第19話 パラレル・ブランチ
手で探ってみようとは思わなかった。
死地の覚えはないがなぜか悠然と構えられた。
視覚なし。
聴覚なし。
嗅覚なし。
触覚なし。
直感も働かない。
ついでに味覚も見当たらなそうになかった。
あるのは自分だけ。
存在だけ。
深呼吸している自分と、心臓の音を聞いている自分。
「ある」ことの分岐に立っていた。
自由にできそうで制限されている。
動いているのかもわからない。
頭の中では選択をしている。
むずっ。
ツノのあるあたりに感覚が走った。
そこからたくさんのアタシが空間を占める。
現れては消え、消えては現れる。
それぞれバラバラの姿勢、動作だ。
近いようで遠く認識している。
時空が尋常じゃないのだ。
乱舞していたアタシはやがて2つに収束する。
物語とさまざまに関わり合って救っていく物語。
地球を我が家にしながら、遥か遠くへと物語を探究していく物語。
足が踏みとどまり、その先は見えない。
どのように、選んでもいい。
罪も罰もないのだから。
それでも、とあなたは躊躇う。
これは究極の2択だ。
選ばなかった物語は死に、この世界から無くなってしまう。
別の世界へと跳躍する。
選択は1択のはずなのに、足が踏み出せずにいる。
なぜなら、存在だけなのだから!
さらに、本来あり得ないはずのパラレルなブランチが存在すると識ってしまったのだ。
私は物語をなんとかして捏ね始めた。
……花は歌い、聴いた鳥は羽ばたかずにその場に憩う。
思わず囀っていたので身体を震わせたアタシは独りぼっちなのを思い知らされ、切れ切れの想いをソラに浮かべた。
寛いだり、食べたいだけ食べたり、興奮したりを満喫している。
それでも私は独りの帝国なのだった。
ひとりでも物語はできる。
ところが読むもののいない、他人が関与しない物語は果たして「物語」として存在理由はあるのであろうか?
私だけの物語は自分に向かって語っているだけでただの自己満足ではないのか?
アタシのは「書かれたもの」だ。
物語だとして着飾ってみたが、自分だけの場所で完結している。
物語を加えても、大筋においてどっちかなのだろう。
語るといっておきながら、物語そのものを考えてしまった。
そうだ、アタシは考えるというブランチをとる。
そこから物語がにじみ出てくることで動きが生まれ、少しずつ選択を進めていくのだ。
パラレルなブランチを歓迎しよう。
ところが、集中が切れたのか、もとの自宅の自分の部屋に戻ってきてしまった。
今日はこんなところだ。
そのまま夜まで寝込んでしまった。
夢は見ず、果てに深くコーマしたのだった。
おにっこほいほいいっしゅうきいたん 水;雨 @Zyxt
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