第6話 リリアとの登校
翌朝、まだ日が昇り始める前に準備を済ませてレインのもとを訪ねる。
「レインさん、今日はよろしくお願いします」
「うん、よく来たね。それじゃあ始めよう」
こうしてレインとの鍛錬が始まり、最初は基礎となる身体作りのための筋トレ。次に剣の技術についての指南という流れで行われた。これだけ聞くと普通に感じるが筋トレはハクの実力を見極められ設定された、重り付き、制限時間付きのハードなランニングなどでどれも自分の限界を乗り越え達成できるというものだった。
また、疲労した状態から指南通りに剣を自分の思うとおりに振るうというのは難しく苦戦する。そんな中、何度ももう無理だと弱音を吐き、あきらめたくなるがそのたびにリリアのことを思い出し、自分を鼓舞することによって何とか乗り越える。
「はぁ...はぁ...。ありがとうございました」
鍛錬を終えるとハクは大量の汗をかきながら倒れこむように地面に膝をついた。そんなハクにレインは濡らしたタオル飲み物とともに渡して声をかける。
「うん、初日にしてはよく頑張ったね。これから毎日、徐々に負荷を増やしながらやっていく予定だから今日はゆっくり休んでね」
「はぁ...はぁ...。はい、わかりました」
渡されたものを息をするものやっとだという様子で受け取り、そのまま地面に横になる。
(付いて行くのがやっとだった...。それにレインさんは俺のメニューから更に負荷を増やしてやってたし、このままじゃいつまでも追いつけないままだ)
ハクは男を破ったことにより少なからず自身の実力を過信していたが上には上がいるということを昨日、今日で改めて実感する。
(早く...、早く実力をつけないと)
焦りを感じながらもリリアが家に迎えに来る時間が迫っていたため急いで家に帰宅する。すると、ハクが家に戻ったタイミングでリリアが迎えに来る。
「あれ?今日は少し早めに来たんだけどこんな朝早くにどこか行ってたの?」
「ちょっと気分転換に散歩してただけだよ」
リリアはいつも遅刻寸前まで寝ているハクが早起きしていたことに驚き、どこか不思議そうにしながらも納得する。
「そうなんだ、じゃあ今日は余裕もって早めに行こう!」
「分かった、ちょっと待っててもらってもいい?すぐに出るから」
そう言ってハクは素早く制服に着替え、あらかじめ準備していた荷物を持って外に出る。
「本当に早いね、いつもこの時間だったら寝てるのに」
「これからは生活習慣を改めることにしたんだ。いつまでもリリアに起こされてばかりじゃ申し訳ないしね」
「ふーん、でもこうやって早く出るとハクとゆっくり話せるから嬉しいな」
「俺も嬉しいよ。でも毎朝迎えに来るのが面倒だったら無理して来なくても大丈夫だから」
軽く流すようにハクが言うとリリアが服の裾を軽くつかむ。
「それは嫌、こうやってハクと一緒にいて楽しく話せる時間が減ったら悲しいし」
少し拗ねているようにも見えるリリアの様子とその可愛い仕草を見てハクは悶える。
(やばい、可愛すぎる...!!)
「わかった、じゃあこれからもお願いしてもいい?」
それを聞いたリリアは顔を上げて嬉しそうに答える。
「うん!これからもずっと迎えに行ってあげる」
そう答えるリリアを見てハクはとてつもなく抱きしめたいという衝動に駆られるが必死に我慢する。
「そうだ、もし俺にできることがあったら言ってよ。何でもやるからさ」
するとリリアは少し恥ずかしそうにしながら
「じゃ、じゃあ、これからは手を繋いで一緒に登校したい」
嬉しさ、恥ずかしさ、抱きしめたい欲など、いろいろな感情が入り混じりハクの脳はパンパンになってしまう。
「いいよ、手、繋ごっか」
そう言ってハクがリリアの手を取り握ると、リリアは一瞬ビクッとして驚きながらも握り返してくる。そして嬉しそうに何度もぎゅっとしたり、嬉しそうに微笑んでいるリリアの様子を見て胸がきゅっとなるような感覚に襲われる。
(っ....!あぁ、もうっ...、可愛すぎる!)
ついに限界がきて頭が真っ白になり思考が停止してしまう。しばらく、そのまま歩いていると
「ねぇ、ねえっ、ハクってば!聞いてる?」
そんな声に現実へと引き戻され、リリアの方を向く。すると少し頬を膨らませていた。
「ごめんごめん、聞いてなかった。もう一度行ってもらってもいい?」
「昨日ヴィクトル様と何を話してたのって聞いたの!」
「あ、あぁ。別に大したことじゃないよ。ただ、あそこを氷漬けにしたのは君かって聞かれただけ」
するとリリアは疑っている様子で
「本当?それにしては長かった気がする」
「本当だって、あとは軽く雑談したぐらいだよ」
「へ~そうだったんだ。そういえば、ハクはヴィクトル様に何をお願いしたの?」
「いや、特に思いつかないし大丈夫ですって断ったよ」
(よかった、理由を事前に考えといて。絶対に聞かれると思ったんだよなー)
「えー、絶対に何かお願いしといた方がよかったよ。もったいない」
「いいの、いいの。こうしてリリアと一緒にいるだけで十分だから」
「そ、そんなこと言ったら私だって一緒にいるだけで十分だもん」
それを聞いてハクは冗談めかして言う。
「そういえば、ヴィクトルさんにサインお願いしてもらった色紙をデレデレと大切そうに抱えてる人がいた気がするなー」
「だ、だってヴィクトル様は小さい頃からずっと憧れてた人で嬉しかったの」
「分かってるって、それにリリアの思いは昨日聞いたしね。あんなに熱い事言ってくれて嬉しかったなー」
「もう!からかわないでっ!」
そんなやり取りをしているといつの間にか学園に着く。そのままリリアに合わせて教室に行くと中はまるで大学の講義室のような作りになっていた。
「窓際の方で一緒に座ろう」
そのまま一緒に座るがここではハクは違和感を感じ取る。
(なんだ?なんか他の生徒から見られているような、怖がられているような、そんな気がする)
ここでリリアと初めて会った時を思い出し納得する。
(まぁ、仕方ないな。多分、周りにも普段から冷たい態度を取っていたはずだし)
しかし、ゲームを進めていなかったため元のハクを彼は知らなかった。普段の彼は人を寄せ付けることは決してなく、リリアと登校するにしても数メートルは距離がある。そして何より、隣の席に人が座ることを嫌っていたということを。周りの雰囲気を見てリリアが
「ハクが変わったことをみんなに教えてあげなきゃ、そうすればきっとハクもみんなと仲良くなれるよ」
「そんなことしなくても俺は大丈夫。それに、いきなり変わりましたって言われても困るだけだよ」
(なにより、この学園には帝国の内通者がいる可能性があるし、それが生徒だというのもあり得る。現時点で急いで交友関係を広めてもリスクの方が大きいだろう。)
「まぁ、ハクがそういうならいいけど」
しばらくすると先生と思わしき人が入ってきて授業が始まる。
ーーーーーーーーーーーーー
こうして何事もなく学園生活の1日目が終わる。やりたいことがあったため、用事があると伝えてリリアには先に帰ってもらう。
(ほとんどの教科は前世で習っていた知識を使えば簡単だったけど、歴史と魔術に関してはさっぱりだった。でも、実技の剣術はレインさんとの鍛錬のおかげもあって余裕だったな)
そんなことを考えながら学園の案内図を見る。
「よかった、やっぱりあった」
こうしてハクはその部屋を目指して歩き始めるのだった。
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