第100話 ハク、行く夏を見送る
そこへラビラビさんが割って入ってくる。
「まぁまぁ、最終的に行くか行かないかは別として、この船を走らせてみましょうよ? 場合によっては、今後砂漠の階層で砂の海を走る、なんて可能性があるかもしれませんよ!」
そう言われれば、先のことを考えて準備するのは間違っていない。
渋々ハンドルのグリップを握りしめ、魔力を注いでいけば、コックピットのボタンが一気に点灯したよ!
「何これ、超カッコイイ!」
僕もチョロいよね。
「そうでしょう! ここのパネルやスイッチの配列を工夫したんです! 操作性だけでなく、デザイン性にも気を使いましたッ!!」
ラビラビさんが急に熱く語り出したよ!
この船は船内の左右の壁面がモニターになっていて、周囲をほぼ三百六十度映し出すことができるみたい。
モニターに外の景色が映し出されると、ジジ様たちと精霊さんたちが歓声を上げていた。
外だと勘違いしたのか、グリちゃんたちがモニターに突っ込んで、頭をゴッツンコして床に沈むと、バートンとカルロさんが慌てて介抱していたよ。
みんなは頭を擦りながら、照れ隠しに笑っていた。
「窓じゃないですし、窓であっても突っ込むのは駄目ですよ~」
メエメエさんが諭すように声をかける。
まぁ、精霊さんたちは石頭だから大丈夫だろう。
早速ポーションをジュース代わりに飲んで、お菓子を食べているしね。
背後の騒ぎはまるっと無視して、操縦席に張り付いたラビラビさんが指示を出してくる。
「まずは普通に船として走らせてください」
言われるままにゆっくりとアクセルを踏み込めば、魔力消費が限りなく少なくなっていた。
「前の船よりうんと軽いね!」
「ええ、その辺の効率もアップしています。実は海の魔結晶石を、ハンドル内部に組み込んだんですよ。それによってハク様の魔力消費を抑え、かつ素早くトップスピードに乗せることができます。さらにこちらのボタンを押してください!」
ラビラビさんはそう言いながら、自分でポチッと押していた!?
えぇ……?
するとモニターに映る船体の側面に、主翼が現れたのだったッ!!
「えぇぇッ!!」
「この翼があることで、この船は水面に浮かんだまま、海面を疾走することができるのですッ!!」
ラビラビさんのボルテージが最高潮に達した。
そのときこの船は、間違いなく水面ギリギリを飛行していたのだ!
「さらに、このまま翼を第二段階に切り替えて、ハンドルをグッと手前に引いてください!」
またしてもボタンをポチっと押すラビラビさん。
何でも自分で押したいお年ごろなんだね?
恐る恐るハンドルグリップを自分のほうに引いてみれば、船体がゆっくりと浮かび上がったよ!!
モニターに移る翼は、まさに飛行機のようだった!?
「おおぉぉ~!」
背後から歓声が聞こえたよ!
「速度はハク様の意志で変更可能です! おそらく音速にも耐えられると思います!」
ラビラビさんが「はぁはぁ!」言ってて怖い!?
そこへ助手席のアル様が、瞳を輝かせて告げた。
「ちなみにだけどね! この船体の下から魔導砲を発射できるんだよ! これでバジリスクとヒュドラに対抗するんだっ!! マグロやカニエビなんかは、船首に吸引の魔法陣をつけてあるから、自動で吸い込むことができるんだぞ! 集めた魚介や魔石は、『銀枝の樹』の実で作られた異空間に自動転送される! つまり、この船に乗ったまま、バジリスクを倒し、海で漁をし、ヒュドラとの最終決戦に挑むんだぁッ!!!」
熱い! 熱すぎる!!
ほら、珍しくバートンが口を開けたまま、呆然としているじゃない!
っていうか、もう絶対リベンジに行く気なんだねッ!?
おのれ、余計な物を作りやがってッ!!
ふつふつと怒りが湧いてきた!
だけどちょっと待てよと、冷静に考えてみる。
僕は気づいてしまった。
「あれ? この船で第十階層以降もひとっ飛びで踏破できるんじゃない?」
「ぐは! またしてもそこに気づきますかッ!?」
今度はメエメエさんが頭部モフ毛を掻きむしっていた。
「それはいかんぞ、ハク! 水中や砂漠以外ではちゃんと歩いてゆくんだぞ!?」
背後のジジ様から抗議の声が上がったよ。
振りむけば必死の形相をしていた……。
そのあと空飛ぶ船は、植物園の上空を遊覧飛行した。
ナガレさんの湖から流れ出る川を下って、山を越え、魔力の実が植えられた一角を遠くに眺め、さまざまな畑の上空を越えて、広大な穀物畑を眼下に、精霊村の水田を越え、温泉の山を見て、ナガレさんの湖に戻ってきたよ。
フロントガラスから見える景色は、雄大でとても素晴らしかった。
座席に座ったジジ様たちも、植物園内の景色を楽しんでいたよ。
グリちゃんたちはキャッキャと船内を飛び回り、楽しそうに遊んでいた。
外の景色に興味はないようだった――――。
「最後はゆっくりとハンドルを奥に押してください。着水時は長めに距離を取ってください」
ラビラビさんの言うとおり、ゆっくり操作すれば、危なげなく着水することができた。
僕は魔導船の操縦がうまいんだよね!
内心で得意になっていると、ラビラビさんとメエメエさんと、アル様から生温かい視線を貰ったよ!
いいじゃん!
ちょっとくらい自分を褒めたってさ!
数少ない、僕の技能だよ!!
ナガレさんの湖を大きく旋回して、最初に場所に戻って停止する。
「翼の出し入れは、助手席に座った者がタイミングを見ておこなえばいいでしょう。ハク様は操縦に集中してください。仮にハク様以外の者が操縦するときは、船として走行するときのみに限定しましょう。飛行中に魔力切れが起きて墜落なんて、シャレになりませんからね!」
怖いことを言わないでよね!
「ちなみにこちらのボタンを押せば、潜水モードに切り替わります。軽く潜ってみますか?」
そういいながら、勝手にボタンを押すのはやめて!
船は潜水艦のように水中に沈んでいったよ!
「深海の水圧にも耐えられる強度を備えているはずです! 検討を祈ります!」
いきなりお祈りされても困るんだけど!?
まぁ、そんな感じで潜水機能を確認した。
ナガレさんの湖は最深部まで光が届き、水底には真っ白な砂が輝いていた。
ところどころに剥がれ落ちた鱗が転がっているのを見て、メエメエさんが吸引ボタンを押して回収していた。
「おお、助かるのう」
ほっほっほ~と、のん気に笑うナガレさんに、メエメエさんは渋面を作っていたよ。
「ナガレさんの剥がれた鱗は、それだけで神聖な魔力の塊なんです。放っておくと川エビやアユユが暮らせなくなるので、ほどほどで回収しているのですが、見落としがあるようですね……」
「元のナガレさんの湖も、それが原因で魚が棲めなかったんだっけ?」
今はアッシュシオールの湖だけど、ビオトーブを作ってから、虫や小鳥がやってきているよ。
メエメエさんはコクリとうなずいた。
「強すぎる魔力は毒と同じですからね。植物園内の湖の生態系を守るためにも、ここは掃除していきましょう!」
こうして、ナガレさんの湖をグルグル回って掃除することになった。
よく考えてみれば、この水が長寿の聖水なんだもんね。
湖の保全は大事だよ。
ようやく陸に上がったときは、夕方になっていた。
その日は楽しい気分のままに、湖畔でバーベキュー大会となった。
夜遅くまで飲んで食べて騒いで、僕はいつの間にか眠ってしまったみたいなんだけど、目が覚めたらお布団の中にいるんだよね。
寝ぼけ
そのままダンジョンへ運ばれた僕は、ミニチュア船を起動して第七階層から第九階層へ、再び向かうことになったのだった。
「聞いてないよ!!」
僕の必死な抗議の声は封じられ、ケビンとイザークとリオル兄と、ハイエルフのスイさんを加えて出発することになった。
元気なアル様&ジジ様&カルロさんももちろん一緒だ。
詳しいことは番外編のほうを読んでね?
特筆すべき点は、水陸空両用船のおかげで、三つの階層を五日間で駆け抜けることができたんだ。
第九階層の最後に、海の魔結晶石の大穴を下りるとき、確かに時間の
そのときのデータは新しい船にきちんと記録されたそうで、詳しいことはラビラビさんとアル様とエルさんとで、今後検証していくんだってさ。
前回は一週間も時間が経過していたのに、今回は実質四日だったんだよ。
それはダンジョンの気まぐれだったのか、あるいは何かしかの法則があるのか、答えはわからないままだ。
いずれにしても厄介なダンジョンであることに、間違いはない。
***
季節は八月の最終日。
肩から斜めがけしたマジックポシェットに、たくさんの料理とお菓子を詰め込んで、カワウソさんが旅立つときがやってきた。
なんとかお見送りに間に合ってよかったと思う。
ダンジョンにかまけていて、最後はあまり遊べなかったけど、カワウソさんは文句を口にしなかった。
最後にギュッとハグをして、そして別れる。
「元気でね、カワウソさん! また次の季節に会おうね!!」
「うん! また来年来るからね! たくさんお土産を探してくるからねッ!!」
「お土産よりも何よりも、またその笑顔を見せてね」
「ッ!? うんっ!!」
カワウソさんは満面の笑顔で返事をした。
その両目の端に、うっすらと涙が滲んでいたよ…………。
僕らは笑顔で手を振り、空に飛び立つカワウソさんを見送った。
季節はまだまだ暑い夏の終わり。
晴れ渡る青い空の彼方に、カワウソさんと夏の精霊さんたちが遠くなっていく。
その姿が見えなくなるまで、僕は澄み切った青い空を見上げていたんだ。
***
ラビラビさ厨二病発症中。
尾翼とか細かい構造は気にしないでください。
魔法ですべて解決。為せば成るのです!
植物魔法でゆる~くダンジョン行ってみる? さいき @mitsuru-319
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