第55話 すると輝夜は光に包まれ、
すると輝夜は光に包まれ、荘厳な音楽が布切れから流れ出した。これは神社でよく聞く音楽だけどなんで? 輝夜もその音楽が流れると、優雅な動きで輝夜を支えている彩夏をふり払うと、宙に浮き、ごく自然に神楽を舞いだした。
輝夜の表情は完全に抜け落ち、元々美しかった顔は彫刻のような神々しい芸術品に見紛うばかりで、透き通る声で歌うように祝詞まであげだした。
さすが、神社の娘!と感心してしまった。感心しているのは俺だけじゃなく、俺の牽制している戦乙女たちも息を飲んでいる。
セオリツヒメにハヤアキツヒメ、イブキドヌシにハヤサスラヒメの名が聞こえてくる。輝夜が舞っているのは大祓い祝詞だ。
輝夜が舞う度に、輝夜を中心に柔らかい光の波紋が広がり、瘴気が浄化され消えていく。
輝夜が手に入れたのは、俺達が探し求めた「比礼」!?
この時空を覆っていた瘴気はほとんどなくなり、海の色も美しく澄んだ青に変わり、魔物も巨大化した体が萎(しぼ)んでいく。
弱体化した魔物が次々と刈り取られ、魔物たちの咆哮(ほうこう)が消え、辺りは静寂に包まれた。
そして、光を受けた俺も肉体強化で膨れ上がった肉体が元に戻り、額に生えていた角も光の粒子になって消えてしまった。
「な、なに? 角が消えた?」
「だから人間だと言っているじゃないか!!」
「待て! 動くんじゃない! お前の処遇は摩利支天様に決めて貰う!」
なおも警戒する戦乙女たちのもとに、魔物の駆除が終わって、同じような戦乙女たちが集まって来る。
そして、一部の戦乙女たちが化けクジラを吹っ飛ばした時に消し飛んだ砂嘴を復旧させている。
念を込めるというのか体から異様なオーラが放たれると、巻き戻しのビデオを見るように海の中から砂浜が現われその上に松林が出来上がる。
あっという間に元の天橋立のような砂嘴が出来上がった。
空を舞っていた輝夜は砂浜にゆっくりと降り立つと、スローテンポな舞いからバレリーナに近い跳んだり廻ったりのアグレッシブな踊りに変わる。そして、クライマックスはピルエットという片足を軸にクルクルと廻るバレーのターンですべてを人を魅了する。
最後の回転をピタッと止めると両手を広げて天を仰ぐ。この空間の瘴気は完全になくなっていた。
彩夏たちから一斉に拍手が上がる。輝夜はその拍手に答えるようにニコッと微笑むと満足そうに目を瞑った。
「危ない!!」
輝夜が精魂尽き晴れて倒れそうになった瞬間、俺に向けられていた刃先を三辰で弾くと輝夜の所に飛んで行った。
倒れそうな輝夜を抱きしめると、体は熱を帯びている。
「大丈夫か?」
「うん、この布は何なんだろうね? 体が勝手に動き出すし、体力の限界だよ……」
俺の腕の中で、生気なく弱々しく笑う。そんな俺たちに背後から声を掛ける者がいた。
「君たちは何者だ? 何でここにいる?」
声に振り返ると、戦乙女たちの中でも人期は目立つ甲冑に身を包んだ金髪碧眼の美少女がいた。今までの戦乙女たちも綺麗だったが、この人はさらにその上をいくマジ天使である。
いつの間には百人はいる戦乙女たちに取り囲まれ、その戦乙女たちから守る様に彩夏たちも輝夜の周りを固めていた。
「そういうあなたたちは?」
彩夏が警戒しながら天使に云い返す。
「これは失礼した。我々は天国を守護する第一天使軍団です。私は天使長の摩利支天です。この時空で異変が感知され、急行してみれば地獄の住人である九尾の狐と蛭子淡島(ひるこあわしま)がいる。あの者達と戦っていたようですが、君たちは我々の味方なのか、それとも敵対するつもりなのか?」
自分を摩利支天というこの少女は、キリスト教では黙示録でサタンと戦うミカエルに神道では当たる大天使のようだ。悪い人ではなさそうだし、敵対するつもりもない
。俺たちは一三〇〇年前の出来事を話し、裏切られた温羅一族の生まれ変わりであり、宇良神社で起こったこと、ここには「比礼」を探しにきたことを長々と説明した。
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