第4話 強敵

「よお、ずいぶんと部下が世話になったみたいだな」


辺りを見渡し、楽しそうにハクに向かって投げかける。


「それにしても酷いありさまだな。まぁ、そろそろ拠点も変えようと思っていたころだしちょうどよかったか」


そんな男の様子を見ながらハクは反撃のための策を練る。


(隠密を使ってもこの状況じゃ意味がないしな、かといって下手にリリアから離れると人質に取られる可能性もある)


「何もしてこないならこっちから行かせてもらうぞ」


大剣を構えた次の刹那、一瞬にして目と鼻の先まで距離を詰められる。振り下ろされた大剣を何とか薙ぎ払う。即座に反撃を試みるがすぐに距離を取られ、さらに武器のリーチの差もあったため相手に届くことはない。また、リリアを背にして戦っているため、相手の背後に回り込むことはできない。しかし、ここでリリアとの戦闘を振り返る。


(確かリリアはあの時、斬撃を飛ばしてたはず。俺にも似たようなことができるんじゃないか)


意を決して男の方に向かい剣を構える。目を閉じ相手の気配をとらえ、柄を握っている手に力を籠める。そして、相手が動き出すのを感じると同時に振り下ろす。


するとリリアが練習で使っていたような氷をまとった斬撃が相手に向かって放たれた。その斬撃は相手にあたり、直後氷の砕けた破片による煙で相手の姿が隠される。


(よし、やったか)


そう確信し、リリアのもとに向かおうとした瞬間、近くの木にハクの体は打ち付けられる。


「なかなかやるじゃねえか小僧、おかげで俺の大剣が折れちまったじゃねえか。まあ、俺の本職は拳闘士だからいいんだけどな」


ハクは痛みで顔をゆがませながらも剣を地面に突き立て何とか立ち上がる。しかし、男はハクの様子を見てみぞおちに向かって強烈な一撃をお見舞いする。


「ぐはっ!」


必死に立ち上がろうとするが体が言うことを聞かない。


「もう終わりか、もっと楽しませてくれると思ってたのにな。期待外れだぞ、小僧」


男はそういうとリリアの方を向き笑う。


「まあ、いい。お前がこれ以上何もできないというならそこでこの女が苦しむ姿でも見ているといい」


ハクは必死に剣を支えに立ち上がろうとするが足がふらつきすぐに倒れてしまう。そのまま、足を引きずって何とか男に追いつこととするが離されていくばかり。手は泥にまみれ、腕は皮がすりむけてしまい血がにじむ。


「くそっ、くそっ.....!」


(なんで俺はこんなにも無力なんだ、目の前の女の子1人すら守れないなんて!)


何とか最後の力を振り絞って男に向けて剣を投げる。その思いが通じたのか。かすりはするが致命傷には至らない。


「面白れぇ、あの状態で反撃してくるとは」


そのタイミングでリリアが目を覚まし、とっさに状況を判断してハクの方を向いた男に切りかかるが軽々と腕をつかまれ投げ飛ばされる。それにより足をひねってしまったのかうまく立ち上がることができない。


「やめだ、まずは女からいたぶってやろうと思ったが、興が乗った!お前から痛めつけてやることにしよう」


男はハクに近づき、首元をつかむ。その間、男の背後にいるリリアに向かってハクは何とか口を動かし伝える。


(助けを呼びに行ってくれ)


それを読み取ったリリアは悔しそうに涙を流しながらも即座に町の方へ走り出す。


(これでよかったんだ。リリアに逃げてくれと直接言っても素直に聞いてはくれなかっただろうけど、相手との実力差を理解しているリリアには自分1人がこの場に残ってもどうしようもないことは理解しているだろうから)


リリアが逃げる時間を少しでも稼ぐために男の腕をつかむ。


「ふっ、女を逃がすための最後の悪あがきってわけか。大した男だな。でもな、あの女のスピードじゃお前を今から痛めつけた後に追いかけても間に合うぞ。ほら、必死に抵抗してみろ!」


男に殴られ、飛ばされては何度も気を失いそうになるがはいずり睨み、抵抗するのをやめない。それこそ彼女を守るために必死で。しかし、どんな人間にも限界はある。


「そろそろ、飽きてきたししまいにするか。お前で遊びすぎたおかげで女には追い付けないだろうが。お前を売り飛ばせばいい金になるだろう。幸い、変わった趣味の貴族様もいるだろうしな」


男はハクのみぞおちめがけて蹴りを入れる。


「ぐはっ...!」


その強烈な一撃によってハクの視界は霞み、ついには気を失ってしまった。


次の瞬間、ハクは目を開けると何もない白い部屋にいた。その部屋の真ん中には自分と同じ姿の男が一人立っていた。


[俺はみっともない姿を晒すなと前に言ったはずだが]


その姿、冷たい口ぶりを見て元のこの体の持ち主であるハクであるということを理解する。


「ごめんごめん、でも俺だって頑張ったんだぞ。慣れない体に初めて握る剣、それにあんなに強い敵まで、リリアを逃がすことができただけほめて欲しいくらいだよ」


[あんな三下ごときに負けているようではお前もリリアもいずれ死ぬ]


「っ...、ならどうしろっていうんだ!」


[強くなれ、お前には圧倒的に剣の腕もなければ経験も足りない。それに剣の本当の能力の一部も理解していない]


苦虫を噛みつぶしたような顔でこぶしを握り締めていると。


[仕方ない、お前にはリリアを助けてもらった恩もある。今だけは手助けをしてやろう。...と唱えろ。今はそれで十分だ]


気づくと元の場所に戻っており目の前には先ほどハクを蹴り飛ばし再度近づいてくる男の姿が見えた。


痛みでまともに動かない体に鞭を打ちながらなんとか立ち上がり、剣を構える。


「雪月花」


直後、辺り一面は凍り付き、男は一瞬にして体の中まで凍り付かされることによって自身が認識することなく絶命した。


「やったのか...」


最後の力を振り絞ったハクはそこで再び意識を失ってしまいその場に倒れてしまうのだった。


ーーーーーーーーーーーーー


目が覚めると知らない天井が見えた。


「ここはどこだ?」


辺りを確認しようとすると直後、ハクを衝撃が襲う。


「ハっ、ハク...!無事でよかった、本当に生きててよかったよぅ...」


泣きながら飛びついてきたリリアを見て


「リリアはこの頃よく泣いてるな」


冗談交じりにそんなことを言うと


「だって、だってハクが死んじゃうって考えたら涙が止まらなくて騎士団の人に助けを求めに行ったんだけど急いで戻ったらハクがいた場所が凍ってて、心配でハクを探したら倒れてたんだもん...」


よしよし、と頭をなでながらリリアが落ち着くようになだめてあげる。


「せっかく、ハクが好きって言ってくれたのにこれでお別れなんて絶対に嫌だった」


「うん、心配させてごめんね」


すると再びリリアはハクにしがみつき泣き出してしまう。


しばらくして、リリアが落ち着いた後、あの後何があったのかを訪ねると


「騎士団の人に一緒に来てもらったんだけど私たちを襲った男が氷漬けになって死んでいたの。でも、その男はもともと指名手配されていたっぽくて確認が取れたから今度お礼もかねて尋ねにくるって言ってたよ」


(騎士団か、この世界ではそれがもとの世界で言う警察みたいな役割を果たしているのか)


「ちなみにこの部屋はどこなの?」


「ここは教会だよ、指名手配されていた人を倒したこともあってか特別に教会で1日治療してくれたんだよ」


(じゃあ、この教会が病院みたいなものなのか)


「でも、氷漬けにしたのってハクでしょ。あんなに大規模な技どうやったの?」


「ただ、剣の能力を引き出しただけだよ」


「すごい!ハクってばもう剣の固有の技を覚えちゃったの?確かあれって上級生の限られた人にしか使えないんじゃなかったっけ?」


リリアは目を輝かせてハクのことを見る。


(あれは本来、限られた人にしか使えないのか。なら、知らない人にあまり知られるのはよくないな。また狙われるかもしれないし)


「リリア、このことは2人だけの秘密にしよう。この力が知られればまた誰かに狙われるきっかけを作ることになるかもしれないし」


その言葉に真剣な表情に戻り頷く。


(でも、これで分かったな。あの剣にはまだ能力が秘められていることが。それに、今のままじゃ力不足だし鍛錬する必要がある。加えて魔術の方も学んで習得できるようにしなきゃな)


ハクは改めてリリアの方を向き、


「でも、リリアが無事で本当によかったよ。これからはもっと強くなって君をしっかり守れるようになるからそれまで待っててほしい」


リリアは少し恥ずかしそうにしながらも嬉しそうにする。


「わかった、でも私だってハクを守れるぐらい強くなるんだから」


こうしてお互いの無事を確認しあい喜び合った2人はしばらくして教会の人に体調の確認をしてもらうと再生能力に驚かれながらも健康だと帰宅の許可をもらい、仲良く帰る。すると2人を待っていたのは心配して待っていたお互いの両親で無事を確認したことを喜ばれながらも行先も伝えずに勝手に郊外に出ていたことを叱られるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る