金魚の遺体は見つからないように裏庭に埋める

金魚の遺体は見つからないように裏庭に埋める

　今、僕の目の前には、へんてこなお嬢さんがいる。

「私、赤姫よ。神様になったの」

　見ず知らずの女性が突然やって来て、そんな事を言うのだ。頭がおかしいとしか思えない。

　世界的な異常気象に世界大戦も相まって、人類が滅びに向かっているこんなご時世だから、仕方が無いのかもしれないが。

　因みに赤姫とは、昨日１９年と８カ月の天寿を全うした、僕のペットであった金魚の事だ。長く一緒にいたからこそ、悲しみも深い。

　多くのペットが食料として軍に接収されて行く中、僕は赤姫を隠し続けて来た。だから僕は裏庭に赤姫の遺体を見つからないように埋める。仮に見つかれば、遺体でも食料として接収されてしまう。それが堪らなく嫌だったからだ。

　幸せに生きたなら幸せに眠って欲しいと思うのは、残された者のエゴだろうか。

「貴女なんて知らない。帰ってくれませんか」

　こんな非常識は腹立たしいが、赤姫の名前を知っているだけに騒ぎにはしたくはない。だから、丁寧に対応する。

「あれれ。君、健太郎だよね。おっかしいなぁ」

　彼女は、僕の名前も知っていた。

「貴女は、誰だ」

「だから、赤姫だって。金魚の赤姫だよ」

　金魚という言葉に、周りの人間が反応をした気がする。これ以上はと思い、僕は彼女を部屋の中へと入れた。

「もう片付けちゃったんだ」

　彼女は残念そうに、昨日まで水槽が置いてあった台の上で体育座りをする。誰も知る筈のない事を知っている彼女が怖くなる一方、もしかしたらと思ってしまう。

「あのね。生き物が死ぬと、生前の幸・不幸の総量で次の生まれ先が決まるんだって」

　神様は幸せをエネルギーにして、悪魔は不幸をエネルギーに生物を転生させるらしい。多くのエネルギーがあれば、より神や悪魔に近い存在へ生まれる。ざっくり言うと、そんな感じだ。

「私の場合は、幸せが天元突破していたから、生物じゃなくて神様になったんだ。まあ、見習いだけど」

　僕のお陰だよといって微笑む彼女の顔が、赤姫の姿に重なって見えた。いや、違う。僕の目の前で、実際に赤姫が跳ねていた。

「はあ、死ぬかと思った」

　すぐに元の姿に戻ったけど。このちょっと抜けている所も、赤姫ぽい。

「神の力は凄いのよ。もう配給だけの生活はお終いにしてあげる」

　彼女は神々しい光を纏うと、飛び出して行く。

　少しして、彼女は小枝や葉っぱや蜘蛛の巣を纏い戻って来た。その手に、獣や茸を持って。

「神の力って、物理！？」

　僕は、声を上げて笑った。