第56話

「なるほど、あの九尾の狐を現世に復帰させようとする八咫烏という組織が在って、君たちは過去に八咫烏の始祖の吉備真備に裏切られ、生まれ変わっても、色々と巻き込まれているというわけですね。

 しかし、瘴気を生み出す忌神の蛭子淡島も九尾の狐と同様に現世に呼び出すつもりなんでしょうね。瘴気を召喚して死霊術を操る八咫烏にとって百人力でしょう」


 日本神話では蛭子も淡島もイザナギとイザナミの二柱の間に生まれた第1子と第2子だったはずだ。不具が原因で海に流され、その後漂着物として神になったはずだが……。しかし、クジラの漂着物は厄災を呼ぶと忌み嫌われいる地域もあったようだから、その信仰があの化けクジラを生み出したかもしれない。


「それで、あなたたちが修羅道から悟りも救いも無しに抜け出した人たちでよろしいのですね? 三十三天から報告を受けています」


「「「「「「すみません!!」」」」」


 敵に回してはいけない。摩利支天の言葉に俺たちはすぐに頭を下げた。


「いいんですよ。それも神が与えた修行ですから。あなたたちはさらに強くなり、さらに大きな試練を与えられたのです」


 摩利支天はそういうと、俺に支えられている輝夜の前に進み出て頭を下げて片膝を折った。すると、摩利支天に率いられた天使(戦乙女)軍団全員が摩利支天のマネをして頭を垂れたのだ。


「ハヤサスラヒメ様の生まれ変わりの輝夜様。あなた様がこの地を離れて現世では数十年の歳月が流れ、瘴気が現世に洩れ出るようになっております。

 すでにご存じのとおり、今日まで瘴気を祓える祓戸大神も穢れ払いの「比礼」も失われたままでした。

 今日ここに、ハヤサスラヒメ様の血を引き継ぎ、穢れ払いの神の御業に覚醒されたことはめでたきことでございます。

 が、我々は現世にまかり出ることはできません。どうかあなた様が、神が創り給うた輪廻転生の修行の場「六道」をお守りください」


 さらに深々とお辞儀する摩利支天を始めとする天使軍団に恐縮している輝夜。でも、決意が力を与えたのか俺の腕を掴むの自力で立ち上がった。


「私一人だとそんな大それたことは無理です。でも、陣君たちとなら一緒にできそうです」


 汗をかいた額に前髪が張り付いた疲れ顔をキリっと引き締めると、摩利支天に向かって云った。


「もちろん、八咫烏どもに恨みを晴らすついでにやったるか!!」

「裏天皇がこんな身近にいるんやから、こんどこそ悲願を叶えるで!!」

「八咫烏に一泡吹かせちゃる!!」

「世界の選択の答え合わせをするだけ」


 輝夜の言葉に彩夏、陸、七星、柊が答える。だが、俺はさっき戦った玉藻だけでなく、スパイだった青や乗っ取られた可能性が高い長老も八咫烏のいる。そして、未だに遭えない吉備真備の真の実力は?


 先の見えない戦いに、出そうになったため息を飲み込んで、何もしなけれが流されるだけ、すべての人が不幸になる未来が待っているだけ……。


 輝夜の瞳が決意を促している。参ったな~、修羅道を経験した俺は……、より強い敵を求めるだけだ。


 黙っていた俺をみんなが見ている。


「輝夜、とりあえず次にぶっ殺す奴は誰にする」

「うん、みんなに任せる。私はこれ以上不幸になる人がでないように祈り舞うだけだから」

「「「「「「御意に」」」」」」


 慈愛に充ちた輝夜の態度に摩利支天や俺たちは声を揃えた。


「ハヤサスラヒメ様、いや輝夜様、現世と常世の境は他にもあります。六道辻に一条戻り橋、九尾の狐と蛭子淡島はそちらに向かったという報告です。

 まずは現世にお戻りいただき、本日の疲れを残されませんように……。本懐を遂げますこと、天国よりお祈りしております」


 摩利支天がそう告げると、俺たちの足元に陰陽移転陣が浮かび上がり、目の前の景色がぶれると眩暈がした。そして、目を開けると、宇良神社の地下の祭壇、龍穴の中にいた。


 まずは「比礼」をみつけるという目的は達した。そして、副産物として輝夜の覚醒があった。だけど、良いことばかりじゃない。九尾の狐の正体である玉藻前、実際に戦ってみてホントヤバい奴だった。摩利支天たちの助力を得てあそこで倒して置くべきだったが、逃げられてしまった。


 俺達の姿を見た神主が「首尾は上々だな」の言葉に「戦いはこれからだ」というセリフを飲み込む。


まずは笑顔で答えたのだった。


「「「「「「ただいま!!」」」」」」

 



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ここまで、読んで頂きありがとうございます。

とりあえず第一章「完」ということです。続きがあるかどうかは現時点では白紙です。再開した時にはよろしくお願いします。

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巷の桃太郎は脇役で、温羅!浦!裏!ウラが主役の物語 天津 虹 @yfa22359

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