第1話
「ふあぁぁあ……。……なんだクソガキ、俺は眠いんだ」
「クソガキじゃない、アロって名前がある。睡眠中召喚して申し訳ないが、力を貸してほしい」
眠りを妨げられたことに苛立ちを覚えつつ、外の喧騒でどうせ眠れないことを理解した大男がのそのそと立ち上がった。
「あ? ……お前が呼んだのか? この俺を?」
「僕が召喚した。生憎これ以外に状況を好転させられる方法を持ち合わせていなかったんだ」
幼くも胸を張り堂々としている子どもに目をやり、訝しむように見つめる大男は、子どもの横に大量に置かれている使い捨ての宝玉が視界に入ると、やがて面白そうに笑い出す。
「ははっ! いいじゃねえか。バカは嫌いじゃねえよ。んで? 何を対価に、何を求める?」
子どもは悩むことなく告げる。
「僕が用意できる自由を与えよう。その代わり、領民を救ってほしい。領地内で
新月の日、その真夜中に発生するモンスターの大規模暴走を指す。基本的に小型のモンスターが多いのだが、今回のそれは異常だった。
「……犬っころが出しゃばってんのか。人間がやんのは厳しいな。ちなみに、自由ってのは? 俺は呼び出されるまで自由だったんだけどな?」
「それだよ」
さっきまでそれこそ自由に爆睡をかましていた大男が不機嫌そうにそういうと、子どもがにやりと笑った。その顔に大男は既視感を感じつつ、子どもの話に耳をやる。
「召喚魔法は誰でも使用可能な魔法だ。あんたを呼び出すのは難易度が高いが、僕が呼び出せるってことはできないことじゃない。そんな魔法に縛られるなんて、自由とは程遠いと思わないか?」
「……なんとかできるのか?」
「できる。確実にな」
そう話す子どもの眼光に少し気圧されつつ、その事実を認めたくない大男は理論立てて考える。
召喚魔法は子どもが言うほど難易度が低くない。当然召喚対象によるが、少なくとも子どもが呼び出した大男は最高難易度にあたる部類だ。
そんな大男が召喚される回数はさほど多くない。それでも煩わしさを感じていることも事実。対策ができるのならそれに越したことはない。
とまあ、なんだかんだ御託を並べたものの、子どもが持つカリスマ性に惹かれてしまったというのは、大男は認めないが理由の一つである。
「ふん。嘘はついてねえな。いいぜ、対価として認めよう」
「……ありがとう。領民を頼む」
「……バカが。ガキは笑っときゃいいんだよ」
アロは嘘はついていなくても緊張はしていた。その緊張が解けたのだろう。微笑みながら感謝を告げ、頭を下げた。
その姿に大男は顔を顰めつつ、アロの望む未来に進むことを約束した。
「よおく見ておけよ。お前が召喚したこの俺の実力をな」
言葉だけを残して大男はその部屋から姿を消した。
窓を開けたアロが見たのは、広がる地獄に舞い降りた、悪魔のような天使だった。
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