共生者

沈黙の足音が、朽ちかけた郵便局の床を這う。郵便配達員の森岡静夫は、その名の如く寡黙な男だった。彼の存在感は、彼が日々扱う手紙の中の微細なインクの粒子のように、周囲の空気に溶け込んでいた。
静夫の世界は、表面上は単調な日常の反復に過ぎなかった。しかし、彼の内なる宇宙は、目に見えない生命体たちの壮大な交響曲で満ちていた。彼の爪の下には、無数の微生物が息づいていた。白癬菌との共生関係に入った彼の足指は、まるで生きた実験室のようだった。毎日、静夫は爪の縁をルーペで観察する。その儀式は、彼にとって世界を理解する唯一の窓口だった。

郵便物を仕分ける指先で、彼は無意識のうちに新たな微生物をサンプリングしていた。各家庭のポストは、彼にとって未知の生態系への入り口だった。
ある日、静夫は特異な封筒を手にした…続きを読む