あえて、聞く。『君は死にたいか?』

隅田 天美

『誰にも迷惑をかけないで死にたい?』 それ、甘いです

 子供のころから、祖父母たちは「あー、自分たちは老い先短いから楽に死にたいねぇ」と言っていた。


 昨今話題の引きこもりやネットを見ても「世の中(世界)に希望が持てない。死にたい」という書き込みが多い。


--痛いのは嫌だけど、楽に死にたい


 まあ、オランダなどでは難病で助かる見込みのない患者(外国人も含め)受け入れ、『安楽死』を実行している。


 本題に入る前にちょっと、解説。



「障碍者や重篤者は安楽死させよ!」という人たちが一定数いるが、『安楽死』の(日本での)定義は「本人の意思」が最重要視される。


 これはオランダでも同じ。


 本当に難病で『死』以外、(身体的・肉体的)苦痛でしかない場合で本人の同意を何度も確認して実行される。


 もしも、そこにちょっとでも希望らしきものがあれば、即刻キャンセルさせられる。



 さて、現時点において(2024/8/26現在)事故や災害がない場合、私の場合、「孤独死」になるだろう。


 親と弟は遠方に住んでいるし、近所づきあいは悪くはないが嫌いな人もいる。



 この手の話題になると宗教がしゃしゃり出て(あえて、こう書いております)「地獄に行くぞ」とか「来世で鬼畜になる」とかいうが、今回はそんな話はしない。


 もっとドライに、観察日記みたいに死後の状態の変化を見ていこう。



 サンプルとして、私が熱中症が引き金で突如、脳が機能停止するところから話を始めよう。



 ある平凡な朝。


 私は動かなかった。


 時はすでに出社しないといけない時間なのに、私は目を閉じたまま死んだ。


 脳からの指令がなくても、心臓は動くが、それでも、半日も過ぎれば自然停止する。


 ここで、私の意識はない(はずだと思う)。



 さて、脳という指揮命令系統が動かなくなると、体の各免疫細胞たちも交代などせず自然死する。


 

 では、ここで質問をしよう。


『人間の体で一番早く腐敗する部位は何処だろう?』


 正解は、腹である。


 テレビCMなどで『お腹の中の善玉菌』(まあ、この表現もどう?)などと言われるようにたくさんの細菌がいる。


 よく『腸内フローラル』というのは、脳の指令で白血球などが有害になる菌を死滅させるために体温を上げたり、異物を除去する。


 冬に流行る風邪はその典型例で、「ただの風邪」という一言では言い表せない、それこそ、体の巧みな免疫システムであり、薬はあくまでもサポート役なのだ。


 その脳からの指令など制約がなくなった菌は一気に増殖する。


 漫画「もやしもん」的に言うなら腸の中で「かもされた」のだ。


 人体(哺乳類でもいい)の腸内は本当に(菌からしたら)楽園である。


 何もせずとも御馳走たべものが落ちてきて、ゴミは勝手に廃棄される。


 その『腸』という楽園は腐敗する。


 筋肉や皮膚も腐敗し弾けた腸が飛び出る。


 その後、体温調節できない体は熱を帯び、どこにいたのか、蠅や蛆が目や鼻などの粘膜に卵を産み付け、孵化させる。


 夏だと半月、冬でも一か月半あれば、立派な(?)死体の完成である。



 ここまでは体のほう。


 では、そのあとの「遺体処理」の話もしよう。



 今から三か月後。


 一向に連絡しても出ない私に、会社も家族もしびれを切らせて我が家に押し入ってきた。


 玄関を開けた際に、鼻をつまみたくなる異臭がするはずだ。


 昭和世代なら汲み取り式便所の臭いを思い出していただける分かりやすい。


 そう、先ほど、最初に腹部が腐敗すると説明した。


 それは言い換えると、汚物、具体的に書くと糞尿を垂れ流すとの同じなのだ。


 腐乱死体と化した私とご対面である。


 まず、警察などが来る。


 具体的住所は書かないが、私の住む場所は普段は静かな住宅街である。


 それが何台ものパトカーが来るのだから、ご近所迷惑だ。


 両親は泣き崩れ、たぶん、会社の人も呆然とするだろう。


 ここから大変なのは遺体処理班であろう。


 なにせ、腐乱した体液が布団を通り越して畳まで染みて乾燥している。


 タンパク質と繊維が融合して強引に引き剝がそうとすれば乾いた紙を破くような音と皮膚が取れる。


 そこで、特殊な薬剤で私の遺体と布団を剥がす。


 遺体は「事故物件」として警察学校か大学で細かく解剖、分解されて、死因が関係者に伝えられる。


 そして、形ばかりの葬式をして、私は法的にも「あの世の人」になる。



 さて、ここまで「私(=隅田天美)が自然死をしてどうなるか?」を読んでもらった。


 これを読んでも、あなたは胸を張って「世の中のために死ぬ」という戯言をほざくのだろうか?


 むしろ、あなたが死んで得をする人は誰もいない。


--遺産分与?


 固定資産税などを考えれば、よほどの、それこそどこかの富豪レベルでないと国がお金を奪っていく。


 不動産を売却しようにも「事故物件」である。


 むしろ、変な噂や生前に恨みを持っていたものが生ごみや落書きをするだろう。


 地域の治安が悪くなるのは確実だ。


 なお、我が家の地区会長さんだけは私の障害のことを知っていてくれるが、普通に接してくれている。


 楽観的に考えても、父が家を買った時より安く買い叩かれるか、老いた両親、または弟のささやかな収入源の一つとして駐車場になるだろう。


 私の残った骨も散骨されるのか、誰かの墓に入るのか分からない。


 警察の方にもご厄介になる。



「死ぬほうが生きるよりはるかに多くの人を迷惑にさせるんだ」と思った、そこのあなた!


 拙作『とにかく、休め』を読もう!


 そうでなくても、ここまで読んだあなたは偉い!


 だから、早くパソコンを切って、お風呂を焚いて(ちょっといい入浴剤があればなお良し)、さっさと布団に入って寝ろ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

あえて、聞く。『君は死にたいか?』 隅田 天美 @sumida-amami

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画