第5話 騎士団の試練と新たな決意

翌日、学校に行こうとした2人だったが家を出ると突然声を掛けられる。


「初めまして、僕はレイン、騎士団の者だよ。君たちがハク君とリリアさんだね。昨日の件で騎士団の方で調査をしているから話を聞かせて欲しい。もちろん、学校の方には話を通してあるから心配しなくて大丈夫だよ。」


いきなり、話しかけられたということもあり警戒していたが騎士団の者だということを聞いて警戒心を解く。


「分かりました」


連れてこられたのは白と青が強調された大きな建物だった。


(これが騎士団の本部かな?それにしても立派だ、多分今まで見た建物の中で一番大きいんじゃないか)


周りを見ると同じような格好をした大人たちがたくさんいた。唯一、違ったのは制服の胸元にある星の色とその数。しかし、レインさんの胸元には枠のみが縁どられた無色の星1つのみがついているだけだった。


(胸元の星にはどんな意味があるんだろう。多分、階級とか所属を表してるのかな)


そんなことを気にしながらもレインさんに付いて行き、しばらく歩いた後、他の扉とは一線を画す精緻な装飾が施された扉の前で止まる。レインさんがノックをすると、中から低く威厳を感じさせる声で返事が返される。


「入りたまえ」


部屋で待っていたのは白髪の60代ぐらいのがっしりとした体つきの男だった。ただ、座っているだけでその場の空気が彼のものになっているかのように感じさせる。次の瞬間、突如として殺気を向けられ、反射的にハクはリリアの前に出て剣を構える。


「なかなか、いい反応をするな!」


「団長、ハク君たちをからかうのはやめてくださいよ」


そんな様子を見て自分は試されたのかと理解し警戒を解く。


「2人ともごめんね、うちの団長は見込みのある人を見つけるといつもこうやって試すんだ。どうか気を悪くしないでほしい」


「いえ、大丈夫です。特に何かされたわけでもないので」


団長と呼ばれていた男は椅子から立つと真剣な顔つきに代わり、ハクたちの方を向く。


「ハクとリリアといったな、この度はよくやってくれた。騎士団代表として改めて礼を言わせてもらいたい。本当にありがとう。そして、騎士団がもっと早くこの件を解決できていればこのようなことにはならなかったはずだ。本当にすまなかった」


先ほどの様子からは考えられないほど真剣に頭を下げられ、とっさのことに困惑してしまう。


「頭を上げてください!今回の件は2人とも無事だったわけですし大丈夫です!」


「ありがとう。しかし、騎士団の対応が遅れて2人に危険が及んでしまったことは事実だ。だから、何か私たちにできることがあったら言ってほしい」


ここで今まで一言も言葉を発さずにいたリリアが口を開く。


「あっ、あの!もしよかったらヴィクトル様のサインをもらえないでしょうか!」


緊張した様子で尋ねると団長であるヴィクトルは快く応じる。


「レイン、確かサイン用紙があったな。それを持ってきてくれ」


レインさんはしばらくすると用紙を持って部屋に戻ってくる。それにヴィクトルはサインをしてリリアに手渡すと、リリアは満面の笑みでお礼を言って大切そうに抱える。


「他に何かしてほしいことはないか?サインだけでは礼になるまい」


「いえ!私はこれでもう充分です!だって憧れの人と直接会ってサインまでいただけたのですから!」


リリアのそんな様子を見てハクは少し不満げになる。


(騎士団の団長だか知らないけどあんなにデレデレしてさ、昨日なんかあんなにいい雰囲気だったのに)


団長はハクの方を見て


「ほら、リリア君。ハク君が拗ねてしまっているよ」


面白がっているかのような表情でハクの方を見ながら言う。リリアは嬉しそうに


「ハク、嫉妬してくれてるの?」


「別にしてないから」


そんな問いに対して恥ずかしさからか、つい冷たい態度で接してしまう。しかし、リリアはそんなハクの心情を察するかのように


「大丈夫だよ。私の1番はいつだってハクなんだから」


そう言われてうれしくなるハクだったがうまくリリアの方を見ることができない。返事をしようとするも余裕がなく淡白な感じになってしまう。


「そう」


(そんなの昨日の様子を見れば伝わるよ。でも、やっぱり目の前で他の男にデレデレとされるのは嫌なんだ...)


そんな中、ヴィクトルが咳払いをする。


「我々もいるということを忘れないでくれ」


2人の世界に入っている様子を見て気まずそうにしていたヴィクトルだったがとりあえず、一区切りついたのを見て話をする。


「ひとまず、リリア君は他の部屋で待ってもらっても大丈夫かな。私はハク君と2人で話したいことがあるのでな」


レインの案内に従いリリアは別の部屋へと移動した。


「ところで話とは何ですか」


「今回、君が戦った男に関して調べてみたのだが、帝国の者だということが判明した」


深刻そうな顔でそう告げるヴィクトルだったがまだこの世界のことについて知らないことの多いハクには帝国と聞いてもあまりピンとこない。


「それに加え、あの男は学園の情報を持っていた。恐らく、前々からその情報を利用して学園の生徒を誘拐していたのだろう」


それを聞いてハクは一気に危機感を感じる。


「つまり、学園内に帝国の内通者がいるかもしれないということですね」


ヴィクトルは静かにうなずく。


「まだ学園内に内通者がいると確定したわけではないが、一応、騎士団を学園内に配置し警備につかせた。しかし、いつ、どこで、なにがあるかわからない。だから、君も気を付けて欲しい。それとこの件は口外しないでくれ。むやみに生徒の不安を煽りたくはないのでな」


「分かりました。リリアには今回の事件の関係者ですし伝えても大丈夫ですか?」


「いや、彼女に伝えるのはやめておいた方がいい。さっき君たちが部屋に入って来た時に実力を試させてもらったが君は瞬時に動き、対応していたが彼女の方は固まってしまっていた。まだ、実力不足だろう」


(確かにこの前、剣を交えたときに実力は俺の方が上だということは証明できたけど僅差だったし、そこまで離れていないように思うんだけどなぁ)


「少し不満そうだな、だが戦場では一瞬の判断が命取りになることもある。それに森を氷漬けにしたのは君だろう。あんなことができるものは騎士団でもそう多くはいない」


ハクもあの場面を乗り越えたことにより、自身の成長を実感してはいたため、ヴィクトルの言葉を聞いて自分を納得させる。


「とりあえず、君の本当の実力を見てみたい。もしよかったら模擬戦でもしないか」


「分かりました、お願いします」


ハクとしても自分より格上の相手にどれだけ自分の技術が通用するのかを試すいい機会だったため喜んで受ける。

連れてこられたのは地下の何もない広い部屋だった。


「ここなら広いし壁も特注のものだから壊れる心配はない。存分に実力を見せてくれていいぞ。一応ハンデとして俺は利き手ではない左手を使ってやる」


あまりにも舐められた態度を取られたため、頭にくるがすぐに頭を落ち着かせ剣を構える。


「いつでもいいぞ」


ハクは地面を強く蹴り、ヴィクトルに切りかかるが難なく躱されてしまう。


「俺は使わんが君は剣の能力も自由に使ってくれて構わないからな」


(くそ、余裕で躱される。こうなったら出し惜しみしてる暇はないな)


斬撃を放つと予想通りヴィクトルはそれを薙ぎ払い砕く。直後、その破片によって視界が奪われる。


「雪月花」


自身を中心として周りは凍り付くがハクはまだ攻撃の手を止めない。技すらも囮に使い、ヴィクトルの背後に回り込み剣を振るう。その手には確かに捉えた感触が伝わった。しかし、その一撃が届くことはなかった。なぜなら、振り返ってもないヴィクトルだったが剣を構える手を背後に動かし防いでいたからだ。そう、まるで後ろの方も見えているといわんばかりに。


「発想自体は悪くない。しかし、考えが甘すぎる。ある程度の実力に達したものならば気配で相手を感じ取ることくらいは簡単にできる。それに初めの打ち合いで感じたがどうやら体の動きは悪くない。だが、思考が動きについていけてないようなちぐはぐ感を感じる。それに加えて、君は戦闘経験があまりないせいか細かな駆け引きや剣を扱う技術が足りてないな」


自身のことをこの一瞬にして見定められたことに悔しさを感じつつも助言を聞きしっかりと記憶に残す。


「模擬戦はここまででいいだろう。ああは言ったが年齢を考慮すれば悪くない。将来は騎士団に入るか?なかなかいいところまで行けると思うぞ」


上機嫌にそう言うヴィクトルだったが直後、思い出したかのようにハクに尋ねる。


「そういえば、君は何かしてほしい事はないのか?」


それを聞いてさっきまでのハクには特に何も願いはなかったが模擬戦を経て思いつく。


「俺に稽古をつけてください!リリアを守れるぐらい、強くなりたいんです!」


ハクのまなざしには確かな覚悟が感じられた。ヴィクトルは頷き


「分かった。特別に稽古をつけてやろう。ただ、俺も最近は事件が多くてその対処に追われているからあまり時間が取れない。だから、しばらくはレインに稽古を頼むとしよう」


「ありがとうございます!」


その後、リリアと合流したハクはリリアから少し離れたところでレインに話しかける。


「レインさん、すみません。後でヴィクトルさんからお話があると思うんですけどこれから稽古をつけてもらうことになりました。よろしくお願いします」


「分かった、これからよろしくね。でも、僕の鍛錬は他の人みたいに甘くないし、途中で投げ出すことはさせないから覚悟してね」


「分かりました!」


こうして、別れの挨拶を済ませた2人は一緒に家に帰るのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る