第2話 変化

学校までの道のりを知らないハクはリリアの様子を窺いながらついていく。その間、リリアが言葉を発することはなかった。


(何か、何か話すことはないのか!!ここにきて女性経験の無さが出るとは...。てか、夢にしては意識が鮮明だし、頬をつねっても痛みを感じるし、もしかして本当にあのゲームの世界に来たのか?だとしたら全然やりこんでもないし玄関以降の展開もわからない...。もしかして、詰みか...)


もう一度、現実かどうかを確認するために両手で自身の頬をバチンと叩く。すると、突然の音にリリアが驚きハクの方を向く。


「ハ、ハク。大丈夫?跡がついちゃってるよ」


心配そうな様子でハクに近づき頬をやさしく触る。しかし、その直後ハッとし、肩を震わせる。


「ご、ごめんね。あんまり気軽に触れて欲しくないんだよね」


ハクは突然の彼女の対応に動揺しながらもその後のおびえた様子を見て冷静になる。


(夢じゃない...。それよりも、なんでリリアはただ心配して頬を触っただけなのにおびえるんだ?もしかして、ゲームをやってるときにも感じたけどハクってこれまで冷たく接していたんじゃないか?それどころか彼女のこのおびえよう。それ以上に酷い態度をとっていたことだって考えられる。)


何も反応がなく、立ち止まったハクに対してリリアが声をかける。


「ハク、何か気に障ったならごめんね」


(そうか、最初はヒロインに何の前置きもなく殺される鬼畜ゲーだと思ってたけど、あれは俺の対応が酷すぎて限界に達したヒロインがとった行動だったのか...。なら、俺が今後とるべき行動は彼女を刺激せず、徐々にいい関係を築いていくことだな)


「リリア!好きだ、結婚しよう!」


その発言に固まる二人。しばらくしてリリアは困惑やうれしさなどの感情が入れ混ざり、顔を真っ赤にして再び固まる。


(まて、俺は今なんて言った?いったん振り返ってみよう。[リリア!好きだ、結婚しよう!]ていったよな...。うーん、やらかした!!あれ、直前までリリアを刺激しない方向性で行こうて考えてたよな?!なんであんなこと言ったんだ。でも、仕方がなかったんだよ。あんな様子を見て支えたいなって思っちゃたんだから)


自分の問いかけに対して自分で言い訳をし、頭を抱えそうになっていたがリリアを放置してしまっていたことに気づく。そこでリリアの方を向くとまだ顔を真っ赤にして固まっているリリアの様子がみえた。


「リリア、リリア!大丈夫?」


固まってしまったリリアの目の前で手を振り反応を待つ。


「は、はひ!だ、大丈夫れす...。いや、大丈夫!」


反応は返してくれたが動揺のせいか上手く呂律が回らずに噛んでしまう。そんな様子を見ているとさっきまで自分の発言に対して焦っていたハクだったがクスッと笑みをこぼす。そんなハクの様子を見てリリアも笑ってしまう。二人でしばらく笑った後、再び学校に向けて歩き始める。


しばらく歩いているとリリアが意を決した様子で歩みを止め、ハクに話しかける。


「ハク、どうして今日はそんなに優しいの?なんだかいつものハクじゃないみたい...」


(起きたら転生しててハクになってました!なんて言ったら中身がハクじゃないことがばれるし、そうなるとまずいよなー。そうだ、夢を見て心を入れ替えたことにしよう!)


「夢を見たんだ、俺の周りからみんなが去ってしまう夢を。それから自分の態度を改めてみようって思って。リリアにも今まで迷惑かけてごめんな。でも、これからはそういう態度を改めるようにするから、もし嫌なことがあったら何か行動を起こす前に教えて欲しい」


(よし、これで普段のハクと言動が違うことの理由もできたし、何か嫌だと感じた際にはすぐに暴力沙汰にするんじゃなくて口で教えて欲しいてことをアピールできたな)


そんなことを考えているとハクに対してリリアが飛びつく。一瞬ハクは自分が何かやらかしたかと考えたがリリアの様子を見てすぐに違うことに気づく。


「リリア、どうしたの?また何かやっちゃった?」


「...っ、違うの...っ!」


「わかった、一旦落ち着いてから話そう」


しばらくの間、頭をなで泣き止むのを待った。


ーーーーーーーーーーーーー


「もう大丈夫だから」


ハクはそう言われ離れるが少し惜しく感じた。


「もう、授業間に合わないね...。ごめんね」


リリアは申し訳なさそうにつぶやく。


「リリア!今日は学園なんて休んでどこか遊びに行かないか?今日は2人きりで1日を過ごしたいんだ」


リリアは学園をずる休みすることに抵抗があるのか少しの間悩んでいたが、すでに授業が始まっていることもあってかこくりと頷いてくれた。


やはり、王国というだけあって行先には困らないぐらいに店でにぎわっていた。しかし、中世ヨーロッパをモチーフにしているのか、元居た地球と比べると娯楽施設はなさそうだった。


「ねえ、あそこに行ってみたい」


そう言ってリリアが指さしていたのは元の世界の俺とは無縁なきらびやかなカフェだった。


「じゃあ俺はコーヒー1つで」


「私はいちごパフェとココアでお願いします」


「朝ごはん食べたのにそんなに食べれる?」


「いいの!甘いものは別腹なんだから」


リリアは少し頬を膨らませてそっぽを向いてしまう。

そんな少しすねたような仕草にハクは見とれる。


「ねえ、ハク。さ、さっき言ってたことって本当?」


「うん、とっさに出た言葉ではあったけどあれは本心から出た言葉だし、そこに嘘偽りはないよ」


まっすぐリリアの目を見て話す。するとリリアは恥ずかしそうに視線をずらし、髪をいじる。


「ま、まあそれならいいんだけれど。私だってその...。う、嬉し」


「でも急に言われても困るよな!今は少しづつリリアともっと仲良くなれたらいいと思ってるから!」


リリアが勇気を出して発した言葉はハクの発言によって遮られてしまう。直後、遮ったことに気づきハッとリリアの方を向くが彼女は顔を赤くし、下を向いてしまっていた。その様子を見て申し訳なさそうに


「あの、リリア?もしよければなんて言ったのかもう一度聞いてもいいかな?」


「もう!別に何も言ってないから!!気にしないで!」


リリアが落ち着くまでしばらく気まずそうに様子を窺いながらコーヒーを飲んでいたが落ち着いたのかリリアが口を開く。


「でも、本当に変わったね。まるで昨日のハクとは別人みたい」


そんな言葉にドキッとしながらも平然を装う。


(てか、俺考えてみればゲームは最序盤しかしてないしハクについてもそんなに詳しくないんだよな。この際、聞いてみるか)


「もしよければリリアから見たこれまでの普段の俺の印象について教えて欲しいな」


するとリリアは不思議そうに首を傾げ


「なんでそんなこと聞くの?」


「いや、自分の主観から見たものじゃなくて第三者から見た普段の俺の様子を聞きたいなって思ってさ」


「ふーん、変なハク。でも話してあげる!」


そう言って元気そうに話す彼女の様子は最初出会ったときとは違い、活発そうな印象を受ける元気な女の子だった。


(もしかしたら、本来は明るい子だったのかもな。それがハクの態度によってだんだん様子を窺うようになって抑えるようにしていたのかもしれない)


「ねえ!ハクってば!聞いてるの?」


「えっ、ごめんごめん!もう一回聞いてもいいかな」


「仕方ないから話してあげる!今度はしっかりと聞いてよね」


「わかったよ、ありがとう」


顔を少し赤らめるリリアだったが一度深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、再び話し始める。


「昔はすごく明るい性格だったと思う。だから、3人でいつもこっそりと家を抜け出して遊びに行ったりしていたでしょ」


そう話しているときのリリアの様子はどこか昔を懐かしんでいて楽しそうだった。


「でもあるとき、私たち3人のうちの1人のイリスが両親の都合で帝国の方に引っ越してしまったの。たぶんその時だったと思う。ハクの態度がだれに対しても冷たくなってしまったのは。それ以降、剣の練習や勉強ばかりしていて、何かに追われているように見えた」


(へぇー、主人公も最初から訳もなく冷たい態度をとっていたわけじゃなかったのか。少なくともこうなった原因にはそのイリスって子が絡んでいそうだし、もしかしたらいつか出会う機会もあるかもしれないな)


「ちなみにそのイリスって子の特徴について教えて欲しい」


「ハクってばあんなに仲が良かったのに忘れちゃったの?」


「いやー、ごめんごめん。もう別れてからだいぶたったし一応リリアにも確認の意味で聞いておきたくて」


「仕方ないなぁ、いつも帽子を被ってて泥だらけになるまで遊ぶ元気な男の子だったでしょ。それと銀色の髪に赤い瞳が特徴的できれいだねーてよく言ってたよね」


「そっそうだったよなー」


「もうっ、ハクったらちゃんと覚えてるの?」


「もちろん覚えてるよ!それよりもパフェ食べ終わってるけど他のものは頼まなくていいの?今日は無理やり連れてきたんだし俺がおごるからさ」


「えっ、いいの?じゃあこのプリンアラモードも頼もっと」


こうして話を逸らすことに成功したハクだがここで一つの疑問が浮かぶ。


(ゲームの世界に転生したわけだけど、さっきの発言から剣と勉強が同列に扱われるほど剣について学ぶ必要があるというのは分かった。なら、もしかしたらこの世界には魔法もあるんじゃないか?だって異世界だし。だとしたら夢が広がるなー。でも、ここでこれ以上この世界の常識についてリリアに聞くのはまずいだろう。なにせ、中身が俺だということは知られていないし、本当にハクかどうか怪しまれるきっかけを作りたくない)


ハクが考え事をしているとその間にリリアは届いたものを夢中でほおばり食べ終わる。時計は12時を指していた。


「ハク!この後はどうする?」


「うーん、リリアは何かしたいこととかある?」


するとリリアは楽しそうに言った。


「私?私はね、久しぶりにハクと剣の練習をしたい!」


期待が混ざったまなざしと楽しそうな声色で言われ


「わかった、やろうか!」


と即答してしまったハクだったがふと冷静になって気づく。


(あれ?つい即答しちゃったけど、そういえば俺、剣なんて使えないし握ったことすらねぇ!!)


そう、今のハクには剣を握った経験もなければ心得もないということを。

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