第99話 新しい船と嫌な予感

 ポーション作りが一段落したころ、ラビラビさんとアル様が息急き切ってやってきた。

「新たな船を作りました! 早速お披露目したいので、ナガレさんの湖に行きましょう!」

 よほど嬉しいのか、ラビラビさんが大ジャンプをしたまま、僕とバートンの頭上を飛び越えた。

 作業テーブルの向こうへ着地すると、そのまま走っていってしまったよ。

 さすが兎さん! 

 アスリートも真っ青な、見事な三段跳びだったね。

 ちなみに下から見えたラビラビさんのズボンは、ピンクのハート柄だったよ!

 ああ見えてファンシーなかわいい物好きだもんね。


 そのあとを追ってきたアル様も、ピッカピカの笑顔で疾走していく。

「ああ、私には真似できないが、ラビラビさんと同じように、空を飛びたい気分だよ! あっはっは~」

 そのままフェードアウトしていったよ。

 重力操作ブーツで飛べるじゃん?

 そう思ったけど告げる間もなかった。


 僕とバートンは顔を見合わせた。

「追いかけたほうがいいのかな?」

「そうでございますね……。放っておくのは、いささか心配でございます」

「野放しにするなってことだね!」

 確認すれば、バートンは無言でうなずいていた。


 そんなわけで、仕方なくラビラビさんとアル様のあとを追っていくことにした。

「みんな~、ナガレさんの湖で新しい船のお披露目だって~」

 保管倉庫内に声をかければ、かくれんぼをしていた精霊さんたちがワラワラと飛び出してきた。

 一番に飛んできたピッカちゃんをキャッチして、ほかの子たちがそろうのを待つ。

 ウキウキワクワク顔の全員を見渡して、キリリと号令をかける。

「よし! それじゃあ、出発!」

「しゅっぱ~つ!」

 七人が声をそろえて拳を突き上げていた。

 バートンも小さく手を上げて笑っていたよ!

 それじゃあ、レッツらゴー!



 ナガレさんの湖には、すでにメエメエさんとジジ様&カルロさんがそろっていた。

 ラビラビさんとアル様も合流して、みんなでワイワイと話しているよ。

 ナガレさんとオコジョさんのほかに、木陰でしょんぼりしているカワウソさんの姿が目に入ってきた。

 テンションが低いのには理由がある。

 もうすぐ八月が終わるから、季節が変わるころには、夏の精霊王さんはここから旅立たなければならないのだ。

 最初のころのようにギャン泣きはしないものの、寂しさはどうしようもないみたい。


 カワウソさんの元へ歩いていって、「こんにちは、カワウソさん」と声をかければ、パッと顔を上げていた。

「元気ないね? これから新しい船のお披露目だって。一緒に見ようよ」

 手を差し出してニッコリ笑えば、嬉しそうにモフ手を乗せてくる。

「うん!」

 カワウソさんは無邪気な姿が一番似合うよ。

 よしよしと、頭をなでておいた。


 カワウソさんと手をつないでラビラビさんの元へ向かうと、みんなが優しい眼差しでこっちを見ていた。

 カワウソさんが落ちこんでいる姿を見て、みんなも気にかけていたんだと思う。

 カワウソさんって、下手すると僕の弟ポジションだもんね!

 みんなに愛されるわけだよ!


 みんなの元へ合流すれば、真っ先にメエメエさんが言葉を発した。

「お父上様は書類の山と格闘中でしたので、そっとスルーしてきました。この船を使うときに見ていただきましょう」

 メエメエさんはあっさりと父様を除外したようだ。

 まぁ、書類の山なら仕方がないよね。

 領主としては最優先するべき事柄だもん。



「よろしければ、こちらをご覧ください!」

 ラビラビさんの声に振り返れば、その手にミニチュアの船が載せられていた。

 飛行機のような縦長で、潜水艦の上部がないフォルムに近いかも?

 こっちの世界の船からは、明らかに逸脱しているね。

 ジジ様&カルロさんとバートンは、すごく不思議そうな顔をしていた。


「第八階層と第九階層をつなぐ階段の幅を考慮して、船体を細長の流線形にして、デッキなどの無駄な部分を省きました。実際に魔力充填して船内をご確認ください!」

 グイグイと僕に押しつけてくるよね~。

 もうちょっと遠慮しようよ?

 ミニチュアの船を手渡されると、アル様に身体をクルリと回転させられて、グイグイ背中を押された!

「さぁ行こう! お楽しみが待っているぞ!」

 そのハイテンションが怖いんですけど……。



 以前のように湖の浅瀬に歩いていって、ミニチュアの船を水に浸して魔力を注ぐ。

 グングン吸い取られて、瞬く間に船は大きくなったけど、以前のクルーザーよりも小さくて細長い。

 船体は後部に向かってやや細くなっていた。

「ここから乗り込みます!」

 ラビラビさんとメエメエさんが扉を開けて乗り込めば、おもしろ好きのオコジョさんとアル様が続いていく。

 僕は相変わらずのフヨ~飛びで乗船した。

 僕の背中にぶつかるように、カワウソさんと七人の精霊さんたちが飛び込んできて、うっかり倒れそうになると、すかさずバートンが支えてくれた!

「一人ずつ順番に乗船いたしましょう」

「は~い!」

 注意されてから元気な返事をしても、もう遅いけどね?

 最後にジジ様とカルロさんが、笑って乗り込んだ。


 船内は飛行機とか新幹線の車内を思わせる作りで、天井は大柄なジジ様の頭がつくかつかないかくらい。

 座席が二十席用意されている。

 真ん中の通路を進めば、先頭のコックピットには運転席と助手席が用意されていた。

 コックピットは前回よりもずっと洗練されていて、いろんなボタンやモニターがついている。

「まずは適当に座ってください」

 それを合図にみんなが適当な席に座った。

「おお! 座り心地が最高だな!」

「おお! ワシのベッドにしたいッ!?」

 リクライニングするラグジュアリーな座席に、ジジ様とオコジョさんが感動していた。

 ニュアンスは違ったけど……。


「今回は客室とデッキ部分をすべて無くしました。この幅ならダンジョンの階段をギリギリ通り抜けられるはずです。操縦の揺れで船体をこすったとしても、簡単には破損しませんよ! なんといっても、第四階層の巨大カメの甲羅を使用していますからね!」

 へぇ、よく加工できたね。


 ところでさ、さっきから気になっているんだけど……。

「なんでダンジョンの階段の幅に固執しているのよ? 今後もまたあんな危険な階層があると思っているの??」

 素朴な疑問を口にすれば、ラビラビさんはそっと目を逸らし、メエメエさんとアル様と、ジジ様とカルロさんは素晴らしい笑顔を僕に向けてきた。

 えぇ?


「何を言っているのですか! ほかの従士たちとハイエルフのスイさんにも、あのスリリングを体験してもらわなければなりませんッ!! マグロ漁に出発するんですよッ!!!」

 メエメエさんが叫んだ。


 一拍置いて。

「えぇぇぇぇ~~ッッ!!!!!」

 今度は僕の絶叫が船内に響き渡ったよ!


「やぁやぁ、落ち着き給え、や」

 助手席に腰かけたアル様が、不気味な笑顔で話しかけてきた!

 しかもハク君だなんて、初めて呼んだよ!?

 これは絶対に怪しい!!


 僕が引いているのを察知して、アル様はわざとらしく咳払いした。

「まぁ、ちょっと考えておくれよ。第七階層から第九階層までは転移ポータルが無いために、進み続けるしかない地獄の階層だっただろう? 今後も転移ポータルのない階層が増えるかもしれないし、挑み続ける以上は、メンバーの補充はできるようにしておきたいじゃないか? それに従士のヒューゴ君とルイス君だけを、ずっとこの先も連れていくとなると、不公平で軋轢あつれきを生む可能性があると思うんだよ?」

 アル様はメエメエさんのように、もっともらしく話している。


 けれど僕は簡単には首を振らないよ!

「それはそうだけど、そこは父様の一声で黙るんじゃないの? 従士にとって当主の命令は絶対だよね?」

 真っ当な意見を言ってみたら、アル様が「ぐはっ! ハクに気づかれた!」とか言って、胸の辺りをギュッと握り締めて目を閉じたんだ。

 メエメエさんも目をかっぴらいて驚愕している!?

 ちょっと、あなたたち!

 僕に対する認識がおかしいんじゃないの!?

 僕は助手席のひとりと一匹を、ジト目で見詰めた。

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