まともなのは僕だけか

 集まっている作戦室に入ると、10人程度が集まっていた。だが以前よりは減っている上、その中に牧場は居ない。

 以前に牧場が立っていた場所に宮下が立っていた為、俺は宮下の後ろに並ぶ。


「各員、よく集まった。これより今回の例外案件について説明する」


 佐伯がホワイトボードに映像を映し出すと、そこには一人の女性が逃げ惑う姿と数十名の人間がそれを追いかける情景が映し出された。


「この女性は、人気アーティストのARIA。彼女が何故か、洗脳された市民に追いかけられているという状況になっている」


 …嘘ぉ、えっ…嘘ぉ…。ここまで犯人の路線だったじゃん。急に被害者路線に走るなんて嘘だろ…?じゃあ誰が犯人なんだよ…


「設定された難度は二。今回の選出する2名はは市民を傷つけず、ARIAを救うことを優先する。名を呼ばれた者は前へ」


 見た感じ40人位が追っかけてるな。この人数を相手取るのは骨が折れるだろうなあ。


「風間 優斗!」


 へぇ、風間さんは大変……………俺!?いきなりかよ、畜生!実績から選ばれるだろうなとは思ってたけどさ!


「能力での無血戦果を期待している。【悪化ゼパル】の時の失態も含めて頑張ってくれたまえ」

「………はい」


 俺から目を逸らすと、正面の集まる人間からもう1人を選出した。


「2人目、砧 裕二きぬた ゆうじ!」

「はい」


 砧…げぇっ!アイツかよ!

 金髪ロングの変態がスタスタと歩いてきている。奴は一ノ瀬狂いのド変態だ。畜生…チームアップさせられるなんて…


「以上を『臨時砧班』とし、作戦にあたる。基本的には砧が捕縛し、風間が意識を奪うこと。では準備にかかれ、解散!」


 そう言って全員が散って行った。そういや人が居ない時は班をどうするんだとは思って居たが、なるほど。臨時で班を組むのか。

 とは言え砧と同じか………嫌だなぁ………

 嫌悪感を顔に出しかけたその時、砧が俺の肩を掴んでネットりとした声で囁く。


「よろしく頼む」


 俺はその場から飛び退いて身を守るために臨戦態勢をとる。


「そんなに警戒しなくても良いだろう?」


 警戒するだろ。あんなネトネトしたボイスで後ろから囁きやがって。いつものダウナーな雰囲気はどうした。

 俺の前に手が出て、一ノ瀬が砧との間に割って入る。


「少年に手を出すな」


 一ノ瀬を見た瞬間、砧の顔が狂気に歪んだ。その状態で嬉しそうな声色で話しかける。


「そんな事はしませんよ。ご安心を」

「…どうだか。後、その笑顔やめろって何回も言ったろ。気持ち悪いぞ」

「おや、失敬」


 アレ笑顔だったんだ。失礼だけどアレはヤベぇよ。形容しがたい顔してる。


「少年も、コイツに何かされたらすぐ報告してね。次元の彼方に消し飛ばすから」


 アンタの能力だと、デリップを次元の彼方に消し飛ばしてるしシャレになってねぇんだよ。

 …アレ、顔がガチだ。シャレじゃなくてマジ?尚更言えるわけねぇだろ


「肝に銘じます」

「よし、じゃ準備しといで」


 なんなんだよコイツら、本当に…


 ********************


「…よし」


 俺は学校指定のジャージに着替えると、軽く準備運動をして身体を温める。

 例外対策部は緊急性を要した、「総出撃コール」が掛らない限りは焦って準備をしなくてもよい。

 大抵は膠着状態だったり、警察が時間を稼げている上、最悪一ノ瀬の能力でどうにかなるからだ。


「…あの人、すげぇ人だよな…」


 一ノ瀬の強さと重要性を再確認しては、アレに組織の根幹を握られている現状を憂う。

 だからこそ、彼女は隊長では無いのだろう。重要だけど中枢にしたくない、という上の強い意志を感じるし、何より老人達の胃がお労しい。

 色んな所で鬱陶しく感じるルールは作ってくれているが、それだけは同情する。


「やあ、


 背後から響く男の声。それは金髪ロングの男が発したものだった。

 全身の鳥肌が逆立って仕方がない。やめろ、キモさとキモさで融合召喚するのは。


「…うん?装備はソレでいいのか」

「ええ、まあ」

「随分と身軽だな。まあ身体強化の練度からしても身軽な方が動きやすいか」


 そう言う彼の装備は、機動隊の装備を身軽にした様なもの。

 牧場のつけている物に似ているが、全体的に大きく変更されている。主に全身のプロテクターが外され、黒いジャケットの腰辺りに10個ほどカートリッジのようなものがついているのが大きな違いだろうか。


「プロテクター、要らないんすか?」

「ん?あぁ、普通はつけないぞ。基本は身体強化で受けれるしな」


 牧場はつけていたけどな。身体強化で受けれないという弱い意志の現れか?


「牧場の装備なら、アレは本人のものでは無い。プロテクターが有効活用できる人間がつけていたのを、意味もなく纏っているだけだ」


 人の思考を読んで人の上司をディスるなよ。

 とは言え、成程。本人の装備でないのなら…ああ、そういうことか。アレ

 まあ、死亡率高いって言ってたしな。特段珍しいことでも無いのだろう。


「功を立てればそのうち専用装備が貰える。励めよ、


 その少年呼びキモイからやめてくれねぇかな。


 ****************


「少年、コイツに何かされたらイヤホンでちゃんと報告してね」


 一ノ瀬は牽制するように喚く。だからアンタに報告したら人員が1個消えるんだよ。


「しませんよ、一ノ瀬さん」


 砧はキモさを抑えきれていない笑みで微笑む。口ではこういっているが、信用ならないというかなんというか…


「信用出来ないっての!アンタが昔───」

「いつまで話している!早く飛ばせ!」


 一ノ瀬が何か言いかけた所で、佐伯が大声を上げて静止した。

 それを聞いた一ノ瀬は、渋々と能力の使用体制に入る。


「少年。大丈夫だろうけど、無事に帰ってきてね」

「………はい」

「俺には無いんですか?」

「ねェよ。とっとと行け!」


 ボヒュ、と音がして外に放り出される。今回はキッチリ地面の上にテレポートしていた。

 よかった、ヤッパリあん時がおかしかったんだな。また上空からフリーフォールしたら心臓が爆発するぞ。


「さて……」


 俺たちは正面を見る。

 警察たちがプラスチックの盾で何十人もの市民をを先に行かせまいと粘るが、力負けしている現場を目にする。


「早く、早くこっちに!」

「応援はまだか!」

「ぐうううううううう!!」


 その遥か先、警察に援護されながらも逃げ惑うARIAを目視した。

 砧も目にしたのか、俺に対して合図を送る。


「護衛対象確認。行くぞ」

「了解」


 俺は軽く返答し、警察の盾から漏れた洗脳市民に狙いを定めた。

 砧は腰につけてあったカートリッジを軽く空中に放り、警察達が押える市民に目をつける。


「【繊維操作スパイダー】」

「【奪え】!」


 戦闘が、始まった。

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GRAND ANCHOR 冴山 有事 @MOB-23657

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