第3話:クランベリージュースとアイスコーヒー

「いらっしゃいませー。1名様でしょうか。」


店員にそう聞かれた俺は、一人であることとテイクアウトであることを伝えた。そのままレジに案内されたので、そちらに向かう。レジには男が一人と女が一人。となると、俺は三番目か。別に急いではいないからゆっくりと待とう。


なんだ。二番目に待っている男が綺麗な目を丸くして、驚いた様子で、レジで会計をしている女を見つめている。知り合いか?知り合いにしては過剰に驚いている気もする。


さては、昔の女だな。声をかけるのか、かけないのか、少し見ものだな。


おっ、払い終わりのタイミングで声をかけた。話しかけられた女も驚いている。その瞬間、少し気まずい雰囲気がこちらにも伝わった。その溝が広がりそうな空気に橋を架けるかの如く、男が何か話し始めた。少しだけ、女の驚いた顔がほぐれたような気がしたと思ったら、女のほうも何かを話し始めた。男の右手が、小刻みに震えている。だが、女の話が終わる頃には、男は目じりを垂らして笑っていた。うまくいったのだろうか。


二人はレジで会計を済ませたと思ったら、続けてテイクアウトの注文をした。一瞬だったような、少し長かったような、不思議な時間の感覚にとらわれたが、俺の番が回ってきた。そのままホットコーヒーを注文し、カウンターへ向かおうとしたその時、俺は気づいた。前の二人が、注文番号が書かれたレシートを忘れている。二人にそのレシートを手渡すついでに、二人が何を注文したのかを見てやった。そこにはこう書かれていた。



「クランベリージュースとアイスコーヒー」

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クランベリージュースとアイスコーヒー さかな @SakanaChicken

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