幕間
クレイグ・アレクシス
白と黒、半々に塗り分けられた奇妙な仮面を被った男は、死の間際まで手強かった。
だが実力伯仲とはいかず、俺はほぼ無傷のままで、敵を最後の一手まで追い詰めていた。
「言い残すことはあるか?」
「――クレイグ・アレクシス。貴様ぁ、この私より上がいるとはな。だが覚えておくがいい。ここで私を殺しても、貴様はいずれ私の仲間が殺すのだ」
「……ふン? 貴様の仲間か。確かに手強かったが……しかし俺を殺せるかな?」
「くくく、俺たちが誰だかも知らずに、貴様は殺されるのだ」
「『バランサー』だろう」
「なッ――!? なぜ『バランサー』のことを知っている!?」
馬鹿め、カマをかけただけだ。
しかし驚いたのはこちらも同じこと。
まさか本当に『バランサー』なる存在がいたとはな。
てっきり与太話の類だと信じていなかったのだが。
「昔、教えてくれた奴がいてな。さてもう貴様に用はない。――〈ヴォイドスフィア〉」
虚無の球体が仮面の男の心臓を抉った。
敵の死体を一通り検分した俺は、何の手掛かりも得られずに落胆した。
仮面の下は、亜人種としてはこの地方では珍しい顔のない無貌族のものだ。
魔術に長けた種族だったと聞いたことがある。
「『バランサー』か……」
かつてシャロニカマンサから聞いた話が脳裏を過ぎる。
この大陸に巣食う『バランサー』という名の組織、そして構成員がいることを。
その者たちの目的は不明だが、手段として国家間の戦争を煽っているというのだ。
……バカバカしい、と当時の俺は言ったが。
グレアート王国が都合よくドラゴンと契約したギフトの持ち主を手に入れて、また俺という個人戦力を狙って刺客を送り込んでくる。
都合よく勝利できそうな手札をグレアート王国が揃えすぎていた。
……これは偶然か?
そう考えたときにふと昔、聞いた話が蘇ってきたのだ。
それは『バランサー』という戦争を煽る組織と構成員の名前。
「よもや実在するとはな。まあいい。殺せるものなら殺してみろ。俺はまだ死なんぞ」
死体を〈ストレージ〉へと放り込み、俺は行軍している学生や教師・教授たちのもとへと追いつくべく走り出した。
「なに、マドラインとマシューが刺客を迎撃しに向かっただと!?」
俺はてっきり刺客がひとりだと思い込んでいた。
あのような実力者がふたりも送り込まれていたとは、思いもよらなかった。
――仲間がいる、と言っていた奴の言葉は喫緊のことを指していたのか!!
自分の甘さ加減に苛立ちを覚えたが、今はそのような場合ではない。
マドラインが近接戦闘の熟練者であることは知っているが、それでもマシューたちを加えただけで勝てる相手かは微妙なところだ。
舌打ちを堪えながら、俺は「敵は厄介だ。マドラインとマシューでは死者が出かねん」と告げてマシューたちを追うことにした。
森を身体強化しつつ走る。
【魔力感知】すればまだ小さくない魔力の反応を感じることができる。
しかし曖昧な感触だ、戦闘中というわけではなさそうなのが気にかかるな。
俺はとにかく疲労を訴える身体に鞭を入れて走った。
戦場だった場所には、倒れ伏すマドライン、そしてマシューの近侍であるユーリとルカの姿があった。
どうやら3人は意識を失っているようだが、命に別状はないらしい。
そして傍らに白と黒に塗り分けられた仮面を落とした邪眼族の男がひとり、首を
全身に骨折の跡が見受けられることから、恐らくはマシューが〈エーテルチェイン〉を使ったのではないかと思われる。
……しかしマシューはどこへ行った?
慎重に【魔力感知】を行うが、どうにも霧がかったように手応えがない。
いや、おかしいなこれは。
感触が魔力の痕跡を隠蔽した場合と似ている。
撹乱を目的とした隠蔽手段に違いない。
ならばそれを行った者がいるはずだ。
マシューには教えていない。
ならば、まだ誰かがいるということになる。
俺はユーリとルカ、そしてマドラインの治療に取り掛かることにした。
3人が何かを目撃していればよいが。
やんごとなき血筋チートで全属性魔法と時空魔法を自在に操る僕は後の覇王となる イ尹口欠 @14ibuki
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