無才無能が最強に成る話

第0話


「おい、交代の時間だ」


深夜二時近く、多くの人間が寝静まる時間帯に俺はある家の門の前で見張りをしていた。ここの当主様は貴族にしては珍しく、しっかりと交代制で勤務予定を組んでくれる。先輩たちはここを天国だと言っていたな。


「もうそんな時間か、今日は早かったな」


最近魔物の気配がすると報告が入っていたので少しだけ気を張っていたが、特にそんなことはなくダラダラと時間が流れた。


「じゃ、本日も異常ありません。引き継ぎ事項は以上になります」

「承知しました。お疲れ様でした」


いつもの挨拶だ。目を見て決まった言葉を発する。なんてことはない、いつも通り。


「お疲れさん、寝るわ」

「書類はちゃんと出しとけよ────ん?……お、おい!」


出し忘れてたそれを思い出して少し気分が落ちていると、明らかな疑問符と戸惑いの声が聞こえた。


「なんだよ、特に異常はなかったぞ……は?」


めんどくさいが一応答えながら振り返ると、明らかに異質な存在が、丁重に、大切に置かれていた。


「……いや、何でここに赤子が……?」


おそらく上質な毛布に包まれ、一回り大きいカゴに入れられた赤子は、さっきまでは全く聞こえなかった健やかな寝息を響かせていた。


「……とりあえず報告だ。部隊長はまだ起きてるだろう。俺が呼んでくるから、お前は見張っといてくれ。魔物の報告が最近多くなってるからな」


そう言うと、交代予定だったやつは報告に向かってしまった。仕方ない。勤務時間が伸びるのを覚悟しながら、意味もなく赤子に問いかけてしまった。


「お前、どっから来たんだ……?」

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