聴こえないメロディー

夕日ゆうや

心の叫び

 音。

 それは人の耳を振動させ、脳内へ衝撃を与えるもの。

 その音の中でも人の気持ちを揺さぶるを持っているのがメロディーだ。


 俺はそのメロディーを奏でる音楽が好きだ。

 特にギターに興味が湧き、人気アーティストの音楽データに合わせてギターを流すのが好きだ。

 そこまでうまくはないけど、楽しい。


 それだけだ。


 だけ、だった……。


 家族が事故に遭った。

 次男坊のりくは左足を失い、光を閉ざした。

 両親は事故で亡くなり、俺と陸だけが生き延びた。


 葬式をして、市役所や葬儀屋に電話をして――。


 毎日が忙しかった。

 忙しくて、悲しむ暇もなかった。

 手続きが終わり、障害者手当で生き延びる毎日。

 両親と暮らした家から出ることはなくなった。

 母さんが目の保養に、と言って買った観葉植物が枯れていく。

 枯れていく。


『兄さん、ひかないの?』

 弟が何かを言い、ギターを触っている。

 ギターのことで何か言っているのだろう。

『俺は……』

 自分の声すらももう忘れた。

 そんな俺に音楽をやる力はない。

 陸が何やら紙に言葉を綴る。

 光の見えない陸の言葉はぐちゃぐちゃで読めない。

 俺は困ったようにため息を吐く。

 スマホに何やら言葉を吹き込み、俺に画面を見せる。

【ギターひこうよ】

『俺にはできないよ』

【大丈夫だから。僕、最後に兄さんの演奏が聞きたいな】

『……分かった。下手くそでも笑うなよ』

 俺はギターを手にしてピックを構える。

 俺も陸も、望まない障害をもち、望みもしない給付金で生きている。

 死んだ方がマシという言葉は良く耳にする。

 それを痛感する日が来るとは思っていなかった。

 陸は光を、俺は耳を失い、もう絶望するしかなかった。

 そう思っていた。

 でも違う。

 陸は俺とは違う。

 俺の演奏を聴いて、泣き出したのだ。

 この演奏を止めるのがいやだった。

 俺のこの音が何を奏でているのか、何をしているのかも分からない。

 でも止めてはいけないと思った。

 止めてしまえば、何もかもが失われる。

 動画サイトにアップしても五人の人を動かすこともできない未熟な音楽。

 それでも陸は嬉しそうに泣くのだった。


 俺は今日、この瞬間だけ、ファン一人を喜ばせることができた。


 だから、お迎えが来たのかもしれない。


 弦が切れる瞬間、脳髄に血栓が詰まった。

「兄さん!!」

 一瞬、弟の声が聞こえた気がした。






 見知らぬ天井。

 俺はどうしたのだろう。

 舟をこぐ陸の姿を認め、もう一度深い眠りについた。

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聴こえないメロディー 夕日ゆうや @PT03wing

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