84.距離が開けば魔術の出番だ。
僕とユーリとルカ、そして担任教師のマドラインの4人は森を駆ける。
都度【魔力感知】をするが、どうやら敵はこちらを待ち構えているようだ。
「……こちらは4人。だというのに動かないとは、舐められたものだな」
マドラインが金属製の小さな輪っかが並んだものをふたつ取り出す。
小さな輪にはどうやら指を通して握り込む形になるらしく、装着されたそれは両手分のナックルガードなのだと分かった。
しかも両方とも魔力が感じ取れる品だ、もしかしなくてもそれは。
「マドライン先生、それは杖なんですか?」
「そうだ。伊達に無属性魔法の担当教師はしていない。私の得意魔術は身体強化だからな」
特注のナックルガード型の杖とは、この人かなり戦闘慣れしているようだな。
魔導院より騎士学校の方が向いているんじゃないのか?
身体強化魔術を使って走っていた僕たちは、すぐに敵のもとへと到着することができた。
グレアート王国からの刺客と思われるその相手は、顔の右半分が白に、左半分が黒に塗り分けられた仮面を被っていた。
僕たち4人を前にして、仮面の男は静かに腰の金属製の長杖を両手に構える。
「クレイグ・アレクシスではないな」
「残念ながらもうひとりの元へと向かった。貴様の相手は私たちだ」
「そうか。ならば目的は達したようなものだ。――では死ね」
遅延発動された身体強化魔術の数々が仮面の男を強化した。
凄まじい勢いで踏み込み、長柄の杖を振りかぶる。
「〈アクセルナーヴ〉」
呟くような詠唱とともにマドラインが雷属性の神経加速魔術を使う。
振り下ろされた長杖を拳が迎撃する。
「舐めすぎだッ!!」
杖を弾いた拳とは逆側の拳が仮面の男に向けて放たれた。
至近距離からの一撃はしかし、男が素早く上体を反らして回避する。
敵も近接戦闘慣れしているようだ、と判断した僕は剣を抜く。
前衛はマドラインとユーリに任せて、ルカと僕は後方支援に徹するのがいいだろう。
「ユーリ、マドライン先生を手伝ってあげて。ルカは僕と一緒に魔術戦だ」
「おうよ!!」
「わかった!!」
言うが早いかユーリの槍が敵へと突き込まれる。
しかし男の長柄の杖が槍を弾き、マドラインとユーリをまとめて横薙ぎにした。
後退して回避するユーリに対して、敢えて前進して敵の手元を殴りつけるマドライン。
至近距離からさらに拳の連撃を見舞う。
さすがに距離を潰されては長柄の杖を振り回す余裕はない。
仮面の男は一旦、大きく距離を取った。
距離が開けば魔術の出番だ。
遅延して準備していた魔術を放つ。
「〈ライトニングレイ〉」
「〈バーストレイ〉」
僕は雷属性と光属性の複合属性の貫通攻撃魔術、ルカは炎属性と光属性の複合属性の同じく貫通攻撃魔術。
雷光と熱線が仮面の男を襲う。
だが2本の攻撃魔術は、敵の魔術抵抗力により貫通せずに衣服と肉を焦がして終わった。
「
僕とルカに焼かれた腹を押さえながら仮面の男が言った。
敵の軽口を隙と見たユーリが槍による突きを放つ。
「く、さすがにこのレベルの4人は厳しいか! しかしただでやられるわけにもいかねえ。まったく七面倒臭え仕事だぜ」
仮面の男はユーリの槍を杖で弾きながら、後退する。
マドラインが構えたまま、視線を鋭くした。
「仕事? 貴様はグレアート王国の者ではないのか」
「ん……まあいいか、その通りだ。俺はただの雇われに過ぎねえ」
「グレアート王国のために命を賭ける義理がないなら、ここで引くか? 見逃してやるぞ」
「まさか。俺がこの程度の戦場で引く? ははは、有り得ねえよ」
「そうか。――――ならば死ね」
疾風のごとく踏み込み拳を繰り出すマドライン。
対する仮面の男は杖を槍のように持ち、マドラインを迎撃した。
ユーリが槍を構えてマドラインの後詰となっている。
前衛ふたりで押していけている、このままなら仮面の男に勝てるだろう。
そう思っていただけに、次の展開は予想外のものとなった。
「ぐ、なに……!?」
マドラインの脇腹に敵の杖が食い込んでいた。
男は巧みに長杖を振るってマドラインを殴りつける。
ユーリが槍を突き込んでマドラインへの攻撃を妨害するまで、数発はもらっただろう、マドラインがふらふらと足元もおぼつかないまま数歩、下がった。
ユーリが槍の間合いで男と打ち合う。
「ルカ、マドライン先生を治癒して」
「わかった!!」
「――おっと、そいつは困るな」
仮面の男が長柄の杖を振るう。
杖の先端が伸びて、ユーリをかすめてルカへと攻撃が向かった。
「……え?」
「「ルカ!!」」
ユーリと僕の声が重なる。
ルカは無防備なところを伸びた杖に打ち据えられて、その場にうずくまる。
あの杖、伸縮する魔法具だったのか。
マドラインが不意に食らった一撃も、杖を伸ばして間合いを見誤らせたのかもしれない。
厄介な武器だった。
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