星を拾う者
メタロン
星を拾う者
今月も星を1つ拾った。これで4つ目になる。おおよそ1ヶ月に1つのペースで真っ暗な宇宙空間を星から星へ移動しながら拾い集めていた。拾う対象となる星は小さくて光も弱い星である。そしてその中でも赤く光る星、とりわけ赤のなかでもコード41*11に近い色に輝く星に目星を付けて移動する。先程拾った星を宇宙船内に収納し、流れるような動きで次の星をナビゲーターに目的地として伝えて席に着く。移動中は宇宙船の中でお気に入りの音楽を聴きながら本を読んで過ごしている。しかし移動期間の1ヶ月もそれらで時間を潰すことは難しいので、飽きたら休眠装置に入り寝て過ごしている。
こうして星を拾い集める仕事に就いて3年になる。仕事内容は生まれたばかりの規模の小さい星を集め、それらを纏めて1つの大きな星にする。そしてそれをそれぞれの担当者のセンスで銀河の好きな場所に設置する。そうして大きく強く光る星は銀河のいたるところにいる生物達にとっての目印となる。ある者はそれに名前を付け、ある者はそれを他の星と線で結び大きな絵を形作ったり、ある者はそれに災いの予感を、ある者はそれに吉兆の兆しを、ある者はそれに願ったりする。しかしそれらはただの副産物である。本来の目的とは関係なく、いわばその大きくなった星を見た生物達が勝手にそれらに意味を見出したに過ぎない。元々の目的は2つある。1つは宇宙船で移動をする際に星々がその航路の妨げになっているのを防ぐために始められた。小さい星では発見と回避が遅れ事故も起きていた為、主要航路の清掃をしながら集めた星を1つにし、航路の道標としていた。そうして道標とした星はナビゲーターに登録する事で即座に全ての宇宙船に共有される。
そしてもう1つが星をエネルギーとして使用し、財を成そうとする宇宙賊を阻止する為である。小さい星含め全ての星のデータを集計し、それらが唐突に動き始めたり消滅したりした際に宇宙警察に報告する。そうして銀河の星を管理していく仕事である。但し150年ほど前に制定された星の窃盗の罪が著しく重くなった事により、星を盗もうとする賊はいなくなり平穏な業務となっていた。
「目的地到着まで24時間となりました」ナビゲーターの音声により目を覚ます。前回の星から本を3冊読んだ後は眠り続けていた。休眠装置から出て食事の用意をしていると警報が鳴り響き、続いてナビゲーターの音声が響く。「座標4575845582の星が高速移動中、繰り返す座標4575845582の星が高速移動中」即座にそれが今目指している星だと理解した。ナビゲーターが警報を出した時点で他の宇宙船や基地にもその情報が届く。そして基地から目的の星の調査と宇宙賊がいた際は手出しはせずに宇宙賊の詳細を報告をするよう伝えられた。この仕事に就いてから初めての出来事で緊張している。船の性能面で言えば一般的に宇宙賊が使う船に劣る部分は無いので、こちらに実害が出ることはまず無いだろうが攻撃はされるかもしれない。仮に宇宙賊が逃げ続けた場合どこまで追い続けるのか。基地から全て逐一命令は出るとの事だがそれも状況ごとに変わるので何が起こるか見当がつかなかった。そんな動揺とは裏腹に宇宙船は自動運転により淡々と星に近づいていく。もうすぐで視界にも入ってくると思った矢先ナビゲーターが鳴った。「移動していた星は停止。付近に生命体及び船体の存在は確認出来ません。」その音声に一体何が起こっているのか理解に苦しんだが、案内の直後に視界に入ってきた小さく赤い星は確かに停止していた。必死に当たりを見回し、レーダーを確認したが確かに周りには誰もいなかった。起こった現象をそのまま基地に報告し、その星を回収しようとした。その時、星から発せられる光に微かな違和感を覚えた。他の星より大きさの割に光が強い気がした。移動した原因かもしれないと思い、念のため調査機を使用したが特段異変は見受けられなかった。この事も報告しようと思ったが主観のみでの違和感であるのでどう報告したら良いか見当も付かなかった為報告は怠った。
それから星を3つ回収して周った。回収自体は月に1つのペースで順調だったが、それら全てに同様の現象が起きた。回収しようとする星があと24時間後に到着する距離までいくと突然移動し始め、視認出来る距離までもうすぐのところで突然停止する。基地の会議ではこの現象の話題で持ち切りだった。こう立て続けに起こったので原因解明の為様々な対策が行われた。回収目的の星周辺を事前に遠距離探知しておいたり、他の船が現地に先行して観察しようとした。だがどれも結果は同じだった。レーダーや探知機では移動が確認出来るが実際に視認出来る距離まで近づこうとすると停止する。この段階でこの現象に関して人為的なものではないという仮説に基づき調査されていた。そう、星は明らかに自立的に移動しているのである。不思議なのが各地で他の星を回収している同僚達はこの現象が起きていない事である。自分が回収しようとする星だけこの現象が起きていた。調査当初は自分が星の売買などの裏取引に関与しているのではないかと疑われたが基地からの調査隊のおかげですぐにそれは否定された。次いで9つ目の星の位置をナビゲーターに探させようとした時に基地から連絡が入った。「星は船の移動を察知している、もしくはナビゲーターの設定を探知し回収されるのを回避しようとしている可能性がある。その為、次に回収する星へ移動する際にその星をナビゲーターに設定するのではなくその星の近くの別の星を目的地として設定し、その星もしくは本来の目的の星が移動するかどうか調査せよ」その指示に従い本来の目的の小さくて赤く光る星の近くの全く関係ない別の星を目的地として設定し移動を開始した。休眠装置に向かいながら起こった出来事を頭の中で整理し始める。謎の現象が起き始めた時に比べると不安はとっくに消えていた。宇宙に存在する物質及び生物はほぼ全て調査が完了したと言われた時代から300年近く経っていた。150年前に新たな物質が見つかった時は宇宙全体で大騒ぎとなった。しっかり解明して発表すれば今回もきっと大騒ぎになる。普段の仕事だと特段目新しい事の無い流れ作業ばかりである。それ故こういった誰も知らない真新しい現象の発見者になり、そのまま調査の当事者につけた事に興奮していた。本来であれば専門の調査団が派遣されるがどういう訳かそうはならなかった。件の法律の厳罰化により平穏が続いているので気が緩んでいるのか、ただ単に面倒だからなのか、それとも囮として使われているのか。理由がなんであれこの役割を譲る気は無かった。そんな事を考えているといつのまにか眠りに落ちていた。
「目的地到着まで24時間となりました」ナビゲーターの音声で目を覚ました。今回の作戦にそこまで期待していなかったはずだが眠る前にはなかった妙な緊張感が走った。レーダーに映る本来の目的の星と目的地に設定している仮の星に目を凝らしていた。するとレーダーに映る星が動き出した。その動き出した星を見て驚愕した。動いたのは仮の星の方だった。仮の星が船から逃げるように遠のいていく。そして本来の目的の星にどんどん近づいていく。その事を基地に伝えると1時間後に次の指示が届いた。内容は仮の星の追跡はせずに、本来の目的の星に視認出来る距離まで近づいたと同時にナビゲーターの設定を目的の星に変更する、というものだった。もし星が意思を持って動いているのならば何らかの反応を見せるのではないかという作戦である。指示内容を脳内でシミュレーションしながら緊張した心を落ち着けようと努めていた。そうこうしている内に視認距離までもう少しとなっていた。星が動く謎を解明出来るかもしれないという高揚感を少し落ち着けるため一呼吸置く。そして指示通りナビゲーターに本来の目的の星を目的地として設定し即座に前方を注視した。すると直ぐに異変が起きた。注視すると同時に前方から強烈な赤い光が放たれ一瞬目が眩んだ。何が起きたのか確認しようともう一度注視すると小さくて赤い星から通常では考えられないほど強い光が放たれていた。星は移動こそしなかったもののこちらの作戦に対する反応を示していた。そして星に触れれるほどの距離に着くとすぐさま星の調査を始めた。すると今までには見つからなかった現象を発見した。なんと星が自ら光を放った形跡が見られたのである。この事を基地に報告し、また1時間ほど待機していると即座に帰還せよという命令が出た。ここから基地に帰還となると1年かかるが命令は絶対だった。星を回収し分析しながら起こった出来事を整理し始めた。回収しようとした星が突然動き始めた事。そしてそれらは逃げるように動き、また観測されるのを拒むかのようにある程度近づくと動きを止め、さっきまで動いていたという痕跡を消していた事。現に回収したばかりの星もさっきまで残っていた自ら動いた痕跡が既に消えていた。基地にいる調査団はその事に一番着目していた。仮にこれを基地へ持って帰っても意味をなさないのではないか。既に痕跡が消えているのではこのまま調査を続行させた方が良いのではないか等の議論が上がっていた。当の星を拾った者はそんな事は露知らず赤い星が強く光った時の事を思い返していた。あの強い光に目が眩んだ時、それは確かに星から放たれる光ではあったがその寸前に星周辺の空間全体が光ったように感じた。しかしそれもまた主観の出来事だったのと船内に残っていた録画映像では空間が光る現象は確認出来なかった。それ故今回もその事に関しては報告せずにいた。その他色々な事を考えたが特段状況が変わるわけでも気持ちの面でも整理が付くわけではなかったので1年という長い時間のほとんどを休眠装置で過ごすことにした。
ナビゲーターはそろそろ基地に着くことを知らせた。目を覚まし休眠装置から出て運転席に向かう。ずっと寝ていたせいか心はしっかり落ち着いていた。前方を見ると3年ぶりの基地が見えてきた。全体が灰色を基調としていくつもの直方体が連なり、重なりまるで膨れ上がっていくかのような建造物となっている。窓は一切無いが中からは外が見える仕様になっている。正直なところ初めて見た時から設計した生物のセンスを疑う建築物ではあった。自動運転のまま入口へと向かい、着いた途端調査団がこちらへ向かって来て無言のまま星を回収していく。お迎えの言葉も無く皆が無言のまま命令通り動いている。相変わらず息が詰まるところだった。そんな久方ぶりの基地は外観も内装も何も変わっていなかった。3年程度ではそれもそうかと思いつつ所属する部署へと向かった。部署へ着くと報告をする間も無く上席達が会議に使う部屋へ通された。そこでは名前だけは聞いていたが普段何をしているか分からないこの基地での御偉方が揃っていた。自ら発言する空気ではなかったので30分ほどただ立ち尽くして話を聞き、ときおり相槌を打っているだけだった。終わった後部屋を出てひとまず深呼吸をした。重々しい空気に緊張していたが内容自体は喜ばしいものだった。星に意思がある事を発見した功績を称えて昇進と、宇宙全体に発表と表彰式を行うとの事だった。喜ばしい事ではあるが星に意思があるとして、なぜそれが時間が経つと意思の痕跡が消えてしまうのか。そればかり気になっていた。しかしそんな事は露知らず世間はお祝いムードとなっていた。新しい発見をお祝いする生物、各々で証拠を見つけようとする生物、今まで幾度となく観察、分析してきて見つかって来なかった事象に懐疑的な生物など様々ではあったが話題はそれ一色だった。そうして式典の日はやって来た。会場は天井が太陽系を映しており、太陽が会場全体の照明となっていた。壁は様々な惑星の特色ある地表を縦縞の地層のようにして模様付けられていた。床は至ってシンプルな白の岩石を削り出したものになっていた。そんな会場には久々の式典で各惑星から色んな生物がやって来た。滅多に集まる機会は無いので各自近況報告をしながら歓談していた。いよいよ式が始まり様々な催し物が披露された。様々な動物に変身して動物の言語を話す事も理解する事も出来る装置やミニチュア銀河を作り上げ、さらにそこに実際に生物が営みを反映出来る惑星があったりと興味を惹かれるものが多かった。そんななか最後の催し物は光速移動の応用で、移動させたい対象に強力な光を当てるとその対象が光の進行方向と同じ方向に飛んでいくというものである。これを活用すると光速移動が一度に移動できる距離を伸ばせるのと、途中で曲がる事も可能になる可能性があるというものである。宇宙での移動時間の長さは大きな課題であったので会場は盛り上がった。しかしただ1人他の生物達とは全く違う事を考えている生物がいた。意思のある星を拾った者である。その者は星が動く寸前の光を思い出していた。それと全く同じ原理なら星は自らの意思で動いたのでは無く何者かによって動かされた事になる。それならば星が物理的に自ら動いた証拠はあれど生物学的に意思がある証拠が見つからないはずである。しかしそうなると。「今回の主役、星を拾いし者ステージへ。」式典の司会がそう告げると背中を誰かに押されて無理矢理ステージに上がらされた。浮かびそうであった星が動く意思の根源は霧散した為仕方なく用意していた原稿を読み上げスピーチを行った。順調に読み上げて大衆の歓声を受けて無事式典が終えれそうだと安堵しながら天井を見上げ気付いた。「太陽だ。太陽しかない。」歓声を上げていた会場が突然の発言に驚き静まり返った。唐突な発言は続いた。「皆さん、星に意思はありません。先程の催し物を見て1つの仮説が浮かんでいました。星は自らの意思で動いたのでは無く何者かの強力な光に当てられ動き出したのでは無いか。さすれば星に意思の証拠が無いのも頷ける。では何者とは誰なのか。そんな強力な光を放てるのは何者なのか。そうです、太陽です。太陽は生きており自らの意思で星を管理している。」
小学2年生の少年はそんな妄想をしながら祖父の形見の太陽系の模型を眺めていた。祖父がまだ生きていた頃、少年は祖父に投げかけた。「太陽ってなんで赤というかオレンジなんだろうね。青とかの方がカッコいいと思うんだけど。」そんな素朴な少年の疑問に祖父は答えた。「見つかっているのが赤だけでもしかしたら宇宙には虹の七色と同じだけの様々な色の太陽があるかもしれないぞ。なんせ宇宙は広いからな。」祖父の答えに少年の新たな疑問は浮かぶ。「という事はおじいちゃんが昔言ってた虹は生き物だった時代があると同じで太陽も生き物かもしれないって事なの?」祖父は答えた。「そうかもしれない。なぜならまだ太陽と直接会って会話を試みた者はいないからな。」宇宙、惑星や星が好きだった祖父は冗談のようい言いながらどこかそれを願っていた。そんな祖父の意思を継ぎ少年はまだ謎ばかりの宇宙を解明しようと勉強していた。そっと模型の太陽を広いあげ祖父との思い出を思い返していた。
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