第3話 気づき

連れてこられたのは王都を離れ、広大な草原が広がる中、ぽつんとそびえたつ一本の大樹の足元だった。


「ちょっとだけ2人で練習する前に時間もらっていい?」


そう言って了承を得たハクはリリアと少し距離をとる。


(勢いで練習を引き受けちゃったけどどうしよう。こういう時、ゲームだったらなぁ。例えば、ステータスオープン!とか念じれば...。あれ?なんかほんとに画面が表示されたんだけど!?書いてあるのは、基礎的なステータスと、スキルポイントなにこれ?100って多いのかな?えーと、剣術Ⅰを取得するのに2ポイント!?じゃあ取り放題じゃん!)


しかし、スクロールをしていくと薄暗く表示されているスキルがいくつもあった。


(薄暗く表示されているスキルは取得できないのか。つまり、元のハクが努力して得たものしか獲得できない。魔術の方は一つも取得できないな。でも、表示されてるってことは取得可能なはずだし、今後、習得するための手がかりを見つけるとしよう。とりあえず今はリリアとの練習に必要そうなものだけを取っておくか)


こうしてハクは剣術Ⅴまでを取得し、その他、敏捷性Ⅲ、防御力向上Ⅳなどの基礎的なものを取得した。


(スキルの最高レベルが5なのか、そして最高レベルまで上げようとすると20ポイント必要と。結構、ポイントの使い方は考えなきゃいけないな)


「残り、22ポイントかだいぶ減ったな」


「何が減ったの?」


突然背後から話しかけられる。それに対し、驚いたハクは


「えっ、いや!何でもないよ」


と答える。その回答にリリアはハクが何かを隠していることを感じ取り、不服そうに頬を膨らませる。その様子を見て彼女の機嫌が悪くなったことをハクは感じ取った。


「そんなことよりそろそろ練習を始めよっか」


「うん!」


上手く彼女の興味を逸らすことができたハクは一安心する。


「じゃあ始めよっか!」


笑顔でそう告げる彼女の手にはまるで炎を連想させるような紅く美しい剣を持っていた。


「まって、剣なんて持ってないんだけど」


そういうと彼女は不思議そうに首をかしげて


「いつも普通に出してるじゃん、こんな感じで」


すると彼女の手元から剣が霧散し消えたかと思うと再び手元に現れる。


(どういうことだ?魔術で剣を召喚でもしているのか?でもさっき、俺もいつもやってるって言ってたよな。スキルの一覧を見たけどまだ、何も習得できなかったし。念じたら出てくるのかな?)


目を閉じ深呼吸をして心の中で念じる。するとハクの手元には真っ白なまるで雪を連想させる剣が現れた。剣が出現したことにより突然、右手に負荷がかかり驚くハクだったがそれを悟られぬように冷静を保つ。


「じゃあ、始めようか。お手柔らかに頼むよ」


その言葉を聞いて切りかかってくるリリア。さっきまでの様子から一変して真剣なまなざしへと変わっている。そんな様子に気を取られ反応が遅れるがぎりぎりのところで剣を逸らせて軌道を変えることで防ぐ。


(あぶなっ、ぎりぎりセー...っ、うおっ)


完全に防ぎ切ったと安堵していたハクだったが直後、リリアがこちらに向けて剣を横に薙ぎ払う。ハクとの距離は離れていたが、炎をまとった空をも切り裂く斬撃によってハクを追い詰める。


(どうする?一応スキルはとっておいたけど剣なんて使ったことはないしこの剣であの斬撃に対応する方法なんてわからない)


パニックに陥りかけていたハクだったがその瞬間、どこからか声が聞こえてくる。


[いいから剣を振れ。俺の体でみっともない姿を晒すな]


その声に従い、とっさに斬撃に向けて剣をふるう。すると刀身が斬撃に触れたかと思うと炎は瞬く間に消えた。


「よかった、やっぱりハクはハクなんだね!じゃあ次はもっと本気で行くよ!」


リリアは嬉しそうな表情で再びハクに切りかかる。一方、ハクの方は先ほどまでの自信の無さが嘘のようにまっすぐとリリアの方を向き構える。


(多分、元のハクがまだ俺の中にいるんだろう。さっきハクとして生きると決意したのに弱気になってどうする!この体には元のハクが努力して得た技術が身についている。だったら俺はそれを信じて剣を振るうだけだ!)


向かってくるリリアに対して剣を構える、その姿に迷いはない。全身の感覚を研ぎ澄ます、まるで時の進み方が遅くなっているのではないかと感じるほど鮮明に動きをとらえる。今は自らの呼吸の音すら煩わしく、自身の動きすらも遅く感じる。そして、近づいてきたリリアの動きに合わせて剣を振るう。直後、リリアの剣は手元から離れ、少し離れた地面に突き刺さる。


「うわー、やられちゃった。降参、私の負け」


この一言により、さっきまでの張りつめた空気が嘘だったかのようにほだされる。


「いや、リリアもすごかったよ」


「とか言って、全然余裕だったくせに。最初の方は油断してそうだったしいけるかなって思ったんだけどなぁ」


悔しそうに若干すねた様子でそう言う。


(でもこれで確認できたな。俺自身が経験していなかったことでもハクとしてか体が覚えてるってことを。後はこの体に俺が慣れるために練習を重ねればいいだけだ)


練習を終え、リリアに先に帰っておいてほしいと頼み、一人で鍛錬を行う。試しに素振りを行ってみるが重心がぶれることがなければ剣の重さに体がもっていかれるということもない。その姿はまるで長い間鍛錬を重ね、剣とともに生きてきた熟練の者のようだった。


(ステータスオープン)


表示されたウィンドウにはさっき見たものから変化はない。


(この剣の能力をまだ把握しきれてないような気がするんだよな。まぁ、今日は仕方ないか。とりあえず家に帰ってまた明日図書館にでも行って調べてみよう)


こうして自宅に帰ると心配した様子でハクに問いかけてきた。


「今日学校を休んだそうじゃない?しかもリリアちゃんまで休みだったそうね。ちゃんとリリアちゃんのことは送り届けてあげたの?この頃は物騒だし。」


「え、リリアにはだいぶ前に先に帰るように伝えて帰ってもらったんだけど」


「さっきリリアちゃんのおうちに行ったけどまだ帰ってなかったわよ」


それを聞いてハクは血の気が引く。焦りながらせかすように


「ねえ、この頃は物騒だってさっき言ってたけど何かあったの」


「なんでも学園の生徒を狙って誘拐している集団がいるとかで、ちょっと前から何人か行方不明になっていたじゃない」


その言葉を聞いてハクは外に走り出す。ステータス画面を開き、スキル画面を確認し、サーチスキルⅤを取得する。


(まだポイントが残っていてよかった。)


リリアのことを思い浮かべ、場所を調べようとするとスキルは郊外の森の中を指していた。その場所に向けて即座に走り出す。


(お願いだ、無事にいてくれ!)


ーーーーーーーーーーーーー


目的の場所に到着するとそこは洞窟になっていた。洞窟の前には見張りと思われるものが2名立っていた。ハクはスキル隠密を使用して近づく。1人を切り捨てた後、それに気づいた2人目が声を上げようとするがその前に背後から口をふさぎ喉元を切ることで絶命させる。


洞窟内を進んでいくと少し開けた場所に数人、犯人と思われる男たちがいたが隠密により姿を隠し、スルーして先に進む。幸い、洞窟内は一本道であったため、ハクは迷うことなく進むことができた。


「やめて!触らないでよ!」


突如そんな声が聞こえ走る。そこにはベットに横たわっているリリアとリリアに覆いかぶさっている男がいた。それを見た瞬間、剣を手に握り、血が煮えたぎるのを感じながらも男に対して切りかかる。


「きゃっ」


突然、目の前の男が血を吹き出し倒れたことに驚きながらも隠密を解除したハクの姿を見た瞬間リリアは安堵する。


「ハク...、ハクっ!怖かった、本当に怖かった...」


ハクに飛びつき涙するリリアの様子を見てハクはやさしく抱きしめる。


「リリア、大丈夫だった?なにもされてない?」


「うん、帰ってる途中に後ろからいきなりつかまれて何かをかがされたの。それでさっき目が覚めたら知らない男に襲われそうになってて...。対抗しようと思ったんだけどうまく剣が召喚できなくなってたの」


「そうだったんだ、でももう大丈夫。何があっても俺が守るから」


その言葉を聞いてリリアは安心したのかまた泣いてしまう。ある程度、落ち着いた様子をみて


「これからこの洞窟から脱出したいと思う。まだ完璧に回復したわけじゃないと思うから俺から少し離れて隠れておいてほしい」


リリアは頷くと2人で脱出に向けて歩き始める。


先ほどの広い広場に戻ってくるとハクは隠密を再び使用し、1人を切るがそれに気づいた他2人がハクに向かって切りかかってくる。


「お前、いつの間に侵入してきた」


残り2人のうち1人がハクに対して話しかけてくるがそれに気を取られず、後ろでもう1人が詠唱を始めたのを確認する。


「生憎、お前と無駄話をしている暇はない」


術師めがけて切りかかろうとした瞬間、剣を持った男が前に出てくるがそれをうまくかわして、術師を切り捨てる。


「どうした、残りはお前だけだぞ」


そんな言葉を聞いて悔しそうに切りかかってくるがハクは冷静に対処し切り捨てる。


「ハク!大丈夫?けがはしてない?」


戦闘が終わったのを見てリリアが駆け寄ってくる。


「大丈夫だよ、これぐらいの敵、リリアだって調子が戻ったら簡単に倒せるよ」


余裕な様子を見せるが中身は今まで人1人も殺したことがない素人だ。精神的に追い詰められているのを自身で感じ取りながらもそれをリリアに感じ取らせないように振る舞う。


洞窟を出ると日は沈み、辺りは暗くなっていた。



「よし、帰ろうか」


そう言って手を取ろうとしたハクだったが次の瞬間、殺気を感じ瞬時に剣を構える。しかし、気づけば何者かにより体ごと吹き飛ばされ地面に転がっていた。剣によって防御したことにより致命傷は防ぐことができたハクだったが一緒に吹き飛ばされたリリアの身を案じて様子を見る。倒れているのを見て急いで首元に手を当てて確認する。脈が確認でき、気絶しているだけだと分かりホッとするハクだったが、即座に気持ちを切り替え襲ってきた者の方を見る。


暗い中で月明かりに照らされ、その姿を視認すると男はにやりと笑っていた。

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