初恋保存
華川とうふ
好きだった女の子からもらったのは……
小学生の頃の話だ。
そのころ俺には好きな女の子がいた。
いや、本当に好きとか恋とかいうんじゃなくて、みんなが「だれが好き」という話をするのに合わせるのに好きな女の子。
つまり、女子の中ではまだマシな付き合ってやってもいいと思える。
そんな相手のことだ。
今考えると俺はとても生意気で身勝手な子供だった。
当時の俺の「好きな子」は、お金持ちで、肌の色は透けるように白く、さらさらのロングヘアーは黒檀のようだった。誰にでも分け隔てなく優しい高値の花だったのだから。
着ている洋服だってそこら辺のスーパーやショッピングモールで買うようなものではなくて、ちゃんと百貨店でぴったりと自分に合うサイズを選んでもらってきているような女の子だった。
そんなあの子が俺に誕生日プレゼントをくれたんだ。
俺の誕生日は8月の最後でクラスメイトに祝ってもらうということはなかった。
だから、「好きな子」から誕生日プレゼントをもらえるなんて思ってもいなかった。
俺はまんざらでもない気持ちだった。
今思えば、馬鹿だった。
プレゼントの中身は手作りのチョコレートだった。
ただ、問題が二つある。
一つは、その夏はあまりにも暑くて、あの子が作ったハートのチョコレートは溶けて崩れてしまっていたこと。
二つ目は、その溶けたチョコレートからは彼女の髪とは違う茶色の髪の毛が飛び出ていたことだ。
だけれど、もっとも怖いのはアラサーの俺が今だにそのチョコレートを実家の冷蔵庫の奥底にこっそり隠していることだろう。
初恋保存 華川とうふ @hayakawa5
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