パワフル乙女と重めの愛!

本作は前提として、重厚でファンタジックな世界設定が背景にある。作中世界の創世神話と実際の世界創造の関係、それを暴こうとする者に対する謎の勢力の暗躍。それらを脳に内包した上で読めば、更に本作は面白みを増すであろう。しかし、それらは飽くまで背景である。真打ちは、本編。そんな本作は、単体で見ても、非常に面白い。

竹を割ったような性格のヒロイン、フリッカと、虚無と熱情と残酷さが同居している男ゲオルグとのラブコメディである。だが、フリッカは何と、物語序盤で、とある理由から非業の最期を遂げる。そんな彼女は、ゲオルグの祖国に転生した。戸惑うのもそこそこに、彼女は、持ち前の自信家ぶりを活かし、生前の望みを叶えるべく行動する。
そんなことをしている内に、彼女は皇帝となったゲオルグと対面する。ここで、ゲオルグの態度と胸中に渦巻くものが、とても良かった。一途、という陳腐な言葉では片付けられない、ゲオルグという一人の男の感情である。
バイタリティ溢れる天才少女が、今も昔も自分に惹かれている男に対し、あれこれと心の中で批評しながらも、徐々に心を開いていくさまは、読者にもどかしい感情を抱かせるかもしれない。しかし、それがあるからこそ、最後の場面が活きると私は感じた。

お話の妙も然るものだが、しつこすぎず淡泊過ぎない貴族社会の描写も見るべきものがある。我々庶民が普段、興味も抱かないような社会階級を容易に想像させる表現力と、それを押し付けない文章力が見事である。
軽妙な文体とサクサク進むストーリー展開のお陰で、陰湿になりがちな暗闘が全く気にならない。また、所々に挟まれるギャグが、偶にあるシリアスな場面を、より一層引き立てている。作者の技量、恐るべしである。

私は自信を持って、本作をお勧めする。