あの夏の日の黒部ダム!

崔 梨遙(再)

1話完結:1200字

 僕は1人暮らしをしていることが長かった。滋賀、名古屋、岡山、大阪、仕事の都合で何度か引っ越しもした。一人暮らしだったので、長期休暇になると知人が来ることが多かった。


 長期休暇中、その夏は知人AとBが遊びに来た。知人Aは、


「旅行に行こう! 旅行に行きたい!」


と、ずっと言っていた。せっかくの長期休暇、とにかく旅行に行きたかったらしい。僕も、


「僕は行ってもええよ」


と答えていた。


 問題はBだった。


「俺も行きたいんやけどな、金が無いからな」


と、繰り返す。僕は、“俺が金を出すから一緒に行こうや!”と、僕等に言ってもらうのを待っていると思った。同じことを繰り返し言うのが怪しい! だから、僕は絶対にその言葉を口に出さなかった。僕は先手を打って、


「僕は失業中やから、自分の分しか出されへんで」


と言った。実際、その時の僕は失業中(転職活動中)だった。金が無いわけではなかったが、節約したい気分だったのだ。


「俺が金を出すから一緒に行こうや」


 痺れを切らせたAが言った。その時、Bが満面の笑みを見せたところを僕は見逃さなかった。“あーあ、結局Bの思う壺かぁ”と思った。だが、その時、僕は嫌な予感がした。


 行き先は黒部ダムに決まった。僕達3人は出発した。


 黒部ダムには感動した。絶景だった。黒部は夏と冬、2回行った方がいいと聞いていたが、とりあえず夏黒部を見ることは出来た。充実した旅行だった。


 ただ、黒部は物価が高い。ロープウエイ、バス、宿泊代、食事代、全て割高だった。僕は予想していたが、AとBはそこまで予測していなかったようだ。BはAに金を出してもらってる割にはあまり礼を言わない。僕は、Bが最初からAに出してもらうつもりだったと思う。Aは、昔から“俺が出したるから行こうぜ!”と言うタイプだったのだ。それはいい。Aの勝手だ。だが、僕の嫌な予感は続いていた。


 予感的中。


「崔君もBの分、半分出してや」


 Aに言われた。そういうことになる予感がしていたのだ。だが、“俺が出すから一緒に行こう”と行ったのはAであって僕ではない。しかも僕は失業中だと告げている。失業中の僕に出せというのか? その配慮の無さは不快だった。僕は言った。


「最初に言うたやろ、僕は自分の分しか出さへんで。“俺が出したるから行こう!”って言うたのはAやんか。AとBで話し合ってくれ」


 勿論、その後、雰囲気は悪くなった。僕はBが悪いと思っている。金が絡むと雰囲気が悪くなる時がある。僕は、最初からそれがわかっていたのだ。全て、僕の予感通りだった。Bは飄々としていたが、Aは露骨に不満そうな顔をしていた。だから、黒部ダム旅行を僕は良い思い出だと思っていない。



 今回は、嫌な思い出を書いてみました。たまにはいいでしょう?笑







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あの夏の日の黒部ダム! 崔 梨遙(再) @sairiyousai

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