吉村と猫
@MORIIKUTO
吉村と猫
僕は町の小さなカフェで、高校時代からの友人の吉村を待っていた。外の空気は秋の気配を帯び、涼しさが心地良かった。カフェの中は温かく、コーヒーの香りが立ち込めていた。吉村とは高校時代からの付き合いで、最近では仕事が忙しくてなかなか会う機会が少なくなっていたけれど、今日は久しぶりに会えるとあって楽しみにしていた。
その日、吉村は遅れると連絡があった。理由は「ちょっと用事ができたから」とのことで、僕は特に気にせず、カフェで過ごす時間を楽しんでいた。窓の外を見ると、町の人々が忙しく歩き回っている。カフェの窓際の席に座りながら、僕は雑誌をめくっていた。
しかし、時間が経っても吉村は現れなかった。最初は交通渋滞や急な仕事のトラブルかと思っていたが、彼からの連絡は途絶えたままだった。何度か携帯電話を確認し、メッセージを送ってみたが、返事はなかった。少し不安になり始めたが、そのうち「きっとすぐに来るだろう」と自分に言い聞かせて、カフェの中でのんびり過ごすことにした。
しばらくして、カフェのドアが開き、小さな黒猫が入ってきた。猫はゆっくりとした足取りで店内を歩き回り、僕の近くで立ち止まった。小さな身体をくねらせて僕を見上げるその猫の瞳は、どこかで見覚えがあるような気がした。まさか、と思いながらも、特に気にせず、その猫がどこへ行くのかを眺めていた。
猫は僕の足元に寄り添い、しばらくじっとしていたが、そのうちどこかへ行ってしまった。僕はそれを不思議に思いながらも、再び雑誌に目を落とした。その後も吉村が現れる気配はなく、僕は次第に不安と苛立ちが募ってきた。
「どうしたんだろう、吉村」と呟きながら、僕は再び携帯電話を確認した。メールもメッセージも届いていなかった。吉村のことを心配しながらも、結局その日はカフェを離れることにした。帰り道に彼の家に立ち寄ってみようかとも考えたが、特に手がかりはなく、ただただ心配だけが募っていた。
その日の夜、家に帰るとき、僕は歩道を歩きながら吉村のことを考えていた。彼がなぜ現れなかったのか、何かトラブルに巻き込まれたのではないかという不安が頭をよぎっていた。そんなとき、突然後ろから不審な車が近づいてきた。街灯が薄暗く、車の速度は速かった。僕はその車の存在に気づかず、無意識に歩き続けた。
その瞬間、あの黒猫が現れ、僕の足元に飛び込んできた。驚いて立ち止まると、猫は僕の脚に絡みつき、必死に逃げようとした。僕は猫の行動に戸惑いながらも、猫の動きについていくことにした。猫はまるで僕を引っ張るように、別の方向へと導こうとしていた。猫の必死な様子を見て、僕は不安に駆られながらも、猫に従うことに決めた。
その後3秒後、車が通り過ぎた。猫が僕を引っ張っていたおかげで、車の通過を回避することができた。車はそのままどこかへ行ってしまい、僕は安堵の息をついた。もし猫がいなかったら、どうなっていたかわからなかった。ただ一つ分かることは、その場所はあいつと僕がいつも別れ際に話していた所であること。そして、動物なんか普段はいない交通量の多いところであるということだ。その時はただ黒猫が僕を守ってくれたのだと、感謝の気持ちでいっぱいになるだけだった。
その後、僕は改めて吉村の家を訪ねてみたが、やはり留守の札がかかっていた。どこに行ってしまったのかはわからなかったが、その夜の出来事が僕に深い印象を残した。僕は猫のことを思い出し、その後もカフェを訪れるたびに猫の姿を探すようになった。
僕はその後も、あの黒猫が吉村であったかどうかは確かめられなかったが、猫が僕を守ってくれたことは間違いなかった。あの猫が命の危険から僕を救ってくれたという事実は、今でも僕の心に深く刻まれている。あの時の感謝の気持ちは、時間が経つにつれてますます強くなり、あの黒猫の存在がどれほど重要であったかを思い出すことがある。
吉村とは連絡がつかないままだし、黒猫を探してもどれがそのときの猫かも分からなかった。
そもそも、日常生活に戻った僕は、あの黒猫がどこに行ったのかを知る由もない。しかし、街を歩くたびにあの猫のことを思い出し、猫が僕を救ってくれた奇跡のような出来事は、今後も心の中で特別な意味を持ち続けるんだと思う。そして、吉村に感謝を伝えたいと願う。
吉村と猫 @MORIIKUTO
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