風竜のトラ君は、魔族の子になりたい 《トラって名前も風竜なのも嫌だぁ~!!》

月杜円香

第1話  風竜のトラ

すい君の馬鹿ァーー!!」


 ボクは、今しがた卵から孵ったばかりだった。竜族のなんだけど、竜族には、卵の内に親から名前を受け取れるという、大特典があるらしい。この特典の所為で……特点の所為で……。ボクはとーちゃんの翠君に「トラ」なんて名前をもらったのだ。


 翠君も、ボクも地球生まれの転生者で、前世は知り合いだったんだ。……と言っても、翠君は、人間で僕はネコ。ついでにボクの命の恩人でもある。


 なんの因果か、ネコのボクが勇者召喚に巻き込まれて、この世界に召喚された時に、翠君は風竜になってこの世界にいた。(ボクを助けた時に死んだらしい)


 命の恩人と異世界で会うなんてと、さんざんボクらはこの世界をひっかきまわして、何とか無事に元の世界に帰れた。そして、新しい飼い主に拾われて天寿を全うしたんだ。その時にボクの「トラ」としての天寿は終わったはずだったのに!!


 何処か遠くの方から、懐かしい声がした。ボクを「トラ」と呼びかける……。

 身体が出来て来るにつれて、自分がネコ以外のモノだと確信したよ。

 固い殻の中で、ゆっくりと身体は作られていった。外からは、優しい子守歌が気持ち良く聞こえてきた。


 すい君は、ボクの父になっていた。そして「トラ」の名前を付けたのだ。


 竜は、卵の時に親からもらった名前を憶えて、一生大事にするのだ。


 ボクは、異世界でトラの名を卵の中で受け取った時に確信した。すい君に会えることと、翠君と同じ風竜に生まれ変わるのだと。


 卵の殻を破って、外を見るとそこは、見覚えのある顔がいた。

 翠君とその妻のエリサルデさんだ。


「トラ、やっと会えたな」


「翠君の馬鹿ーー!!」


 翠君は、とてもショックそうな顔をした。卵から孵っての第一声がこれでは。


「ボクの『トラ』としての生涯は終わってるんだよ!」


「俺は、ずっとお前を待ってたんだぞ。さぁ、再会を喜ぼう」


 竜身の翠君は、人型になって腕を広げて、子竜のボクを抱き締めようとした。


 ボクは、ヒョイと飛び上がって、母親であるエリサルデさんの方に行った。

 エリサルデさんは、ボクを抱きながら言った。


「イザーク、やっぱり、この世界風の方が良かったのではないかしら?」


「でも、俺は、トラと呼びたかったんだ。この世界では、呼べなかったからね」


「勇者にトラなんておかしいもの」


「トラなんて嫌だよ!!」


 ボクは、精一杯の抵抗をする。母さんが撫でてくれる所には、頭にも毛が生えてるようだ。


「でもなぁ、もう「トラ」で竜の長に報告済みなんだ。お前の名前はトラだ!! 大人しく受け入れろよ! それから風竜になったんだぞ。お漏らしするなよ?」


 それを聞いたボクは、情けない声で言った。だって、高いところ怖いもの……。


「おむつは、はかせてくれないの?」


 大真面目に言ったのに!!

 それを聞いた翠君と母さんは、顔を見合わせて大笑いをしたんだ。

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