第98話 海の魔結晶石は危険物
「ちなみにこの海の魔結晶石は、青色サンゴの十倍の魔力タンクになります! ああ、この一欠片にどれほどの魔力を込められるのでしょうかッ!! 興奮が止まりませんッ!!!」
って!
ちょっと、僕の眼前に顔を寄せるのはやめてよ!
ヒゲがほっぺに当たっているじゃない!
鼻息もッ!!
ほんと、そういうところはメエメエさんと一緒だよね!!
「えぇ~。一緒にしないでくださいよ~」
メエメエさんは空中に浮かびながら、まったりと草餅を食べていた。
自分の興味のないことには、適当な対応をしやがってッ!
メエメエさんの草餅を奪い取って、モキュモキュ全部食べてやったよ!!
「あぁ! 私の草餅~~ッ!?」
大袈裟に叫びながら、次の草餅を取り出しで、モギュッと噛みついていた。
イラッ!?
そんな僕らにはまったく興味がないようで、ラビラビさんは僕の拳の隙間に、無理っと海の魔結晶石を押し込んだ!
「それくらいの魔力が入るか確認してくださいね! じゃあ、これは宿題ということで、後日レポートを提出してください!」
用は終わったとばかりに、ラビラビさんはタッタカ走って戻っていく。
切り替えが早いね!
途中で何かを思い出したのか、パッと空中に飛び上がり、その場で一回転しながら叫んだよ。
「あ! 例の船はニューバージョンを造船中です! 皆さん、お楽しみに~~ッ!!」
空中でターンを決めて消えたよ!
「ちょっと、空飛ぶ船とかマジでやめてよッ!!」
叫ぶ僕の肩に、アル様がポンと両手を置いた。
「まぁまぁ、いいじゃないか! 空飛ぶ船で世界の旅に出るなんて素晴らしい案だよ!! 前人未到の偉業になるぞ!!!」
「いいですね! そのときは是非、私も連れていってくださいね!」
エルさんも輝く笑顔を向けてきた。
ライさんとスフィルさんが頭を抱えていたけれど。
ジジ様とカルロさんは、いつの間にかバーベキュー場のほうに移動していて、精霊さんたちと楽しく食べて飲んで盛り上がっていたよ。
その日の夜。
とりあえず、例の海の魔結晶石を小さな巾着に入れて、首から下げて眠ってみたら、翌日スッキリ起きれなかった。
精霊さんたちがボーッとする僕の異変に気づいて、魔力の実を口に押し込んでくれたんだけど、ちょっと待ってくれる?
「まりょく、へってる~!」
「まりょくのみ、たべてーッ!」
「もっと、たくさん!」
「ぼくのも、あげる!!」
「わたしのも、いる~?」
「あいあい!」
待って、待って!? 全部は一気に口に入らないからッ!!
「みんな、ちょっと待って! まずは普通に起きてご飯を食べたほうがいいと思うんだ!」
僕もユエちゃんが正しいと思う!
「まずは朝ご飯を食べます! たぶんそれで回復するから!!」
「は~い!」
僕の精霊さんたちは、ときに危険生物になるね。
そんなわけで朝食をモリモリ食べて、足りない分は自前のシュワシュワポーションを飲んで回復した。
小食の僕がおかわりまでしたので、父様やリオル兄、バートンとマーサまでもが目を真ん丸にして驚いていたよ。
「坊ちゃま! どこか具合が悪いのですか? 朝からポーションまで飲んで!?」
マーサが慌てて駆け寄ってきたので、全員に海の魔結晶石の説明をして、なんとか納得してもらったよ。
もう、心配しすぎ。
「心配するのは当たり前です!」
逆に叱られちゃったよ……。
むむむ。
一方でリオル兄は興味津々で僕の手元をのぞき込んでいた。
「これはラビラビさんに戻すから、今はあげられないよ?」
「ああ、見るだけだよ。それにしても綺麗だねぇ」
巾着の上に置かれたままの、海の魔結晶石の美しさに魅了されている。
父様も気になったのか僕の席までやってきて、後ろからのぞき込んで感嘆の声を上げていた。
「魔力を補充しないでただの宝石にできるなら、素晴らしい石なのだが……」
父様の言いたいことはわかるよ。
手にした人の魔力を強制的に吸収したら、これは一種の凶器になり得るもんね。
「この海の魔結晶石は、青色サンゴの十倍の容量があるといっていたけど、吸引力も十倍なのかな? だとすると寝ているときに魔力を吸われるのは危険かも……」
「次はちゃんと起きているときに、休み休みやったほうがいいね」
リオル兄に指摘された。
「うん、次からは注意するよ」
という内容を、ラビラビさんに口頭で伝えに行ったら、メッチャ睨まれた。
「レポートを提出するよう、お願いしましたよね? 今聞いた内容を私が記録するんですか?」
「そうしてくれる? 僕も面倒だから!」
「ムッキーッ!?」
ラビラビさんがキレて椅子から大ジャンプをしたよ!?
噴火するような勢いだよね!
カッカカッカと大爆発だ!!
触らぬ神に
僕は何食わぬ顔でその場をあとにして、保管倉庫内を歩いてみることにした。
その後ろを精霊さんたちとバートンがついてくる。
「本日はこちらにご用がおありですか?」
バートンに声を掛けられたので、なんともなしに答えてみた。
「特にないけど、うっかりソウコちゃんに会えないかな~なんて?」
ガタッ!!
どこかで物音が聞こえてハッとした。
僕とバートンがキョロキョロ周囲の棚を見回しても、なんの気配も感じられない。
「みんなはソウコちゃんのことを知ってる?」
精霊さんたちに聴いてみれば、小首をかしげていた。
「う~んとね~」
「いるよね~」
「でも、あったことないかも~?」
「そだねー」
「う~ん? たぶん、にかい?」
フウちゃんのつぶやきに、上で慌てる気配を感じたぞ。
だけどユエちゃんが腰に手を当て僕を止めた。
「探さないであげてよ。誰にだって会いたくない人がいるでしょ? ボクも闇の世界を知ってから、たまにひとりで潜るとホッとするんだよね。みんなと一緒にいるほうが楽しいけど、誰にだってそんなときがあるでしょう? ハクだって引きこもりなんだからさ!」
ビシッと言われたよ!?
僕も引きこもりだったッ!!
「ついでにニートだし!!」
えぇーーッ!?
ヨロヨロと棚にもたれかかって項垂れる僕を見て、セイちゃんがオロオロしていた。
そんなセイちゃんを抱っこしたバートンが、「大丈夫ですよ」と笑いかけている。
「坊ちゃまは箱入り息子ですから、お屋敷という箱からほとんど出ないのです」
「あいあい!」
ちょ!
家人公認の引きニートだった僕。
…………だけど待って!
「僕は薬師として働いていたじゃない! ここは売り物のポーションを作って、ニートでないことを示さなくっちゃ!!」
僕は急いで作業テーブルに向かい、その日は一日中、超集中でポーションを作りまくった。
「在庫が不安でしたので、この調子で明日も頑張りましょう」
「お仕事しなくっちゃね!」
笑顔のバートンと、ユエちゃんにしてやられた気がする。
どっちみち、父様の仕事の関係ですぐにはダンジョンに行けないからと、数日ポーション作りに没頭することになったのだった。
数日後。
「これだけあればまたしばらく大丈夫でしょう」
バートンが出来上がった普通ポーションをマジックバッグにしまいながら、安堵の息をついていた。
聞けば『精霊の森商会』の在庫が少なくなっていて、限定販売の数量を調節しようかと話し合っていたところなんだって。
「それならもっと早く言ってくれればいいのに」
思わずつぶやけば、バートンは首を振っていた。
「危険なダンジョンで命を懸けて戦っているハク様に、無理をさせることはできません。仮に店頭から普通ポーションが消えても、ほかの商材がありますので商売に影響はございませんから」
バートンの優しさに、僕はうるっときたのだった。
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