終幕 / 暁(没ネタ供養)

 数年の歳月が流れ、山奥の静かな場所に、かつての鬼退治の英雄・藤太の塚が建てられた。苔むした石塔の周りには、野の花が咲き乱れ、風に揺れる草木が塚を優しく包み込んでいた。

 ある夜更け、月光が薄く霞む中、一つの影が塚に近づいてきた。それは夜叉丸だった。彼の姿は人間の姿に変わっていたが、その目には鬼特有の赤い光が宿っていた。

 夜叉丸は静かに塚の前にしゃがみ込むと、懐から小さな包みを取り出した。それを丁寧に開くと、中から二つに割れた小さな鬼の面が現れた。かつて捨が作った、羅刹丸の顔を模した木彫りの面だった。


「兄者、そして…藤太」


 夜叉丸は低い声で呟いた。


「お二人の魂が安らかでありますように」


 彼は割れた面を大切そうに塚の前に置いた。月の光を受けて、面は不思議な輝きを放っているように見えた。夜叉丸は黙祷を捧げると、ゆっくりと立ち上がった。彼の姿は再び霧のように薄くなり、やがて夜の闇に溶けていった。


 翌朝、最初の日の光が塚を照らす頃、朝露に濡れた面は、まるで涙を流しているかのように光り、静かに朝を迎えていた。

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鬼一夜物語 とりにく @tori29umai0123

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