第5話


「あのさぁどいてくれないかな?僕は今からあのゴミを処分するんだ」


東が僕たちに射抜くような眼差しを向ける。その眼光は先ほど小鹿のように震えていた人間とは思えなかった。


「自分が行きます」


葉月が再び念動力を使おうとしたが燃堂が制止する。燃堂がおもむろに立ち上がり東の方に近づいていく


「東君落ち着いてください。君はまだ戻れる。抵抗を辞めて投降してください」


と燃堂が東に投降を呼びかけるが当の本人の顔に嫌悪感が露になる。


「戻れる?いいや僕は進むねっ!あいつらを殺して僕は今まで何もできなかった東海斗から生まれ変わるんだ!」


と東は目を見開き声を上げる。もはや彼の頭は彼らを殺すことでいっぱいのようだ


「東君…君の気持ちよくわかる…でも復讐はいけない。復讐すれば君は彼らと同じになってしまう」


「綺麗ごとをぬかすなよ…復讐は弱い自分を乗り越える通過儀礼なんだよっ!!」



燃堂が必死に説得を試みるが彼の耳には届かず代わりに返ってきたのは見えない斬撃だった。


東は握り拳を重ね一気に振り下ろす。その瞬間燃堂の右肩から左脇腹にかけて血しぶきが舞い崩れ落ちる。


「燃堂さんっ!!」


「こいつっ!」


葉月が青筋を立て上着からナイフを取り出し東に向けて投擲する。


投擲されたナイフは念動力により不可解な軌道を描き放たれ東に命中するはずだった。


東は両手を使い所謂パントマイムの芸である壁を行った。するとナイフは空中に停止し床に落下する。


「葉月あいつの能力は…」


「えぇわかってるわよ!こんなに異能を見せられたら馬鹿でもわかるわよ」


彼女に異能の詳細を伝えようとしたが彼女にはもうわかっていたみたいだ。東海斗の能力、それは動作の具現化だ。彼の異能は簡単に言えば架空の動作を現実に起こすことができる。銃を撃つ動作をすれば銃を発砲したときと同じ状況になり剣を振り下ろせば敵を斬り刻むことができる。さらに先ほどの葉月の攻撃を見るに壁を具現化させて防御にも応用できる。

これが俗にいうチートという奴か…


「よし決めた!君たちを僕の通過儀礼に加えてあげるよ!」


と東がショットガンのコッキングの動作を行う。僕はとっさに腰の拳銃を抜こうとするが先に葉月が再びナイフを投擲する。


東は咄嗟にショットガンの動作を辞め瞬時に片膝を突き盾を構える動作を行う


「今のうちに距離を詰めなさい!」


葉月に促されるまま僕は地面を蹴り東との距離を縮める。さらに葉月が後方からナイフを投擲する。投擲されたナイフにより東は盾の動作を解除することができない。


その時東はそれを狙ったように左手で盾の状態を維持しながら右手で腰から拳銃を抜く動作を行う。


「まずは一人目」


勝ち誇った笑みをこちらに向け右手をこちらに差し向ける。

もう駄目だと思った次の瞬間先ほど東に斬りつけられた燃堂が起き上がる。


「なっ!何でッ!?さっき死んだはずじゃっ!?」


焦燥の表情を浮かべる東に燃堂は右頬にビンタをお見舞いした。さらに体制を崩したのをすかさず足をかけ倒し馬乗り状態になった。


「東君!こんなことをしても君は前に進めるわけじゃない!それを知った両親はなんて思う!?君の両親はこんなことを望んでないはずだ」


と血を大量に流し必死に訴えかける。この状況でも彼を見捨てないなんて燃堂の熱意はすごいな…でもそれでも彼の耳に届くかどうか…


「うるさいっ!なにも知らない当事者が僕の気持ちを知った気でいるな!!」


東は腰の力だけで燃堂を跳ね除ける。すぐに立ち上がり武器の構えをした。

だがその構えを見た瞬間嫌な汗がどっと溢れ出す。


「もういいお前ら全員ミンチになれっ!!」


あの構えは某サイボーグの映画で出てきた銃…ミニガンだ…


「集まりなさいッ!」


そういって葉月たちは僕たちを引き寄せると念動力で床板が崩れ落ち下階のゲームセンターへと落下する。その瞬間舞い上がる砂埃と共に破壊の音が響き渡る。おそらく上の階は何も残ってないだろう

何せ毎分2000発の弾丸が無音で発射されるのだ。


人体はおろか一戸建て住宅を破壊することだってできる。何なら人通りの多い場所でその動作を行えば一瞬で大量のミンチを量産できる。

確かにこの能力を放置してはいけない。


「やっぱり下に逃げたかっ!!」


東が葉月の開けた穴を覗き込み再び破壊への引き金を引く。再び弾が頬を掠る。

僕たちは蜘蛛の子のように散らばり逃げ惑う


「ははははっははーははっ!!どうだ!これが僕の邪魔をした罰だ!」


逃げ惑う僕たちを見て東は高らかに笑う。

彼の目はいじめられっ子の目ではなかった。それは先ほど東をいじめていたいじめっ子たちの顔だった。


「ちょっとどうすんのよ!!このままだと三人ともお陀仏よ!!」


「それはこっちのセリフだよ!」


上階の天井が崩れ徐々に足場が悪くなっていき逃げ場がなくなっていくもう駄目だと思った矢先、突然発砲が止んだ。上を見上げると燃堂が東と対峙していた。

どうやら東が僕たちに集中している隙に二階に上がっていたようだ。


東はまた嫌悪と殺意をはらんだ目で燃堂を睨みつける。


「なんだ?また説教をしに来たのか?」


燃堂は深く呼吸を置く。燃堂は何かを決心したかのように真っすぐな目で東を見据える。


「東君…君の気持ちもよくわかります。誰にも助けてもらえずさぞ苦しかったでしょう…そして不思議な力を身につけて彼らを殺めたい気持ちもわかります。」


「何が言いたい?」


「だから君に私たちの組織に迎えまず。その殺めたい気持ちを人助けに使うのです。自分も心を鬼にして君に向き合います」


そうして燃堂は拳を構える。対する東も腰から刀を抜く動作を行い両手で見えない剣を構える。


「やってみろ!!この偽善者が!!」


拳と見えない剣が交差する。


燃堂は東が腕を振り下ろす瞬間体の軌道を変え避けると同時に拳を撃ち込む。


拳は東の頬にめり込み大きく後ずさりする。


「この死に損ないがァ!!」


剣の次は拳銃を構え引き金を引く動作をする。

その見えない弾丸は燃堂の胸を貫通する。


「燃堂さんっ!!」


僕が援護に向かおうとすると葉月が僕の肩を掴み制止する。


「必要ないわ、今のあなたじゃかえって足手まといよ…それに彼の異能なら問題ないわ」


「それってどういう」


「彼の異能は脳内麻薬を自由に分泌する能力よ…だから首を切り落とされたりしない限り死なないわよ」


脳内麻薬というのはアドレナリンやエンドルフィンのようなものだろう。

だから体を斬られても肉体が貫通しても動けていたのか…でもそれは完全に治っているわけじゃない。あくまで脳内麻薬は痛みを感じにくくするもの。体に限界がくればそのまま死んでしまう。


「くそっ!なんで死なないんだよ!!」


東から焦りと恐怖の表情が見える。汗をかき息が荒くなっている。有利なのは東の方だ。東が燃堂に与えた損傷は普通の人間なら死んでるだろう。


身体中の至る所を切り刻まれ撃ち抜かれ、


指が数本無くなっても燃堂は手を止めることはなくむしろ激しさが増していた。


「ねぇあいつ不死身の異能だったけ?」


と葉月も驚き通り越してむしろ引いてる様子だった。実際僕自身も出血死してもおかしくない量の血を流してるのに動けてるのに驚いてる。


1番恐ろしいのは本人だろう…何せ確実に死んでいてもおかしくない人間が今も動いて尚且つ自分に襲いかかってきてるのだから。


「お前も!裏切るんだ!友人や先生みたいに!結局そうやって言って誰も助けてくれなかった!!」


東の振りかぶりの一撃によって燃堂は飛ばされ膝を着く。

東堂の異能も限界に近いようだ。だがそれでも燃堂は立ち上がった。両膝がガクガクと震え血が至る所から流れる。


「東くん…自分は仲間になる人間やこれから仲間になる人間を誰1人も見捨てるつもりはありません。もちろん君もその1人です」


それでも燃堂は息が絶え絶えになりながらも東の説得を止めない。


「なんでそこまでするんだよ!頭おかしいのか!?僕はお前を殺そうとしたんだぞっ!?」


「えぇ確かに東君のしたことは許されない、いくら君が罪を償ってもその人は戻ってこない。ですが君は償い続けなくちゃ行けません。でもその償いを自分たちは手伝えます」


彼の目は未だ真っ直ぐ彼を見つめていた。

その時東は戦意を喪失したのか真っ直ぐに崩れ落ちる。


「くそっなんでだよ…なんで僕のことを見捨てないんだよ!?なんでそんな目で僕を見れるんだよ!?」


東から大粒の涙がこぼれ落ち膝から崩れ落ちる。


「東君…自分はあまり学がない人間です。ですが私は君を全力で支えて見せます」


そう言って燃堂は懐から手錠を取り出す。


「へぇ手錠を使うとこなんて久々に見た」


葉月が頭の後ろに手を組みながら話す。

というとこの対異能捜査一課では目標は捕縛ではなく殺害が多いとのこと

まさか初めての任務でこんな光景が見られるとは思わなかった。


「すみません…しばらくの間手錠を付けさせていただきます。その後必ず君を迎えに行きます」


東はこくりと頷くのみだったがその顔はどこか安心感があるようだ。もう彼には復讐の衝動は無いように思えた。


燃堂が東に手錠をかける。



23時…要請した厚い装甲の輸送車が現れ東を連行していった。


「彼この後どうなるんですかね?」


既に彼の結末はわかっている。まず殺人を犯した異能者は徹底した管理の元収容される。強化ガラスに囲まれた真っ白な部屋に永久に…それでも脱走などをした場合今度はアメリカの異能機関に送られることになるらしい。

だがそれでも先輩の口から聞きたかった。


「彼は必ず更正するでしょう…横井君の受けた授業にはありませんでしたが実はある程度更正した異能者は一時的に対異能捜査機関に入ることができます。特例中の特例ですけどね」


彼はただ走り去る輸送車両を眺めていた。

その眼はどこか不安になっているようで声をかけようとした矢先


「あー疲れたっ!!早く帰るわよ!」


葉月によって遮られ僕たちは車に乗り込んだ。全くこの人は相変わらずだな…

僕と燃堂は肩をすくめ車に乗り込んだ。



その後燃堂は速攻で医務室送りになったのは言うまでもない

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