85.それは時間にしては短い攻防で。
「さてふたり脱落だ。まだやるかい?」
仮面の男は元の長さに戻した杖を手に、降伏勧告をした。
「ユーリと僕がいる。まだ負けてはいない」
「小僧、勇気と無謀を履き違えていないか? 英雄にでもなったつもりかね?」
「逆に問うけど、君はこの状況で僕たちを見逃して引くのかい?」
「……あーそうか。そうだな、ここでオルスト王国の戦力を削るのが仕事だから、見逃す手はないのか。なら抵抗せずに死ぬってのはどうだ? 楽に殺してやるぜ?」
「御免だね」
「なら戦闘続行だなあ」
剣を構える。
不意打ちで杖を伸ばされたときのために、武器を構えておくのは必須だ。
「ユーリ、ルカとマドライン先生はまだ意識がある。ルカは自力で回復できるから、後は僕たちの頑張り次第だ」
「ああ。このふざけた野郎をぶちのめしてやろうぜ、マシュー」
素早い踏み込みで一撃を放ってきたのは仮面の男だった。
ユーリはそれを槍で弾きながら、後ずさる。
間合いに少し余裕を持たせつつ、防御に徹して時間を稼ぐ構えだ。
僕たちの狙いは明らかな時間稼ぎ、
だから敵は、間合いをさらに開けた。
「近接戦闘だけじゃねえ。俺の武器は“杖”だぞ? ――〈スリープクラウド〉」
風と闇の複合属性魔術。
眠りを誘う白い雲が僕たちを覆う。
ユーリの頭がくらくらと揺れ、その場にへたり込むようにして崩れ落ちた。
僕はなんとか魔術抵抗力を高めて呼吸を浅くしてガスを吸わないようにする。
滞留する眠りの雲、これをまずは吹き散らさなければならない。
「〈ウィンドサーキュレーション〉」
換気の生活魔法だ。
白い雲が晴れる。
仮面の男は「おいおい、俺の〈スリープクラウド〉の中で意識を保ってられるのかよ。なんて魔術抵抗力だ」と呆れたような声を上げた。
こちらは僕以外、全員が眠りに落ちたようだ。
「僕たちふたりだけか。じゃあこっちから行くよ?」
「あン? まだやるのか小僧。まったく、さっきので眠っておけば良かったのになあ」
仮面の男が走り込んでくる。
僕は間合いを開けるよう後退して回避し、長杖が空気を切る。
そして準備していた魔術を放った。
「〈エーテルチェイン〉」
「!?」
不可視の鎖が敵を絡め取る。
さしもの仮面の男とて、ドラゴンを捕縛するエーテルの鎖からは逃れられまい。
「こ、これはまさか、エーテル、だと……!?」
敵は驚愕の表情のままで、なんとか身体強化で鎖に抵抗しようとしている。
だが無情にも鎖は男を締め上げ、全身に鎖の跡が浮き出るまで食い込んでいた。
「終わりだ、仮面の傭兵」
「ぐお、締まる、これは、こんな……!!」
男の仮面が剥がれ落ちた。
そしてその顔を、特徴的な瞳を見て僕は驚愕する。
……こいつ邪眼族だったのか!!
「お、俺の眼を、見たなぁ――」
「う、ぐ!?」
急に呼吸ができなくなる。
僕はなんとか肺に空気を送り込もうと口をパクパクとさせながら、魔術抵抗力を上げる。
しかし敵とてこの好機を逃す手はない。
ありったけの魔力を邪眼に込めて、僕を睨みつける。
「し、死ね、小僧、このまま、――」
「っ!?」
いけない、段々と意識が朦朧としてくる。
〈エーテルチェイン〉だけはなんとか維持しなければ。
ここで僕が倒れれば、全滅してしまう。
「――――」
それは時間にしては短い攻防で。
目の前が真っ暗になった僕は意識を失ってしまった……。
◆
第五章はここまでです。続きが気になる方はフォローと★を入れてくださると、作者のモチベーションが上がりますよ!!
第五章の幕間は明日と明後日、1月10日と11日、そしてその翌週の1月18日の3回となります。
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