹空いたんやったら、なんか食べさせてあげるわ。うーん、玉子丼でもええかな?」

「ハイ、アリガトウ、ゴザイマス」


 その外国人は、玉子丼をガツガツと食べた。あっという間に食べ終わり、


「ドウモ、アリガトウ、ゴザイマシタ」


と言って去ろうとしたが、


「あんた、ちょっと待ちいや、今夜泊まるところはあるんか?」

「ダイジョブデス、ノジュク、シマス」

「〇〇の辺りまで行ったら、1泊千円とか2千円の宿があるからそこに泊まりなさい。ゆっくり休んで、また明日元気に商売したらええねん」


 女将さんは外国人に2千円を渡していた。外国人は感動して泣いていた。



 僕も感動して泣いていた。




 また、或る日、その食堂でオムライスを注文し、キレイに半分食べてキレイに半分残していたオッチャンがいた。


“どうしたんやろ?”


 中途半端な時間帯、客はそのオッチャンと僕だけだった。やがて、オッチャンが、か細い声で女将さんに話しかけた。


「女将さん……」

「はい、どないしました?」

「儂、オムライス頼んで食べたけど、金が足りへんねん。半分残したから、支払いも半額でええかな?」

「全部食べてください。お金は次に来てくれた時でええから」


 オッチャンは泣きながら残り半分のオムライスを食べていた。



 僕も感動して泣いていた。




 後日、下町じゃないカフェでオムライスを半分食べて残しているオッチャンがいた。“こ、これは……既視感? ま、まさか、このオッチャンも?”などと考えていたら、オッチャンが店員に話しかけた。


「お金、半分しか無いんやけど、オムライス半分しか食ってないから半額だけ支払うということで許してくれへんかな?」

「お待ちください、店長を呼んできます」


 Oh! 同じ展開だ。どうする? 店長!


「困りますね、ちゃんとお金を払ってください。お金を払わないと返せません。場合によっては、無銭飲食で警察を呼びますよ」



 暖かくない! やっぱり人情があるのは下町だ! 下町万歳!







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