第7話 賢者

こうしてハクが訪れたのは学園の図書室だった。


「うーん、多分ここにならあると思うんだけどなー。」


しばらく目的の本を探していると


「あった、これだ」


ハクが手に取ったのは魔術の本だった。そこに書いてあった主な内容としては、魔術には適性があり、それは生まれながらにして決まる。もちろん、適性がない人も存在すればいくつかの適性を持っている人もおり、歴史上では3属性が最多であり、その者には敬意を表して賢者の称号が与えられていた。


「3属性が最多なのか。俺のステータス画面には氷、水、火、光の4つが表示されているから使えるようになれば、俺でもこの賢者を超えられる可能性があるってことだよな」


ページをめくっていくと初級、中級、上級魔術に関しての記述が残されており、それ以上の魔術をかつて賢者の称号を与えられたものは行使したといわれているがそれについての詳しい記録は残されていないと書かれていた。


「習得方法について詳しく書いてあるページはどこだ?」


更に読み進めていくと目的のページが見つかる。それらをすべて見終わった後にステータス画面を再び見ると魔術の項目が取得可能になっていた。


「てかスキルポイントが結構たまってるな。どうせだし、魔術の方も取得してみるか」


こうして、それぞれ4属性の中級までを取得することにする。早速試してみるために学園を出て、この前リリアと特訓をするために来た王都郊外の草原までくる。


「よし、じゃあまず初めに初級の魔術から試してみるか。」


手を前に出して構え詠唱する。


「氷弾(アイス・バレット)」


すると氷の弾が前に向かって放たれる。


「次は中級の魔術でも試してみるか」


自分の指先を剣で軽く切り、魔法を詠唱してみる。


「キュアミスト」


すると指先の傷は跡形もなく消えていた。


「なんか傷が治っただけじゃなくて体が軽くなった気がする。これから戦闘中に回復魔術が使えるのはありがたいな」


他の魔法に関しても試しているといつの間にか辺りは暗くなってしまう。


「明日も朝早いし、そろそろ帰るか」


こうして帰宅する。次の日からもおおよそ同じような日々を過ごしていると休日を迎えた。


「こっちの世界にも休日ってあるんだな。とりあえず、今日はどこに行こうか。試しにちょっと遠出でもしてみよう」


こうして訪れたのは近頃鍛錬のために訪れていた草原だった。


「いつも此処までしか来てなかったけど、奥の森の方に行ったら何かないのかな。試しに行ってみるか」


こうして歩みを進めるハクだった。しばらくするとこの前とは比較にならない大きさの洞窟が見えてくる。


「せっかくだしちょっとだけ入ってみるか、隠密を使って入ればたとえ敵がいたとしても簡単には気づかれることはないだろうし」


こうして中に入ると中は真っ暗で生き物がいる様子はない、幸い一本道だったため迷わずに進んでいると明かりが見えてくる。


「なんでこんな洞窟に明かりがあるんだ?何かあそこにあるはず」


罠を警戒しながら慎重に歩みを進めていく。すると見えてきたのはハクの2、3倍はあると思われる大きな扉だった。


「よくゲームとかである展開だとこの先にはボスが待ってますとかいう展開なんだろうな。とりあえず、試しに開けてみてやばそうなやつがいたら帰ろう」


恐る恐る扉を開けて中の様子を見るとそこには王座に座っている骸骨がたたずんでいるだけでそれが動く様子などは全くなかった。そのまま、骸骨に近づくと何かを手に持っていたためそれを読んでみる。


[私はかつて賢者と呼ばれていた。私を見たものは尊敬の念を示し、崇め、称えていた。それに対し私は国の象徴として国を守っていたし、人々が困っていれば手を差し伸べもした。


そしてある時、私は1人の子を拾った。その子は路地の裏でただぽつんと座っていた。普段の私だったら気にも留めなかっただろう。しかし、その日だけは何の気まぐれかその子に食べ物を与えた。そのせいか懐かれてしまい家に連れていくことにした。普段だったら作業の様に食べていた食事もその子が笑顔で食事を頬張っているのを見ると幸せな気持ちになれた。それからの毎日は平和だった。一緒に遊んだり、本を読み聞かせてあげたり、名前も付けてあげることにした、ルルという名前だ。そんな日々は今までの人生で一番といってもいいほどにとても充実していた。


そんなある日だった。国の最南にある地域が他国によって陥落したと知らされたのは。この一件により、私の仕事への態度が以前と比較して悪くなったことが問題視された。さらに、これを好機と見た私を嫌っていた貴族たちはあらぬ罪を私に被せ、国外へと追放されることになってしまった。


よほど私が邪魔だったのかは知らないが、その後は追っ手に命を狙われる日々だった。そんな中でもルルがいてくれたおかげで私は幸せを感じることができていた。ある日、ルルに魔術に関して教えているといきなり、草陰から魔物が襲い掛かってきた。疲れもあってか反応が遅れてしまいルルを庇おうとして前に出るがいくら経っても私が襲われることはなかった。ルルの方を向くといつもと異なる点があったのだ。それは、決して人間にはあるはずのない角だった。そう、ルルは人間ではなく魔族だったのだ。最初はそのことに戸惑っていたが今更彼女が魔族だったからと言って私の気持ちは変わらない。こうして追われ続ける日々が続きながらも二人一緒に日々を過ごしていた。


しかし、そんな日々は唐突に終わってしまう。ある魔術師の一撃を私が肩に受けてしまったのだ。これによって年老いてしまった私の体が自然に治癒するのは難しく、日に日に体調は悪くなっていくばかりだった。そんな私のことを思ってかルルは治す方法を探すといって出て行ったが私の体だ。私が一番知っている。恐らくルルが戻ってくる頃には生きていないだろう。だから姿を隠すことにした。


もし私のこの日記を見て憐れんでいるものがいるならば私の背後の部屋の机の上にある手紙をルルに届けてくれるとありがたい。ささやかながらプレゼントも用意しておいた。それでは、これを見たものに幸多からんことを願う。]


読み終わり、本を閉じて不意に空を仰ぐ。


「ルルか...。魔族なら寿命も人間と比べて長いはずだし生きているかもしれない。とりあえず、奥の部屋に行ってみるか」


奥の部屋へと行くとそこは机の上に置かれた手紙と本以外は何もない質素な様子だった。手紙は保存に関する魔法がかけられているのかとてもきれいな状態だった。


「手紙はすごくきれいだな、これなら無事に運べる。今度、ルルって子の情報を集めてみようか」


こうして手紙を懐にしまいもう1つの方の本に目を向け、ぱらぱらとめくり簡単に目を通すと


「これって魔術の本じゃないか、しかも超級て書かれてるし、上級の上かな?おかしいなスキル画面には表示されてなかったはずだけど」


こうしてスキル画面を開いてみると


スキル解放条件を達成しました |賢者の残したもの|


という通知が表示され、魔術の項目を改めて確認してみると超級の欄が解放されていた。


「俺のスキルは表示されているものが全てじゃなかったのか。今回みたいに条件を満たせば新しいスキルも解放されるはず。これからも探索は続けていかないとな。それにしても名前は分からないけどこれを残した賢者はすごく優しい人だったんだろうな。読み手が分かりやすいように至るとこに注意書きとかアドバイスが書いてある」


こうして洞窟の探索が終わったハクは入ってからそこそこ時間が経っていたこともあり王都に帰ることにしたのだった。

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鬼畜ゲーの世界に来たけど自分らしく生きてみようと思う!! 水戸 一葉 @mito_ichiyou

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