氷狼の剣闘機(※シナリオ形式)
瘴気領域@漫画化してます
氷狼の剣闘機
※バンダナコミック 縦スクロールマンガ原作大賞の応募シナリオです。小説ではなく、シナリオ形式で執筆しています。
■キャラクター紹介
・主人公:オオガミ・レイジ(パイロット)
小柄な少年。孤児院のために体を張って稼いでいる剣闘機乗り。ぶっきらぼうだが心根は優しく、幼馴染のプライヤや孤児院の子どもたちをいつも気にかけている。合成肉と熱々のココアが好物。
身長160センチ。16歳。灰髪。飢えたオオカミのような三白眼。ギザ歯。
機体名:ウルフレイジ。狼を模した顔を持つ機体。塗装に使える資金がないため、薄汚れた灰色をしている。2本のナイフが武器。
・ヒロイン:プライヤ・スパナ(整備士)
小柄な少女。レイジの機体を整備しつつ、口うるさく小言を言う。しかし、それはレイジへの愛情の裏返しである。レイジとは二人三脚で孤児院を支えている。
身長145センチ。茶髪。16歳。つなぎの作業服と大型レンチがトレードマーク。料理と節約も得意。
・謎の美女:ドナ・クイーン(興行師)
長身の美女。星を股にかけて剣闘機興行を行う大物プロモーター。成り上がりのため生粋の上流階級からは軽侮されている。なんらかの企みを秘め、レイジをケンタウリ・チャンピオンシップに出場させようと画策する。
身長175センチ。紫がかった黒髪。見た目は二十代半ばのグラマラスな美女だが年齢不詳。いつも葉巻を手放さない。
・敵:ガマゼイ(パイロット)
肥満体の巨漢。怒ると茹でダコのように顔が真っ赤になる。レイジを罠にかけて八百長試合を強要し、ケンタウリ・チャンピオンシップ出場権を奪おうとしている。
身長210センチ。スキンヘッド。30歳前後。
機体名:レッドオーガ。赤鬼を模した機体。長大なメイスが武器。
■シナリオ本文
始まりの舞台は太陽系から4光年離れたプロキシマ・ケンタウリ星系に属する氷の小惑星N5392。
かつては氷鉱山として栄えたこの星だが、核変換技術の進歩により水がもっとも安価な資源のひとつとなった現在では、まったく異なる産業でかろうじて息を継ぐ貧しい惑星になっていた。
その産業とは人型ロボット兵器――「剣闘機」同士の決闘を対象にした裏賭博である。
主人公、オオガミ・レイジは剣闘機乗りのひとりだ。出身の孤児院の経営を助けるために剣闘試合に出て賞金を稼いでいる。機体の操作は亡くなった前院長に習っていたがほぼ我流。腕前は確かで、何世代も前の古い機体を駆使して勝利を重ねていた。
▼シーン1
◯地下闘技場/夕
◯登場人物
・レイジ
・ガマゼイ
すり鉢状の観客席に囲まれた闘技場で2機の機体が向かい合っている。分厚い氷で作られた武舞台が照明を反射してキラキラと輝いている。
ひとつは主人公レイジの機体。機体名ウルフレイジ。細身の小型機体で、両手にナイフを持ち、頭部は狼を思わせる灰色に濁った氷の装甲で覆われている。
対する機体は一回りも二回りも大きい。機体名レッドオーガ。2本の角を持ち、太く長いメイスを武器としている。全身が真紅に塗られ、文字通り赤鬼のような機体だ。パイロットは肥満の巨漢ガマゼイ。
レイジ(以下、レイ)「真っ赤に塗りたくりやがって、相変わらず趣味の悪い機体だぜ」
ガマゼイ(以下、ガマ)「ハッ! 犬っころがもう吠えてやがるのか。てめぇの名前を機体につけるやつに趣味をどうこう言われる筋合いはねえな」
ムッとした表情を浮かべるレイジ。
何かを言いかけるが、試合開始のブザーで遮られる。
場内アナウンス(以下、アナ)『試合開始ッ!』
一合、二合と交錯する二つの機体。
レッドオーガは猛烈な勢いでメイスを振り回す。空振りした攻撃が武舞台を砕き、氷の破片が飛び散る。
ウルフレイジは2本のナイフを巧みに操り、軽快な身のこなしでレッドオーガの猛攻を捌き続ける。だが、無傷ではない。破片が当たった箇所の装甲が徐々に砕けていく。
剣闘試合の見どころはこの容赦のない破壊だ。機体に使用できる金属量は制限されており、武器やフレーム、一部の装甲以外は氷でできている。特殊な加工によりただの氷よりは強度があるが、攻撃を受ければ脆く壊れやすい。
外装が破壊されるたび、観客たちの歓声で闘技場が揺れる。
ガマ「ちょろちょろ逃げ回りやがって! 犬ころでもねえネズミだったか!」
レイ「悪りぃが、犬でもネズミでもねえ――」
レッドオーガの大ぶりの一撃をかわし、ウルフレイジは矢のように飛びかかる。
すれ違いざまにナイフを振るうと、レッドオーガの両腕が根本から切り落とされ、地面に当たって砕け散る。
レイ「――オオカミだ」
――ウルフクロウ――(必殺技)
2本のナイフを狼の爪のように振るうレイジの必殺技だった。
ガマ「ぐうっ……!」
アナ『勝負ありっ! 勝者、ウルフレイジ!』
ウルフレイジのナイフがレッドオーガの胸部にあるコックピットに突きつけられ、決着を告げるアナウンスが響き渡る。観客の「ちくしょう!」「金返せ!」「レイジ死ねっ!」「三級市民の野良犬野郎がっ!」などといった怒号とともに、賭け札の紙吹雪が舞う。
観客席。その様子を眺める一人の女がいた。
名前はドナ・クイーン。紫がかった黒髪の長身の美女。星々を股にかけて剣闘機興行を手掛ける大物プロモーターである。ドナは葉巻をくゆらせながら、脇に控えた黒服の男に伝える。
ドナ「面白く育ったじゃない。最後のチケットはこの星に」
▼シーン2
◯スラムにある孤児院の敷地内にある整備工場/夜
◯登場人物
・レイジ
・プライヤ
スラムにある孤児院。分厚く雪が積もっていて、ほとんど氷漬けだ。
その敷地の一角にある整備工場。壁や天井はボロボロで、ところどころに空いた穴からは隙間風とともに粉雪が吹き込んでいる。
ウルフレイジはハンガーに吊られ、整備中だ。氷製の装甲を外した姿は骸骨のように華奢で、オオカミをかたどった頭部パーツが異様な存在感を示している。
その前で、つなぎの作業服を着た少女プライヤがレンチを片手に難しい顔をしている。
レイジは薄汚れた服をでたらめに着込んだ子どもたちに追いかけ回されていたが、「参った、参った! 勘弁してくれ!」と叫んでプライヤの横に座り込み、子どもたちにまとわりつかれながらプライヤと話し始める。
レイ「こいつの調子はどうだ?」
プライヤ(以下、プラ)「ナイフは刃こぼれだらけ。膝関節のベアリングの消耗が激しい。ダンパーもあちこち油漏れしてるし……フレームがへし折れててもおかしくなかったよ。もっと機体を労りなさい!」
レイ「労って負けたら世話ねえだろうよ」
プラ「労って勝てばいいじゃない」
レイ「無茶言うなよ。それよりさあ、機体の登録名変えねえか? 自分の名前がついてるなんて……」
プラ「何よ、可愛い幼馴染がつけてあげた名前に文句があるっての?」
レイ「い、いや。とってもステキな名前だなーって」
両手を上げて降参のポーズを取るレイジ。
プライヤはその様子に満足そうに笑うが、すぐにまた顔をしかめて腕を組む。
プラ「大体ね、登録変更にだって手数料取られるのよ。いくら賞金を稼いでもメンテ費用とチビたちのごはん代を差し引いたらカッツカツ。今朝だって借金取りが来て――」
レイ「わーった! わーったって! 俺がもっと稼ぐからさ!」
プラ「こら! まだ話は終わってないわよ!」
逃げ出すレイジに、青筋を立てて怒るプライヤ。レイジの姿が見えなくなってから、懐から一枚のパンフレットを取り出す。
それは主星で開催されるケンタウリ・チャンピオンシップの案内だった。表紙には金色に輝く騎士を連想させる機体が大写しになっている。
プラ「わかってるわよ。無茶を言ってることなんて。いつか全力で戦わせてあげられたらな……」
▼シーン3
◯スラムの安酒場/深夜
◯登場人物
・レイジ
・ドナ
スラムの外れにある安酒場。店内には核融合発電所の排熱を通す蒸気管が張り巡らされており、それが暖房となっている。スラムでは標準的な暖房設備だ。
その店のカウンターで水だけ飲むレイジ。
レイ「おい、お代わりだ」
バーテンダー(以下、バー)「ここは酒場だぜ。白湯ばかり頼まれても困るんだがね」
レイ「うるせえな。俺はお湯が好きなんだよ」
バー「ちっ、素寒貧の犬ころが」
レイ「あン? 何か言ったか」
バー「いえいえ、何も」
目をそらし、グラスを磨くバーテンダー。
レイジは懐からケンタウリ・チャンピオンシップのパンフレットを取り出す。
レイ「賞金1億クレジットか……。これがありゃプライヤたちにも楽させてやれるのに……」
ドナ「隣、空いてる?」
パンフレットをまじまじと見ていたレイの隣に、黒髪の女ドナが返事を待たずに座る。
レイ「この店に予約席なんて上等なもんはねえよ」
ドナ「マスター、ドライマティーニを。合成じゃなく本物のジンで。こちらの彼にも」
レイ「誰だ、あんた? 俺に用か?」
見ず知らずのドナに酒を奢られ、怪訝な顔をするレイジ。ドナの身なりはいかにもな金持ち然としていて、場末の酒場には似つかわしくない。後ろに控えている黒服の男はボディーガードか。
ドナは葉巻に火をつけ、紫煙をふかす。
ドナ「昼間の試合、なかなかエキサイティングだった」
レイ「そりゃどうも。酒代はサインでいいか?」
ドナ「ふふ、未来のチャンプのサインならお宝になるかもね」
レイ「あン? 何の話だ?」
ドナ「出たいんでしょ、それ」
ドナはパンフレットを指差す。
レイ「ちっ、見てただけだよ。この手の大会は上級市民様限定だろ」
ドナ「そのわりに真剣な目をしていたようだけど」
レイジはドナを睨みつけ、マティーニを一気に飲み干す。
レイ「ごっそさん。次は熱いココアをおごってくれや」
ドナ「つれない坊やだねえ」
一人店に残ったドナは、マティーニを片手に妖艶に微笑む。
▼シーン4
◯地下闘技場選手控室/昼
◯登場人物
・レイジ
地下闘技場の選手控室。幾人ものモブ剣闘機乗りたちがざわついている。
モブA「おいおい、マジかよ」
モブB「三級市民でも出場できるのか? それなら俺も……」
モブC「負け越してるやつが何をほざきやがる。本命はガマゼイさんかレイジだろ」
レイ「おいおい、何の騒ぎだ?」
レイジがモブの人混みをかき分けると、トーナメント戦開催を知らせる張り紙がある。
レイ「なんだよ。定例のトーナメントじゃねえか……ってこれは!?」
今回は賞金の他に、賞品としてケンタウリ・チャンピオンシップの出場権が与えられるとあった。
▼シーン5
◯孤児院整備工場/夜
◯登場人物
・レイジ
・プライヤ
・ガマゼイ
決勝戦前日の夜、整備工場でレイジとプライヤが話している。子どもたちは寝静まり、二人きりだ。
壁にはトーナメント表が貼られ、勝ち残った者が赤線でなぞられている。
決勝に残ったのはレイジとガマゼイだ。
プラ「いよいよ明日だね」
レイ「ああ、サクッと勝って出場権を頂戴してくるぜ」
プラ「もう、油断してると大怪我するわよ」
レイ「俺があんなデクノボーに負けるかよ」
プラ「じゃ、負けたら夕飯抜きね」
レイ「ちょっ、そりゃひでえよ!」
プラ「勝つんだから問題ないでしょ」
肩を竦めるレイジ。この幼馴染に口喧嘩で勝った試しがない。
プラ「もしも……もしもだよ? チャンピオンシップでも優勝しちゃって、賞金が手に入ったら何に使う?」
レイ「そりゃ決まってんだろ。うまいもん食って、砂糖をたっぷり入れたココアをがぶ飲みして……」
プラ「そういうのじゃなくて!」
プライヤの真剣な眼差しに、決まりが悪そうな顔をするレイジ。
軽く咳払いをしてから改めて口を開く。
レイ「まず借金を返して、チビたちを学校に行かせる。いや、このしみったれた惑星を出て二級市民権を……買えるのか? ああ! そんな大金見たこともねえからわかんねえよ! とにかく、まともな暮らしをするんだ! これでいいか!?」
プラ「うん、ありがと」
微笑むプライヤに、顔を真っ赤にするレイジ。
慌てて立ち上がり、「ちょっと走ってくらあ」と言い残して工場を出ていく。
ひとり残されたプライヤが独り言をつぶやく。
プラ「まともな暮らし、かあ。レイジも思ったより考えてるんだな。明日の夕飯は奮発して合成肉のステーキにしてあげようかな」
ガマ「悪りぃがお買い物の時間はねえんだわ、お嬢ちゃん」
そこに現れたのは、手下のチンピラを引き連れたガマゼイだった。
▼シーン6
◯地下闘技場/夕
◯登場人物
・レイジ
・ガマゼイ
・プライヤ(遠景のみ)
決勝戦当日。闘技場の武舞台でウルフレイジとレッドオーガが対峙している。
コックピットの中でつぶやくレイジ。
レイ「プライヤめ、朝からどこほっつき歩いてんだ? おかげで機体の最終チェックを俺ひとりでやる羽目になったじゃねえか。不具合があったら許さねえぞ」
昨晩走り込みに出たレイジは深夜に帰宅し、プライヤと顔を合わさないまま就寝した。そして朝起きるとプライヤはおらず、ひとりで子どもたちの朝食作りと機体の準備に追われていた。
レイ「ま、あいつのことだから優勝祝いのご馳走の材料でも買いに行ってんだろうけどな」
ガマ「くくく……おめでてぇなあ。置き手紙には気が付かなかったか? ああ、てめぇみてえな犬ころに、人間様の字は読めなかったか」
レイ「ンだとこの野郎!」
ガマゼイの挑発にいきり立つレイジ。
ガマゼイは「あそこを見な」とレッドオーガのメイスで観客席の一角を指す。
レイ「なっ!? プライヤ!?」
そこにはガマゼイの手下のチンピラに左右を挟まれたプライヤがいた。
口には猿ぐつわが噛まされ、目には涙を浮かべている。
レイジの視線に気がつくと身を捩って何かを訴えようとするが、ガマゼイの手下に殴られて黙らせられる。
それを見て激昂するレイジ。
レイ「ガマゼイ! てめぇ何をしやがった!」
ガマ「ガハハハハ! 見てわかんねえのか。人質だよ、ひ・と・じ・ち。てめぇは大人しく負けやがれ。そうしたら女は無事に返してやるよ」
レイ「この野郎……!」
ガマ「おっと、見るからに手抜きってのはやめてくれよ。それじゃ八百長がバレちまう。せいぜい逃げ回って、白熱した試合を演出してくれや」
レイ「くっ……」
歯ぎしりするレイジ。しかし、無常にも試合開始のブザーが鳴り響く。
アナ「試合開始ッ!」
レッドオーガがメイスを振り回し、ウルフレイジに猛攻を仕掛ける。
ウルフレイジの動きは精彩を欠き、一撃、二撃と被弾して、機体の装甲が破損していく。
ガマ「いいぞぉ! 犬ころらしい無様な逃げっぷりだ!」
レイ「ンだとコラァ!」
ガマ「おっと、女はどうでもいいってのか? 犬でも恩は忘れねえってのに、薄情なやつだなァ」
レイ「ぐっ……!」
ナイフを握り、反撃に移ろうとするレイジをガマゼイが言葉で牽制する。
レイジは歯を食いしばり、構えたナイフを引く。
ガマ「そうだッ! 犬っころは行儀よくしてろ!」
レイ「ぐあっ!!」
レッドオーガのメイスがウルフレイジの両腕を砕く。
吹き飛ばされたウルフレイジは両腕をなくし、武舞台に両膝をつく。
全身の装甲もボロボロで、ところどころフレームが露出していた。
ガマ「くくく、そろそろ決着とするか、犬っころ。てめぇみてえな三級市民が、チャンピオンシップに出ようなんざ百年早えんだよ」
レッドオーガがその長大なメイスを振りかぶる。
▼シーン7
◯地下闘技場/夕
◯登場人物
・ドナ
・プライヤ(遠景のみ)
観客席の一角。葉巻をくわえ、オペラグラスで観戦していたドナがつぶやく。
ドナ「どうも様子がおかしいねえ」
両腕を失い、転げ回ってメイスをかわすウルフレイジの姿に先日見た軽快な動きはない。
ウルフレイジの視線がちらちらと観客席に向いていることに気が付き、その視線の先を追うと、ガマゼイの手下に拘束されているプライヤの姿が見えた。
ドナ「へえ、あたいの『興行』に水を差すなんて、随分な野暮をしてくれるじゃないか」
ドナが指を鳴らすと、脇に控えていた黒服が目にも止まらぬ速度で腕を振るう。黒服の手から放たれた隠し針がプライヤを捕らえていたチンピラに刺さり、チンピラたちはうめき声も上げずに崩れ落ちる。
ドナ「さて、ここからが見ものだねえ」
観客席を駆け下りていくプライヤを見て、ドナは不敵に笑う。
▼シーン8
◯地下闘技場/夕
◯登場人物
・レイジ
・プライヤ
・ガマゼイ
自分を拘束していたチンピラが突然気絶し、混乱したプライヤだったが、武舞台で苦戦するレイジの姿を見て慌てて客席を駆け下りる。
猿ぐつわをむしり取り、最前列のフェンスにしがみついて叫ぶ。
プラ「レイジ! 負けないで!!」
レイ「プライヤ!!」
膝をついていたウルフレイジだが、プライヤの叫びに反応してそちらを向く。
しかし、ウルフレイジからはすでに両腕が失われ、全身の装甲もぼろぼろの状態だ。
ガマ「ちぃっ、あいつら何をやってやがる……。だがもう手遅れだぜ! てめぇはここで死ね!!」
ガマゼイがトドメとばかりにレッドオーガのメイスを振り下ろす。
メイスは武舞台を砕き、飛び散る氷片で白い煙幕が広がる。
ガマ「ひゃーはははは! これでぺちゃんこだ!!」
プラ「レイジっ!!」
ガマゼイの哄笑とプライヤの悲鳴が重なる。
レイ「誰がぺちゃんこだって?」
ウルフレイジはレッドオーガの背後に立っていた。
ガマゼイは慌てて振り返りつつも、まだ強気の姿勢を崩さない。
ガマ「またネズミみてえにちょろちょろと! 生き残ったところでその腕で何ができる!」
レイ「忘れたか? 俺はネズミじゃねえって言ったよな」
ガマ「ああン!? 何を強がってやがる! 犬っころは人間様にぶち殺される運命なんだよ!」
レイ「犬でもねえ――」
レッドオーガが振るうメイスにウルフレイジが真っ向から突進する。
交錯する二機の機体。
――ウルフファング――(必殺技:奥の手)
ウルフレイジのオオカミの牙が、レッドオーガの胸部に突き立てられる。
レイ「――オオカミには、牙があるんだよ」
ウルフレイジの顎に、食いちぎられたレッドオーガのコックピットが丸ごと収まっていた。
ウルフレイジの牙がぎちぎちとコックピットにめり込んでいく。
そのまま押しつぶされそうになり悲鳴を上げるガマゼイ。
ガマ「ひっ、ひいいっ! わ、悪かった! 命だけは助けてくれ! 降参だ! 降参!」
レイ「ハッ、言われなくても食えたもんじゃねえや」
レッドオーガのコックピットがウルフレイジの顎から吐き出され、地面を転がる。
アナ『勝負ありッ! 勝者、ウルフレイジ!!』
決着を告げる場内アナウンス。試合場は歓声と怒号に包まれる。
▼シーン9
◯孤児院/夜
◯登場人物
・レイジ
・プライヤ
孤児院の食卓。レイジを囲み、プライヤと子どもたちが電熱線プレートの焼き肉を囲んでいる。
レイ「ひゅー、肉なんてひさびさだぜ! マツザカって何の肉だか知らねえが……高かったんじゃねえか?」
プラ「うーん、わかんないんだけど、試合の後に誰かが届けてくれたのよ。前祝いだって。ほら、ココアの缶もたくさん」
レイ「前祝い? 何の話だ?」
プラ「さあ、わかんない。わかんないと言えば、ガマゼイの手下もなんでいきなり気絶したんだろ」
顔を見合わせて首を傾げるレイジとプライヤ。
二人の注意が焼き網から外れた瞬間、子どもたちが動く。
子どもA「この肉もらいっ!」
レイ「あっ、それ俺が育ててたやつ!」
子どもB「こっちはあたしの!」
プラ「あっ、私のやつ!」
大騒ぎをしているうちに、二人の疑問はうやむやになる。
▼シーン10
◯孤児院外/夜
◯登場人物
・ドナ
孤児院の外、高級車に乗ったドナがレイジたちのはしゃぐ声を聞いている。
ドナ「波乱を期待してるわよ。未来のチャンピオン」
運転席の黒服がドナに声をかける。
黒服「ボス、そろそろお時間が」
ドナ「忙しないわね。出して」
黒服「承知しました」
高級車は薄闇に消えていき、後にはドナが捨てた葉巻の火だけがぽおっと灯っていた。
(了)
氷狼の剣闘機(※シナリオ形式) 瘴気領域@漫画化してます @wantan_tabetai
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