旅に出たい

@kurageyoru

第1話


「はぁ、笑える、旅に出たいなぁ」


「なに言ってんのお前さっきからおかしいぞ」


「ん?そんなことなくね、俺は俺」


「まあ次からはこんな夜中に急に電話すんなよ」


「へいへいへい、すいませんのぉ、じゃあまた明日あ」

明日なんてなかった、次もなかった。

この会話を最後に17歳高橋優也は自ら空に散り亡くなった、いや消えた。

僕は正直信じられなかった。

信じたくないことほど本当に他人事のように聞こえ逆に冷静になれる。

あいつが、あんな奴が自ら死を選ぶなんて。

てかまずまずあいつは自ら死を選んだのか?ちょっと飛んでみたら楽しそうって言ういつものノリで飛んでみたら死んだバカみたいな事故ではないのか?

それもどれも笑えないよな。

あいつは初めて会った頃からおかしな奴だった。

だからか周りにはいじられキャラで通っていた。

友達も沢山いたし、見かける時にはいつも違う友達とつるんでいた。

そんな奴が、急に、僕の机に、いや僕に、話しかけてきた。


「俺らは絶対似てるとこあるし、相性もばっつぐんなきがするんだけど、かぐっちはどうおもう?」

かぐっち?なんだそれ女児がつけるあだ名みたいだなと思って気に食わなかった。

こんなネーミングセンスが腐ってるやつと似てる?だとしたら僕はもっと自分を嫌いになるだろう。

そう、おかしい奴、第一印象最悪。

そんな出会いなのになぜ毎日絡むようになったのだろう。

この日からあいつは僕としか話さなくなった。

ん?それはなぜだ?そもそも似てるとか、相性良いとか、なんなんだ。

あいつが亡くなった今、初歩的な疑問にぶつかった。

そもそもなぜ、亡くなる直前僕に電話を?

あんなに友達がいるあいつが、なんで僕に?

なんで僕なんだよっ!

てかそもそもなんで死んだんだよっ、

もうだめだ。気づいたらあいつのことばかり。早くこの疑問にキリをつけてお前とはもうおさらばしてぇんだよ!


勝手に死んでんじゃねぇよ!



「あぁ青春してぇっ!だってさみんな周りに彼女やら彼氏やらいていちゃついてんだべ?許せねぇーわぁまじでぇ」


「それはモテないお前が悪いだろ」


「あいー?何か言ったかな?神楽ちゃん?てか今思ったけど神楽って名前かっこよくていいな。俺がくれてやるよ」


「貰ってくれって頼んだ覚えはねぇよ」


「ねぇ冷たいかぐっち…じゃあじゃあほらほらかぐっちの好きなタイプとか」


「人をからかわない人?んーなんだろ考えたことなかった」


「おっれはぁーカラオケで採点つけよって言わない人割り勘の時計算早い人かな」


「ロマンもクソもねぇな」


「うるせぇ、そーゆーことの連続なんですぅ」

あったなこんなこと帰り道お互いチャリ通なのにチャリ漕がずにダラダラ帰ってた時


「あなたにとって青春とは!」


「青春は過去にあり、現在、今この時にはない」


「味気なぁぁぁー」


「うるさいな、人によって青春の存在の大きさも変わるんだよ。だからつまり…その、まあ、考えすぎんなよっ」


「なにそれぇ笑やっぱりかぐっちは面白いねぇ」

いつもあいつといる時自分が自分じゃないみたいで、新しい自分を呼び起こされてる感覚になる


はぁいつも夜になると死にたくなるのはなんでなんだろうなぁ

そんなこと考えないで早く寝ろなんて言わないでくれよ

この時間が自分にとって1日で一番大事で辛い時間なんだよ

神楽はいつも机にくっついて本ばかり読んでいた。

その本はどれも面白そうな内容で、あんな感じなのにブックカバーはつけないんだって思ってそこも面白くって

俺も神楽みたいになりたい、ずっとそう思って見てきた。

向こうは俺を見ることすらないだろうけど。

一回さあいつが読んでた本読んだこともあるんだ、そしたらもう止まらなくって徹夜してぜんぶ読んだな。

そのくらいハマったしなんか、感性が似てるのかなとかおもっちゃって

俺だったらこの小説読んでるやつと友達になってみたいと思ったんだよなあ

その日から俺は小説にハマっていった。

ある日、またいつものように神楽を眺めていたら、つい前に読んだばっかの小説を読んでいた。

そしたら、あいつ。泣いてたんだよな。

あぁそうだよな泣くよな、俺も泣いたもん、多分最終章くらいだろう、まじでいいよな

あれ、やっぱり似てるところがあるんじゃ、

て言うか同じ時期に同じ小説で泣いてる時点で俺たちはどこか似てるんじゃないか

もう我慢できなくなった。

声をかけてしまった。


「俺らは絶対似てるとこあるし、相性もばっつぐんなきがするんだけど、かぐっちはどうおもう?」

かぐっちってなんだよ、はぁ俺はいつも人との距離がわからなくなる

ごめんなかぐっち。

あいつはセミを見るような目で俺をみていた

つまり、うるせえな、なんだこいつ、早くどっか行ってくれ、まああだ名のセンスはいいけど、

とか思ってたんだろうなあ。

これをきっかけに俺と神楽、佐藤神楽は毎日ずっと一緒にしょーもねぇ会話やことをしていくようになった。

案外あいつは俺に付き合ってくれた。

めんどくさそうにね。

それもおかしな話でさ、お前は全部俺のツボなんだよ。

お前はどうかいいやつ見つけて結婚して家庭作って幸せになって欲しいなあ


「高橋、なんか痩せた?」


「は?駄菓子大量に買ったやつに言うやつじゃないって笑かぐっち、あ、いや佐藤ってやっぱおもろ、ちょっと買いすぎたかなあ500円以内って言ったの俺からなのにさぁみてよこれ」


「キャベツ太朗しかないじゃん」


「はっはっ!笑える!!」


「バカかお前は」


「なあ佐藤はさ、正直さと思いやりどっちを大事にする?」


「なんだよ急に、僕は正直さだよ、お前と違ってな」


「はぁ?俺も正直さだしぃ、わかった気になるなよっ」

そういってお前は笑った。

いや作り笑いにその場しのぎの笑いに聞こえた。


「へーそうなんだぁ、意外」

棒読みでいったつもりだ、頑張った方

本当は意外だった、お前は正直さをとるんだ、だとしたらお前、嘘ついてるよ、だって出来てねぇよお前は。


「なんだよ、その棒読み笑」

あいつ、高橋は作り笑いが得意なやつだなと思った。

いつも笑ってるが、心の底から笑ってる表情じゃないし声じゃない。

僕はわかっていた、けど、わざわざ言うことでもないし、ずっと黙っていた。


佐藤はわかってくれているかな。俺のほとんどが嘘で出来てること。

甲高い笑い声、会話する時の大きめのリアクションと声、ちょっと天然な素振り

人当たりいいですよぉって感じの話し方、誰にでも興味あるよっていう態度、明るい性格…

挙げるとキリがないな。

夜になると、自分がわからなくなる。今までの自分は自分じゃないみたいで、何かが喉に詰まって吐きそうになる。


(佐藤みたいになれたらなぁ)

これの一言に尽きる。佐藤はありのままで生きてるって感じがする。

すごい憧れるんだよ、お前の前では言えることではないけどな

なあ佐藤、俺は何者なんだ?佐藤から俺はどう見えてる?もうずっと迷子なんだよ

なあこの生き地獄から救ってくれないか?

明日も自分を作る。早く今から調整しなくちゃ。


「高橋、なにその包帯」


「ん?あぁおしゃれ的な?あるだろ、傷ないのに顔に絆創膏つけてるやつ、それと一緒」


「お前はほんとにバカというかなんと言うか、」


「なんだよっ言ってみろよっ」


「厨二病」


「はっはっ嬉しいなぁ、そう思ってくれてたのぉ、まじ嬉しい」


「やっぱりお前、変」


「面白いの間違いかな?」


「高橋ってすごいすごいモテんじゃん、なんで付き合わねぇの?」


「ん?佐藤ちゃんがいるからぁ?」


「キモ」


「なんかわからないけどなんか、なぁあれだよあれ」


「なんだ、ただのたらし、D Dってわけか」


「はあ?ちげえけど、っ」


「まあ僕はどっちでもいいけど」

何か理由があるんだと思う。こんなにいいやつなのに、人当たりのいいやつなのに

お前と連んでいるとお前に対しての疑問がちょいちょい出てくるのに、全部僕にとっては小さなことだから、別にいいやって乗り過ごしてきたんだよな。

でも、お前にとっては小さくなんてなくて、大きくて、いや、大きすぎたんだろうな。


「高橋くん、好き、付き合って、」


「…いいよ、これからよろしく!」


こんなノリで付き合ったのは3回か5回か、いや8回か、とりあえず付き合ってみる

こんな恋愛ばかりだった。

俺は基本他人に興味がない。

でも興味があるふりをする、言って欲しい言葉をかけることができる。

だから度々勘違いされるんだ。


「優也くん、私のこと好きでしょ?なら付き合ってあげてもいいよ」

なんでこんなにも上から目線なんだ。

俺は付き合いたくないけど、でも断る勇気はなかった。


「優也、連絡全然してこないよね」

連絡したいなら君から連絡してくれればいいじゃん、めんどくさ


「ごめんごめん、最近忙しくってさ笑」

そして、めんどくさくなり、負担になり始める。

ただでさえ自分のことで精一杯なのに、他の人に相手してられるわけがない、

ほとんど一方的に振って連絡先を消す。

その繰り返しだった、断る勇気がなく、ずるずる続いて、自ら一方的に振る。

本当に最低な人間だった。

佐藤ならもう最初から振るんだろうな。俺にもそんなことができたらな。

でも佐藤と出会って少し自分も変われてる気がしていた。

少しずつ自分らしく居られる気がしていた。


「包帯し始めてもう一週間経つけど、飽きないわけ?」


「飽きねえよ、だってかっこいいんだもん」


「手に包帯って、手洗われないじゃん」


「だから学校でトイレは行かないようにしてんの」


「なにそれ、おしゃれ優先で生理的なこと無視できんの逆にすげぇよ、お前すげぇ」


「え?佐藤が褒めてくれるとかちょー珍しいんですけどぉ!うれしぃ。」


「そーゆーつもりじゃねえよ、引くわぁってことだよっ」

僕でもちょっとおかしいとは思った。こいつがオシャレに気を配れるようなやつではなかったし、そんなにこだわりが強いやつでもないのに、むしろ飽き性なあいつが一週間も包帯つけてるとかどう考えてもおかしかった。だから、聞こうかなとか思ったけど、やっぱり僕の疑問は小さいことだよなって自分で納得してわざわざ聞かなかった。

こんなことになるなら全部、自分が小さいって思ってた疑問ぶつけとけばよかった。

そうすれば今こうやってフラッシュバックする必要もなかったんだ。


「包帯の話はやめようよ、まじでどーもないし、大したことでもないんだからさ。」

夜に限らず俺はずっと自分に失望している。自分に嫌気が刺して、気持ち悪く思う。

そして自分を無性に傷つけたくなる。

自分を傷つけなければ、傷がないと生きている意味が無い、傷が自分の存在を満たしてくれる。

痛めつければ心が満たされるようになっていった。こんなのダサいってわかってる、カッコ悪いって、でもさ、もうそんなこともどうでもよくなるんだよ。


(このまま、他人からこう思われたいって思いもどうでもよくなってくれたらいいのにな)


「あぁーいーなぁ、佐藤見てあそこカップルがイチャイチャしてやんの、公共の場だろ?くそぉぉぉ俺本当に人のこと好きになってみたいなぁ、ほら俺が初めて話しかけた時佐藤が読んでた本、あーゆー恋愛してみたいよなあ」


「あれ最後ヒロイン死ぬんだぞ、それでもか?まあわからなくないけどな、あーゆー純粋な恋愛してみたいよな」


「え?佐藤でも恋愛したいって思うことあったんだ。いがぁーい♡」


「好きな人出来たことないけど」


「俺も、まぁ同じ、なんか虚しくなるだけだからこの話やめようぜぇ」


「お前が始めたんだろうが」

「人の好意とか気持ち悪くなっちゃうんだよなあ、俺。お前は?」


「まず、好意を向けられたことがない。」


「あ、やべ地雷ふんだったあ」


「別に気にしてないし」


「ふーん」

思い返すと高橋は恋愛をしたいのかしたくないのかわからないやつだった。なんとなく昔噂で


「高橋って誰とでも付き合うらしいぜ、でもすぐ振るんだって、最低だよな笑」

みたいなのを盗み聞きで聞いたことがあった。本当なのか本当じゃないのか分からなかったが、本人に確かめる必要もないか、そもそも興味ないからいいか、どれも小さなことばかりだな。と思ってスルーしてた。僕の人生は大体こんな感じ嫌なことあっても寝たら忘れるし、みんなが大袈裟に騒いでることもどれも小さなことに見えて仕方がなかった。だから興味もないし、抱くこともない。でも高橋は違ったんだよな。

あいつ平気そうに見えて、全然平気じゃなかったんだ多分。


「僕、気になる女子出来た。」


「え!佐藤が!すげえじゃん!誰誰誰っ?」


「坂本さん」


「お、おお、さ、坂本さんね、坂本さん」


「なに?どうかした?」


「いや、なんでもない、多分いい人だと思うよ、俺応援するな!」

はじめてだった、はじめての初恋だった。

選択授業で一緒になって席が自由なのにも関わらず僕の隣に座ってきた。

その瞬間黒い長い髪がたなびき純粋に綺麗だと思った。


「隣、いい?」


「あ、うん」

この会話しかしてないが、それからと言うものその子のことしか考えられなくなった。

隣の席にわざわざ座ったのが好意だとすれば、高橋が言っていた好意は気持ち悪いは完全に否定できるようだった。


ピンポーン

家のインターホンが鳴った。

誰だこんな時間に。

もう0時過ぎだった、あいにく両親は仕事でいなかった。

インターホンを鳴らしたのは

高橋だった。


「こんな夜遅くにごめんな、ちょっと梅ジュース買ってきたからさ、ほらお前の誕生日祝い。

向こうの公園で一緒にのまねぇ?」


「そういえば今日誕生日か。別にいいよ、親いないし。」


「じゃあ決まりだな」


「あの、」


「なんだよ佐藤」


「あ、ありがとう」


「なに硬くなってんだよ!これくらい当たり前だろ?ほら、早く出てこいよ、行くぞ。」

青春は過去にあり今にはないと言ったが、これからなにが始まるんだろう、わくわくでいっぱいだった。これが青春なのかもしれない。


「つーか学校とかでもよかったのに、0時にお祝いとかはじめてだわ僕」


「それは俺も一緒だよ」

高橋はいつもと雰囲気が違いあまり話さなかったし、目も合わせてくれなかった。

きっと照れ臭かったんだろう。そう思いたい。

そして公園に着いた。


「よし、準備はいいな!」


「おう」


「18歳の誕生日おめでとう!かんぱーい!」


「かんぱーい、てかなんで梅なんだよ、」


「え、俺が好きだから」


「ふつう相手が好きなの買うだろ」


「え、ごめん、だって知らんもん」


「それは、そうだな」


「実はさ、あの、お前の好きな坂本さん」


「どうかした?」


「俺の初恋…の人」


「っえっ、やべ、こぼした」


「初恋だけど、振られ、実らず.笑、で、でもなもう吹っ切れてんの。中学一緒で卒業式の日に告って、でもダメだった。」


「あの、」


「でも、でもさ、いいタイミングって言うか、あ、これは俺の中の話ね、すごいね、いいタイミングなんだよ」


「お前、さっきからなに言ってんの?」


「とにかく、お前、告白しろ!な!」


「は?」


「絶対実る恋なんだって!断言する!だから告白しろ。お前ってなかなかのイケメンメガネくんじゃん?」


「メガネは余計だ」


「俺ずっと思ってたんだよな、お前はどうかいいやつ見つけて結婚して家庭作って幸せになって欲しいなあって」


「なんだよ急に、てかそんなことずっと思ってたのかよ、なんか変な感じ、そんなこと言ったらお前がまるでいい奴が見つからないで結婚できないって言ってるみたいじゃんか」


「俺は…」

なんだ、くらくらしてきたあんまり高橋の声が聞こえない


「もうこんな人生、嫌になっ...」

なんだなんだなんなんだ

「俺、お前が…告白 せいこうしたら...」

高橋のやつ間違えてアルコール入ってるやつ買ってきたなこいつっ

「この世界から消えようと思う。」

っ!?

なんだ夢か、高橋の葬儀から帰ってきてすぐ寝ちゃったんだな。

ん?待てよ、本当に夢か?


「ねぇ母さん僕の誕生日の日…」


「あぁ大変だったのよ、よれよれで帰ってきて、高橋くんがあんたのこと擁護して家まで連れてきてくれたのよ」


「『すいません!俺間違えて一本梅酒買ってきてたみたいで、ほんとすいません!』

って言って何回も謝ってくれたわ、そんな子が自ら死ぬなんてねぇ、やりきれないわ」

っ!?夢じゃなかったんだやっぱり、そうだやっぱり、


「俺は、もうこんな人生嫌なんだ、お前にはずっと隠してたけどあの包帯、自分で叩いてできた傷を隠すためのものだったんだよ。告白振られたからこうなったわけじゃないから勘違いするなよ、昔からだよ、全部今までの俺ずっと嘘なんだ、だから、ごめんな、もうしんどくなって

でも、お前と絡む時はすごく楽だったよ、すげぇ楽しかった。

俺はずっとお前になりたかった。けど、なれなかった。

お前が告白成功したら俺、もうやり残すことないわ笑

だから絶対成功させろよ!

あとな、なぁ!なぁ!どうした!?聞いてんのか!?おーい!」


(え、なんか、急に蘇ってきた、成功したらやり残すことがない?)

っえっ、そんな、そ、そんな、なんで、


「先週はありがとうなぁ、僕ふらふらになったみたいで、途中でお前の話わからなくなった。なんて言ってたんだ?」


「ん?あー、しょうもないことだよ。てか俺こそほんとにごめんな未成年飲酒させてしまって申し訳ない。」


「あ、そうそう、告白した」


「っは!?早くないっ!?お前ってほんとすごいよな、実行に移すのが早いっつーか、なんつーか、で?結果は!?」


「おっけいだとよ、」


「…ま、まじ?…よかったじゃん…よかったぁ、ほんとによかったぁ」


「なにお前お母さん?もっとガキみたいに喜べよ」


「息子よ」


「やかましいわ」

え、え、あれ、いや、あれ、

あと、忘れてること、わすれ、あ


「あとな、俺が死ぬ時遺書お前取りに来てくれないか?」

遺書、遺書だ。


「そうだ遺書、お母さん、遺書」


「遺書?高橋くんのお母さんはなかったって言ってたわ」


「そんなはずないんだよ、あいつは書くって言ってたんだよ」

携帯がなった、坂本さんからだった。


「高橋くん死んだって、ほんと…?」


「あ、うん、ほんとうだよ」


「お葬式は?」


「もう終わったよ」


「そ、そうなんだ、ごめん、今友達伝えで聞いて、」


「こっちこそバタバタしてていえなかった、ごめん。」


「なんであの、あの人が自殺したと思う?私わからない、私があの時」


「それとはなにも関係ないから、自分を責めないで、大丈夫だから。そうだ、気分が晴れないなら気晴らしに僕に付き合ってくれないかな?」


「付き合う?もう付き合ってるけど。」


「あ、いや、そーじゃなくて、あいつは遺書を絶対書いてるんだ、だけど今も見つかってないみたい。あいつの家に行って探すんだよ、遺書を。検討はついてるんだ。」


「遺書か、本当に自殺だったんだね、わかった、手伝わせて。」

こうして僕と坂本さん、坂本かなみさんは高橋優也の遺書を探す小旅に出た。

僕たち2人は高橋家の前に着いた。目を合わせて息を吸って吐いて、インターホンを鳴らした。


「どちら様でしょう」

声は小さく元気なんてものはどこにもなかった。それはそうだろう。


「すいません突然、佐藤神楽と言います。」


「付き添いの坂本かなみです。」


「あらわざわざありがとう、どうぞ中に入って」

綺麗な一軒家だ、部屋は少なく、部屋が大きかった。

フランスのようなおしゃれな家だった。


「あの遺書はまだ見つかってないんですよね」


「そうなの、どこを探しても見当たらなくて」


「少し高橋くんの部屋に入ってもいいでしょうか?」


「えぇ、どうぞ」

2人揃ってお辞儀をした。

これから遺書を本格的に探すんだ。探すってことはもうあいつが自殺したってことを受け入れると言うことだ。本当に、あいつは、死んだ。


「検討はついてるって言ってたけど、本当なの?…」


「うん、まぁ一応」

一一一一一一一一一一一一一一一

「旅に出たいって本あれほんとにいい本だよな、主人公が中学の同窓会で気になってた女の子と再会すんの、でもその女の子は余命一年の病気にかかってて、みたいな。なんて言うんだろう、幸せな時間もあるけど結局バットエンドというか、まぁあれはバットエンドじゃないか。あれを読んだ時俺生きててよかったって思ったんだよな。あーあーゆー恋してぇぇー。お前が読んでて泣いてたやつな笑」


「それずっと言ってるけどどこが好きなのそんなに」


「え?なんか雰囲気?つーか?感覚的なぁ?」

一一一一一一一一一一一一一一一一

「わかるよ、どこにあるか」

本棚に向かう、そこにはたくさんのあいつとつるむ前から呼んでた小説がずらっと並んでいた。

これを見た時出会った頃のことを思い出した。


「俺らは絶対似てるとこあるし、相性もばっつぐんなきがするんだけど、かぐっちはどうおもう?」


そーゆうことだったのか。

葬儀でも出なかった涙が追いかけてくるようにやってきそうになるが坂本さんの前だ、絶対に泣くものか。

本棚を詳しく見てみるとクタクタにくたびれたボロボロの文庫があった。そこの背表紙には


旅に出たい


そう書かれていた。

思わず取り出す、そして中になにか挟まってないかを確認する。


あ、あった

挟まっていたところは、亡くなった女の子の手を握り、涙を流す主人公のシーン

僕が学校で泣いたシーンじゃないか、お前もここで泣いたんだろう?なあ?


遺書

こんにちは。あーもうこんにちはじゃない?おはよう!こんばんは!

挨拶はどうでもいいな、かっこよく書きたいのに!

これを呼んでるってことは俺は死ぬことに成功したんだな、なぁ!佐藤神楽!

お前は見つけてくれるってそう信じてたよ。

俺はさお前みたいになりたかったんだ。お前が好きだった。

なんでも正直なお前が好きだった。俺の憧れの存在だ。こんなこと言ったことなかったからびっくりしてるんだろ?なんでもお見通しだぞ!

よし序章はこれぐらいにして。

俺はな、ずっと苦しかったよ、こんなこと誰にも言えないだろ?なんで生きてんのかも分かんなくなってな生きててもいいことないじゃんって毎晩毎晩泣いて、明日が来るのが怖かったよ。

もう人生辞めたいって、辞めさせてくださいって何回も神様に頼んでさ、でもまだ死ぬの怖かったんだ。お前を1人にするわけにはいかないだろ?お前が告白成功したって聞いて、めっちゃホッとした!もうお前は1人じゃない。いい女つかまえて結婚していい家庭作れよ!それだけ。

ってこれ前も言ったな。

もう一周回ってつらいがなんなのかわからなくなって、もうずっと寝ていたい。現実から遠ざかりたい。ずっとぼーっとしていたい。本当はつらい振りしてるだけなんじゃないか、本当はまだ頑張れるんじゃないか、つらい振りをして甘えてるだけなんじゃないか、そんなことを考えている自分にも嫌気がさして生きるモチベーションが一体どこにあったのか迷子になっちゃってさ。

ごめん、もう疲れちゃったんだよ。

最初は死にたかったけど痛みが伴うのが怖くて、手首カッターで薄く切ったり、ベッドから飛び降りて飛び降りる練習したり、実際一回ベランダに立って乗り出したことあったんだよ、でもまた怖くなっちゃってできなかった。死にたいのに死ねなかった。

でも、もう死ぬの怖くないよ、お前にも出会えて幸せだったし、遺書も書けた。

あ、あと一つだけ、お前一人称俺にしろ!女々しい!

じゃあ旅に出てくるね、また!


なんだこれ、お前、そんなに、こんなに、悩んでたのかよ、こんなに死に直面してたのかよ、

なにも知らなかったよ!クソが!

お前だけ気持ちよくなって消えやがって!俺、助けられたかもしれねぇじゃん。

なにやってんだ俺、ヒントたくさんあったのに、ありすぎたのに、拾うこともできず


「なんでだよ!、俺に、俺に言ってくれればよかっただろぉ!」

泣き崩れた、小学生みたいにわんわんギャンギャンうるさく泣いてしまった。


「佐藤くん、だいじょうぶ、ちゃんと息吸って!」


「お母さん!佐藤くんが、!」

一一一一一一一一一一一一一一

「もしもし?なんだよこんな夜中に前の誕生日の時といいお前は夜が好きだな」


「俺夜めっちゃ好き!ごめんてぇ!なぁほんとにお前の誕生日の時のこと覚えてないの?あんだけ祝ってやったのに?」


「うるせぇ、覚えてねぇよ、どっかの誰かさんがアルコール買ってきたからな!」


「ごめんって、なぁお前は幸せになれよ、幸せな人生にしろよ、いいかぁ幸せっていうのはな自分でもぎ取っていくもんだぞ、今のお前はすごいぞ自分で彼女をもぎ取った」


「なんだよ説教くさい。あともぎ取ったっていい方やめてくれる?」


「はぁ、笑える、旅に出たいなぁ」

一一一一一一一一一一一一一一一一一

っ!?

天井がいつもと違う、ここはどこだ?


「佐藤くん!」


「坂本さん…?」

俺はゆっくり起き上がった


「佐藤くん!目が覚めてよかった!」


「どれくらい寝てた?ていうか俺高橋の家に、」


「泣きすぎて呼吸困難になって倒れちゃったんだよ」


「え?だっさ、高橋も笑ってるよな」


「そうかもね笑、あ、そうそうずーっと倒れた時も手放さなかったこの本、高橋くんのお母さんがあげるって」


「え、あ、あぁ、遺書は?」

「高橋くんのお母さんに一回見せたんだけどね、これは佐藤くんが持っといてほしいってほんと一緒に渡してくれたの、はいこれ」


「あ、ありがとう」


「なぁ高橋、高橋優也、お前はずっと俺に感謝してたみたいだけど、俺の方が感謝してるんだからな。こんな俺を変えてくれてありがとう」

あ、あと、誕生日おめでとう優也!もう大人だな!













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