フリーレンとか鬼滅とか見てて思うけど「対話不能・共感不能・制御不能な奴は殺すしかない」みたいな価値観って、 たとえばわたしみたいなコミュ障は殺されるしかなくなるんだよな

ヨーダ=レイ

第1話

 だってわたしも周りから見れば「対話不能」で「共感不能」で「制御不能」だからね。対話不能で共感不能で制御不能な奴は殺すしかないんでしょ? じゃあわたしも殺されちゃうじゃん。

 まあわたしの場合はただの経験不足、怠惰な人生の自業自得だから「殺されたくないなら直せばいいじゃん、直せないなら死ね」で済むんだけどさ。これ障碍者みたいな「コミュニケーションが困難な社会的弱者」や、あるいは「違う宗教を信じてる異教徒・他の人種」、はたまた「趣味嗜好が違う別ジャンルのオタク」でも成り立つ話なわけで、そこら辺いったいどうやって整合性取るんだろうねってのは思うんだよね。


 たぶんそこの線引きは作品の主題じゃないからそこまで掘り下げてないんだろうし、線引きがあるとすれば「対話する気がない・共感する気がない・制御する気もない」みたいな「意志の有無」なんだろうけど、それってパワハラ上司が使えない部下を「やる気あんのかオマエ」って激詰めするのと同じだよね。

 実際のところそういうロジックを障碍者みたいな弱者に向ける時点で、そいつの倫理や自制の問題だから作品のせいじゃあないのだが、そのドライでわかりやすい短絡的な部分だけ取り出して「カッコいい!クール!共感できる~!」なんて称揚してんのは危ういと言わざるを得ないよな。


 なんでこういうものが流行るのかを考えたんだけどさ。現実問題としてポリコレ建前不殺主義その他キレイゴトでいくら取り繕おうが、どうやっても対話不能だけど付き合わざるを得ない相手(ムカつく上司、役立たずの部下、無能な教師、気に障るクラスメート、クソみてえな毒親etc)ってのにはどうしてもぶつかるじゃん。だからそこへの憂さ晴らしって部分もあるんだろうね。そう言う奴らをぶっ殺してやれたらどんだけスッキリするんだろうなーっていう。

 ただ、コミュニケーションは双方向だからその対話不能ってのは「先方に話が通じないのであれば実は此方も同じくらい話が通じてない・理解できてない」し、つまり「両者に責任がある」のよね。そういう自分側の責任を認めたくない奴が、憂さ晴らしにそういう価値観に身を寄せている部分もあるんだろうな。人のことお手軽に殺したがる前にまずお前の罪を数えろ。


 言っておくけど、別にわたしは「対話しなくちゃいけない」なんて言ってるわけでは無いんですよ。対話や包摂ばっかりが文明の進歩かっていうとそうでもないしね。

 たださ、別に「殺すしかない」でもいいんだけど、飽く迄もそれは「技術的・倫理的その他の限界で現状はそうするしかない」というだけの話であって、「殺すしかない」こと自体はカッコよくはない、むしろ「ダサイ」んだよ。相手を殺すなんて結論、相手との折り合いがついてないじゃん。その手のダークヒーローは単にカッコつけで殺してるわけじゃないし、少年誌の制約で殺しを厭うてるわけでもない。

 じゃないとわたしは殺されるかもしれない立場だし、せめて殺されるとしても悼まれるくらいはしてほしいんだよね。単に技術その他の限界を超えられなくて「殺すしかない」だけのことを「カッコいい!クール!共感できる~!」なんて称揚されてたら、わたし殺されても悼まれることすらないし、そこから発展することもないじゃん。

 まあフリーレンはどうだか知らんが少なくとも鬼滅はそこら辺自覚的で、鬼殺隊も全肯定可能な集団としては描いてないし、炭治郎も鬼の首を刎ねたあと相手の苦しみに寄り添って悼んでくれるじゃん。そういう話よ。


 「対話不能・共感不能・制御不能な奴は殺すしかない」みたいな価値観は、「そうならないように最大限努力してんだよなア!?」って大前提があってこその話で、その大前提をすっ飛ばして「対話不能・共感不能・制御不能な奴は殺すしかない」に至るのはコスパは良いかもしれないが、それで殺される側の人間からすればたまったもんではないのだ。コスパだけで物事回ってんのかよってーの。

 ちなみにフリーレンはここら辺ちゃんとやってて「1000年ものあいだ魔族と向き合い続けた結果の経験則」から「Frieren the Slayer:葬送のフリーレン」として覚悟キメてるんだよね。で、「敵を容赦なく殺す決断が出来るなんてリアリスト、カッコいい!クール!共感できる~!」なんて言ってる奴は、じゃあ1000年間その問題と向き合ったのかよって話なのよさ。そこらへん、お手軽にすっ飛ばしてんじゃねえよ。


 まあだいぶgdgdしてきたから結論に行くんだけど、つまり飽く迄もフィクションはフィクションってことです。「みんな仲良く分かり合ってハッピーエンド~♪」がお花畑の絵空事なら、「対話不能で共感不能で制御不能な奴は殺すしかない」も相当に馬鹿げた絵空事なのだということ。しかし後者に関してはコスパの良いライフハックとして現実に適用しやすいし、真に受けて実行に移すいかれたバカも相当多いから、気を引き締めて付き合わないとダメですよーん。


 ……っていうお話だったのさ。


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