我が娘、我が人生

白川津 中々

◾️

まったくこれっぽっちも身に覚えがないのだがどうやら俺には今年25になる娘がいたらしい。


いつどこで誰に宿し産まれた子種か知らんが男としての責任がある。成人しているとはいえ娘は娘。これまでの子不幸を取り返すべくマッチングを実施。某刻某所にある喫茶ハリネズミにて約束を取り付け当日。不安な中テーブル席にてレスカ(レモンスカッシュである)を前に鎮座。程なく、カランコロンと来店を告げる鐘の音。客である。来たかと思い固くなっていると、そいつはドシドシと俺の方に近づいてきたのだった。



うん、ドシドシ?



犀でも歩いてくるのかという足音。訝しみ音の方を見てみると小結程度の体躯を持つチュートップのサングラスレディと目が合う。まさかこいつが……




「ダディ」




開口一番、ダディ。

daddy:父親を意味する略式後。幼児語としても使われる。




被れてんなぁという思いをグッと呑み込み俺の娘だと理解。「名前は」と聞くと小結は「ヒロミ」と答えた。


俺はヒロミと膝を突き合わし、色々と話した。生後間も無く巨大な鷹に連れ去られジャングルの動物達に育てられた事。密猟者に裁きをくだしながら生きてきた事。レンジャー部隊に見つかり保護されアメリカのファミリーに預けられた事。そこで虐待を受け逃走した事。道中出会った鳥や馬やシロナガスクジラ達に助けられて日本に帰国した事。そしてマルチ商法に騙されて数千万の借金を背負っている事。波瀾万丈どころの騒ぎではない。





「ダディ、私、お金払えない」




涙ながらにそう訴える我が娘ヒロミ。壮絶な人生に流され借金地獄とは忍びない。親としての責任を取らねばならぬだろう。




「大丈夫だ、なんとかする」




そう告げると、ヒロミは満面の笑みで「テンキューダディ」と叫びテーブルにハンドスラップ。レスカが入ったグラスが倒れた。




明日から一日二食、趣味の物は売ろう。




大変な毎日になりそうだったが迷いも苦しみもなかった。他ならぬ娘のため。俺はヒロミのために今後の一切を捧げると天地神明に誓う。




明日から、いや、今日から頑張ろう。




心は、晴れやかだった。

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