コンビニ

烏目浩輔

コンビニ

 今春に大学生になった吉岡大樹さんは、コンビニでアルバイトをしているという。そのコンビニで妙なことがあるそうだ。

 

 吉岡さんのほかにもYさんというアルバイトスタッフがいた。

 レジに立って接客していたYさんは、列に並んでいる次の客に声をかけた。

「次の方、どうぞ」

 しかし、レジの前には誰も並んでいなかった。

 レジ待ちのすべての客に対応したというのに、なぜかもうひとり客がいるような気がしたのだ。

 そう勘違いしてしまった理由は、Yさん自身にもわからないという。


 また、Hさんというスタッフはこのような経験をした。

 品出し作業を行っていると、レジのほうに誰かの気配を感じた。客が精算のためにレジに並んだのだろう。

 Hさんは品出しを中止した。

「少々お待ちください」

 急いでレジに向かったのだが、客はどこにも認められなかった。

 よくよく考えてみると、Hさんは客の姿を見ていない。 

 そこに客がいるような気がしただけだった。


 そして、吉岡さん自身もこんな経験をした。

 数人の学生が立ち読みして帰っていったあと、書籍コーナーに並んでいる本が乱れていた。

 本を整えてからレジに戻ろうとしたとき、近くにいる客とぶつかりそうになった。

 吉岡さんは反射的に足を止めて、客との接触をぎりぎりで回避した。

「申しわけありませんでした」

 慌てて頭をさげてから気がついた。

 目の前には誰の姿もない。

 いるような気がしただけで、実際は誰もいなかった。


 以上の三つの話は一例にすぎないという。ほかにも似たようなことがいくつも起きているそうだ。客のいない場面で客がいると、なぜかスタッフがそんな勘違いをする。

 昼間のスタッフも夜間のスタッフも、ほとんどが同じような経験をしていた。


 さらには、こんなこともあるという。

 レジのそばでなにか作業をしていると、入り口の自動ドアがすうっと開く。しかし、客の姿はどこにも認められず、誰かが入ってくることもない。

 入店する客がいないというのに、なぜか入り口の自動ドアが開くのだ。

 一度も開かない日もあるのだが、数回開くという日もあった。


 人感センサーに不具合が起きているのかもしれない。店長が業者に修理を依頼したのだが、特に機械的な問題は見つからなかった。それでも入り口の自動ドアはときどき不自然に開いた。


 客の姿はどこにも見あたらずに、誰かが入ってくるようすもない。

 にもかかわらず、すうっと開くのだという。


     (了)


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