鬼畜ゲーの世界に来たけど自分らしく生きてみようと思う!!

水戸 一葉

第1話 転生

いつも通り過ぎていく日常、別に何か不自由しているわけじゃない。ただ、特別面白いことや特別な何かに出会えているわけでもない。不満はないけど面白みもない、そんな人生。


起きて出勤し、帰宅して寝る。そんな日常。

だけど、こんな俺にも趣味はある。それがゲームだ。普段ならRPG系やfps系などのゲームをプレイしていた。

しかし、今日、俺は生まれ変わるんだ!!

この暖簾をくぐって!!

そう、生まれて初めて恋愛シュミレーションゲームを購入した瞬間だった。”R18”指定の表記付きの!!


「よーし、パッケージ見て衝動買いしたけどこの銀髪の子マジでかわいいな」

そんなことを考えながらゲームを開始する。最初に表示されたのは何の変哲もないただの天井だった。

「寝起きからのスタートかー、ありがちだよなー」

そんなことを考えていると、知らない人からの呼びかけが表示される。


???[ハク!早く起きてよー、遅刻するでしょ!]


「主人公はハクていうのか。おっ、選択画面だ!何々...」


[あと、10分だけ]|[わかったよ、今行く!]


「わかった!!この10分だけの方を選べば起こしに来てくれる定番なやつだ」


意気揚々と[あと、10分だけ]をクリックし、R18指定のゲームということもあってお約束のムフフな展開もあるのではないかという期待を膨らませて今か今かと画面に注目する。


すると、画面が蹴破られ金髪の美少女が映し出される。


「やっぱり、このゲームの女の子のレベル高いな。キャラデザが気に入って買ったけど正解だったな!」


若干前かがみになりながら画面をのぞき込んでいると次の瞬間、画面に映し出されたのはかかと落としによって血を流している主人公と"YOU ARE DEAD"の文字だった。

これを見て何かの間違いかと目をこする。しかし、いつになっても目の前の光景は変化しない。


「買ったゲームって恋愛シュミレーションだよな...」


その瞬間、脳内にて恋愛シュミレーションゲームとはどんなものだったかという記憶を辿るがこんな最序盤で主人公が死ぬなんて作品は聞いたことがない。しかも、家に迎えに来てくれるような女の子によって...。


「俺が女の子と関わりが少なかったから知らないだけで世の中の男はこんな経験を乗り越えているのかなー。あぁ、だから彼女持ちの男の人ってあんなカッコよく、何かを乗り越えたような雰囲気を持っているのか~」


誰もいない静かな部屋の中、そんなことを考えながら一人、ハハハと笑う。


「そんな訳あるか!!!」


手に持っていたマウスを思いきり床に叩きつける。


「何この意味わからん展開!開始早々、主人公が死ぬなんてことある?!?!百歩譲って主人公が死ぬ展開がある場面があるのは分かるよ!でもこんな最序盤である?そんなことあってたまるか!どんな世界観で物語進めようとしてるんだよ!それに起きるの渋っただけで殺されることある?どんな設定?!こんな事が許されるなら他のゲームの主人公なんて何万回も殺されてるよ!!」


息切れをしながら画面に対して文句を言う。しかし、一向に画面は変わらない。


「そうだ!パッケージ!パッケージを見れば何かこのゲームのことを知れるかもしれない」


パッケージを手に取り、あらすじを見る。


[violent王国に住む主人公のハクはディエソーン学園に通っており、たくさんの美女と数々の試練に立ち向かいながら幸せな未来をつかむために奮闘する]


「まぁ、ありがちなあらすじだな。うん、パッケージも可愛いし。もしかして中身が違うとか?でも新品だし、そんなことないよなー」


そんなことを考えながらもう一度あらすじを眺めていると


「あれ?violentてどんな意味だっけ?確か、暴力的なだった気が...」


天井を仰ぎ、遠い目をする。


「だ、だからかー...」


パッケージを持ちその場で崩れ落ちる。


「えっ、じゃあこのR18の表記てグロいシーンがあるからってこと?ならなんでエッチなコーナーに並んでたんだ??店員さんが間違えて置いたとか?そんなことある?」


いくら問いかけても答えてくれるものはいない。その後、数秒間の静寂が続く。


「まぁ、このままどうこう言ってても解決しないし、それに進めていけば望んでたシーンを拝むこともできるかもしれないしな」


沈んでいた気分を切り替えてポジティブな思考に切り替える。


「今日は金曜日だし、クリアするまで一気にやるか!土日使えばさすがに終わるでしょ」


そういってコンテニューボタンをクリックする。すると再度、先ほどの画面同様、選択肢が表示される。


「よし、次は[わかったよ、今行く!]の方をクリックすればいいんだよな」


おそるおそるクリックをすると、主人公が着替えを済ませ、リビングへと降りていく。そこには家族であると考えられる。父、母、と二人の制服を着た女子がソファーに腰かけていた。


「ふぅ、さすがに選択肢の両方が地雷だったらストーリーが進まないしな。」


安堵しているとリビングで家族同士の会話が始まる。


母[もうっ毎日毎日ぎりぎりまで寝て、早く寝て早く起きなさいっていつも言ってるでしょ!あなたの準備が遅いせいでリリアちゃんにまで迷惑かけるんだからね。それに毎日こんなかわいい子に迎えに来てもらって感謝とか無いの?気をつけないといい加減、愛想尽かされるわよ]


ハク[わかってるよ!リリアも別に忙しいなら毎日わざわざ迎えに来なくてもいいから!]


そんなことを言いつつ、準備を済ませた主人公は玄関へと向かう。


「なんかこの主人公感じ悪いな。男のツンデレなんてどこにも需要無いし、もっと女の子に優しくしてもいいだろ」


主人公に対して少しイライラしながらも進めていくと場所が変わり再び選択肢が表示される。


[リリア!準備できたし行こう]|[...(無言でドアを開けて出る)]


「明らかに無言の方が地雷だよな。でも、とりあえずこっちのほう選んでみるか」


選択肢をクリックすると場面が暗く切り替わる。


リリア[ねぇ、私だって朝の準備とかで忙しかったのに頑張って迎えに来たんだよ...。なのに、いつもいつも冷たい反応ばっかり。もう嫌、ハク君なんて嫌い!!]


画面には顔を鷲掴みにされ、持ち上げられている主人公と悲しそうに泣いている女の子、大きな文字で表示される”YOU ARE DEAD”の文字といういろいろカオスな状況が映し出されていた。


「うーん、そりゃこっちが地雷なのは分かり切ってたよな。それにしても選択肢1つ間違えただけで殺される世界って...。想像したくもないな。主人公も主人公で酷いけどこの女の子も過激すぎるな...」


画面から視線を外して時計を見ると日を跨いでいた。


「土日使ってやりこもうと思ってたけど、そんなに一気にクリアしたいってほどのゲームじゃないな。今日はとりあえず寝るか」


布団に入り、目を閉じる。仕事後だったからか疲労が体を襲い、激しい睡魔に見舞われる。


「俺の人生にも起こしに来てくれるような女の子がいたらよかったのにな...」





目を開けると広がっていたのは知らない天井だった。


「あれ、昨日は普通に家に帰ってきて自分の家で寝たはずだよな?」


すると部屋の外から声がかけられる。


「ハク!早く起きてよー、遅刻するでしょ!」


「...。夢かな、聞き間違いじゃなければハクって聞こえたんだけど...。確か、昨日やってたゲームの主人公の名前もハクだったよな」


寝起きだった頭が昨日、プレイした頭のおかしいゲームと現在の状況が酷似していたため、活性化しこの状況での最適解を導き出す。


「わかったよ、今行く!」


念のためにベッドから壁際に避難し構えるがドアが蹴破られる様子はない。


「ふぅ、とりあえず乗り切ったか~。にしてもどういうことだ?今の状況はあまりにも昨日やったゲームと状況が一緒だしな。ゲームみたいに一つでも選択を間違えたら死ぬのかな...」


そんなことをつぶやき肩を落とす。


「てか、起きたらゲームの主人公になってるってラノベかよ!!今のこの状況が作品になってるとしたら転生したら〇〇だったみたいなタイトルになってるわ!」


崩れ落ち、床を叩き叫ぶ。しかし、ここでとあることを1つ考える。


「夢だな!!俺がこうやってもたもたしている間に玄関出るまでのシナリオが変わってゲームオーバーになるかもしれないし、とりあえずシナリオ通りに玄関までは行動するか」


身支度を素早く済ませ、リビングへと向かう。すると昨日のゲームと同じように父、母、と二人の制服を着た女子がソファーに腰かけていた。


「もうっ毎日毎日ぎりぎりまで寝て、早く寝て早く起きなさいっていつも言ってるでしょ!あなたの準備が遅いせいでリリアちゃんにまで迷惑かけるんだからね。それに毎日こんなかわいい子に迎えに来てもらって感謝とか無いの?気をつけないといい加減、愛想尽かされるわよ」


(今のところゲームと同じ通りに進行してるな、この次は[わかってるよ!リリアも別に忙しいなら毎日わざわざ迎えに来なくてもいいから!]だったよな。うーん、でもなぁ...。あんなにかわいい子相手にそっけない態度とるのもなんか嫌だな。どうせ夢なら自分の好きなようにやってみるか!!)


「リリア!いつもありがとうな!」


その言葉を聞いたリリアは肩をビクッとさせ、飲もうとして手に持っていたカップの動きが止まる。そんな様子にハクは気づくわけもなく支度を進めていく。


「どうしたのかしらあの子、いつもならそっけない態度で返すのに。ついにリリアちゃんの可愛さに気づいて心を入れ替えたのかしらね」


「ないない、あのお兄がそんな急に優しくなるわけないでしょ。どうせ、いい夢でも見て一時的に機嫌がいいだけだよ」


「リリアちゃんも本当にいつもありがとうね。あんな不愛想な子にいつもかまってくれて。」


しばらくの間、固まっていたリリアだったがハクのお母さんの呼びかけにより、はっと我に返る。


「いえいえ、全然大丈夫ですよ!私が望んでやってることですし」


すると準備が終わり、玄関で待っていたハクから呼ばれる。


「おーい、リリアー!準備できたし早く行こう」


するとハクの母が


「まったく、あの子ったら自分で待たせておいて...。リリアちゃん申し訳ないけどハクをよろしくね」


ハクの母からお願いされ相づちを返すリリアだったが頭の中はそれどころではなった。なぜなら、もう何年も何年も冷たくされていたハクにありがとうと言われたからだ。たったそれだけの言葉が幼き頃の二人を思い出させ、胸を熱くさせる。


この時、まだハクは知らなかった。この先出会うであろう彼女らを含めて元の世界の自分らしく、普通に接することがどれだけ大切でそれがどのように影響を与えるかを。

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