第13話 現代の警兵団

 獣から元の姿に戻った男。男は辺りを見渡した後、自分の手の平を見る。


「あ、あぁ。俺の、力が……!」


 男は地面に伏せたままそう嘆く。そんな男に向かって音巴はしかめっ面で歩き出すも、黒い道着姿に戻った流が膝から崩れ落ちるのを見て急いで支えに入る。


「流ちゃん!」

「いたた……骨が、軋んで……」

追加契約ウェイテッドなんて無茶をするからや! 普通の状態でも負荷凄いっちゅうのに!」

「でも、おかげで中の人を殺さずに獣を倒せました。あとは、ニールさまに任せましょう」

「そうやな。ニール君! 後処理は任せてええな!?」

「あぁ、早く連れ帰って千里に診て貰え。警兵団の連中は僕を知ってる、事後処理には僕が当たった方が話が早いだろう」


 音巴は頷き、流を抱えてその場を後にした。


 ◇  ◇  ◇


 しばらくすると、気絶してしまった男の前に立つニールの傍に、鎧を着た『警兵団』の職員達が駆け寄ってくる。その先頭に立っていた茶髪の男は、ニールの顔を見て驚き立ち止まる。


「貴方は!」

「ん、アンタどこかで……」

「5年前まで看守を務めていたケイルです! 覚えてましたか!」

「あぁ、ほとんどの看守の声は忘れちまったが、アンタまではギリ覚えてる」

「あれからこの生活安全課に異動になって、巡査隊長になったんですよ。そして今日は、ここに何か異変があったと聞いて来たのです。何かご存じで?」

「知ってるも何も、そこでぶっ倒れてる奴が起こした異変の対処は僕がしたんだ。これから僕が言うことが本当かどうかは、アイツから出る情報が証明してくれるだろう」

「分かりました。みんな、少年の前に居る男を捕まえ署に連行するんだ!」


 ケイルの指示を受け、背後に控えていた隊員達は二人が掛かりで男を確保し、どこかへ連れて行った。


「貴方も是非、重要参考人として本署で話を伺いたいと思っているのですが」

「ここで言っても仕方ないしな。いいぜ、付き合おう」


 ニールはケイルの後を追い、警兵団の本署へ向かうのだった。


 ◇  ◇  ◇


 本署の取調室に案内されたニールは、男の万引きを止めたことが始まりだったことや、教団産の黒い球を飲み込んだ男が獣に変わって暴れていた事などを話した。


 ケイルは一連の報告を、複雑な面持ちで聞いていた。


「……なるほど」

「教団はいままでアンタらの目に付かないよう動いてたんだ、信じられないのも無理はない。だが、動かぬ証拠は確かにある。これがその……あれ?」


 ニールはポケットから黒い球を取り出そうとしたが、出てきたのは黒いドロドロとした半液体状の物だった。


「おっかしいな、さっきまでは固体だったはずなのに」

「そちらの液体、念のためお預かりさせて頂いても?」

「おう、持って行け」


 ケイルが取り出した小さなポリ袋の中に液体を注ぐニール。


「確かに受け取りました。我々にとって、この確たる証拠を手に入れられたことは大きな進歩でしょう」

「ん? アンタ達警兵団は前々から、既に教団を追っていたって事か?」

「以前からポツポツと世界中で獣の発見報告は有りました。ただしその獣は、殺したら最後細胞一つ残らず消えてしまうので、予測は立っても証拠がないから動けないと言った状況が続いてます」

「だからこそ、その物的証拠が捜査進展の鍵を握るって訳だ」

「証拠として機能するかどうかは慎重に精査しなければいけませんがね。何せ近頃の警兵団は事件の解決より、民衆からの心象を損ねない捜査をする事の方を大事にする傾向がありますから」


 それを聞いたニールは、眉をひそめて首をかしげる。


「なんでそんなの気にする必要があるんだよ?」

「今の世の中は民主主義です。民が国の上に立ち、公務員達の生死を決める存在となっています。となれば公務員たる我々警兵団は、必然的に民衆に頭をあげられず媚びを売るしか無くなる訳で」

(……人が人を統治する世では、人を守る存在である警兵団が思うように動けなくなっている。昔の警兵団は誰にも縛られること無く、世界龍の名の下に悪を誅する正義に徹する事が出来たというのに)

「す、すみません、愚痴っぽくなっちゃって。とにかく、こちらはしっかり科捜研に回して調査致します。進展があれば、こちらを使って貴方をお呼びします」


 ケイルはそう良い、テーブル越しに四角い縦長の電子機器をニールに渡す。


「これは?」

「『メガフォン』という携帯機器です。折りたたまれた端末を開くと上部に液晶があると思いますが、そこから自分宛てに送られた他人からのメッセージを確認する事が出来ます」

「手紙の進化形って事だな。貰えるのは有り難い限りだが、本当に良いのか?」

「それ、つい最近まで僕が使ってた奴なんです。僕の手垢が付いた奴でもよければ、是非持って行って下さい」

「なら遠慮無く頂こう。そうだ、実験の進捗だけでなく、獣が出現したときも連絡をくれ。座標をくれれば、僕や僕の仲間がすぐ対応に行く」


 驚いたように目を見開くケイル。


「仲間? 貴方に仲間がいるなんて意外ですね。てっきり貴方は、孤高の一匹狼なのだとばかり」

「旅をしてたあの時の僕に近づこうとする勇者がいなかっただけの話。それより、仲間について聞きたいなら喜んで話そう。彼女らは確実に、アンタたち警兵団の立場を尊重する形で力になるはずだからな」

「頼もしいばかりです。では早速、貴方のお仲間についてお聞かせ願いましょうか」


 ニールは先ほどまでとは打って変わり、背もたれにもたれかかった姿勢で仲間について語り出すのだった。

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子獅子と契約と始祖の転生者達 ~2002年、原初の異界を作る旅~ 熟々蒼依 @tukudukuA01

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