第2話

「民の避難を最優先に! 負傷者は後ろに下がりなさい! 魔術師は全力で足止めを! 絶対に凌ぎ切るわ!」


ある女が声を張り、味方を鼓舞しながらも、最前線で敵を葬っていく。

彼女の名はエリカ・ファルガス。ファルガス家の次女で、アロの姉である。

現場はファルガス領の都、シャナリア。シャナリアを囲う防壁外の平原。防壁門付近に陣取るファルガス軍。突破されれば領民に危機が迫る。


「くっそ! きりがない!」


ついつい汚い言葉が溢れてしまうが、それも仕方ないと言えた。

今回のモンスターは、魔軍狼。

魔狼というモンスターが組織化したもので、単体とは手強さの格が違う。

魔法を使うモンスターは多いが、魔軍狼ほど組織的に効果的に魔法を使うモンスターの群れはほぼいないとされている。

さらに、魔狼はある一体の魔母狼によって無限に生み出される。魔軍狼を潰し切るには魔母狼を狩る必要があるが、そこまで到達できない。させないことが重要だと向こうも理解しているのだ。

少しずつ負傷者が増え、前線が押され始める。これ以上は、と感じた臣下がエリカに叫ぶ。


「エリカ様! お下がりください! あなたに何かがあれば、立て直しが難しくなります!」

「士気が下がる! 領民が死ぬ! 立て直しには父上がいる! 理解したなら血を吐くまで戦いなさい! ここを守ることが明日に繋がる! 繋げなきゃいけない! 私は貴族なのだから!」

「よく言った小娘」


聞いたことがないほど威厳に満ちた声に身が竦む感覚を味わい、エリカは後ろを振り返る。そこにいたのは、伝説上の存在だった。


「──夢でも見ているのかしら?」

「ははっ! 安心しろ、夢じゃねえよ。いや、夢の方が良かったのか? まあ、正真正銘、現実だ」


軽口を叩くエリカに笑いながら、最前線の兵を転移させる。既に魔狼が自分しか目に入っていないことに気づいていたからだ。これからの戦いには、一般兵の戦力は無駄になる。


「……援軍、感謝するわ。戦神、トウガ様。でも、一体誰があなたを……」

「さあな? なんにせよ、奴は対価を用意した。なら結果を用意することが俺の仕事だ」


一歩、また一歩、踏み出す。

その歩みは、敵味方など関係なく、平伏すことが正しいと、そう本能が感じるほど、ただただ圧倒的だった。


「我が名はトウガ! 死にてえ奴からかかってこい! 名誉ある死を与えよう!」


開戦の合図はトウガの名乗り。魔狼は数を活かしてトウガに迫る。

殺さなきゃ、確実に死ぬ。


先頭の魔狼が凍る。氷魔法、現存する魔法の中で最高難易度を誇る。

後続の魔狼の足が止まる。仕方ないと言えた。

氷魔法をここまで綺麗に操る存在がいたこと、魔狼が得意としている炎魔法が一切通じずそのまま凍らされたこと、様々な規格外への驚愕。

当然、その瞬間を見逃すほど甘くも愚かでもない。

続け様に氷魔法を展開。トウガとファルガス軍を氷壁で分断すると同時に、後続二列目の魔狼を凍らせる。


「これで殺し忘れることはねえな。ああ、恨むなら俺じゃなく、アロとかいうガキを恨むといい」


ついに舞台を整えた戦神が、虐殺を開始するのだった。

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無才無能が最強に成る話 @ryu0314

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