第4話

「優斗君、とうとう君に新しい任務がきました」


とうとう来たか僕の初任務が、この対異能捜査一課に配属されて2ヶ月が経過した。この2ヶ月は肉体鍛錬や武器の取り扱いだけではなく異能者について徹底的に叩き込まれた。


ようやく僕の2ヶ月の成果を試す日が来たのか…滅茶苦茶緊張するな


「君は初任務ということで葉月さんと燃堂君が同行しますので」


葉月か…正直言って僕は彼女のことが苦手だ。別に心底嫌いなわけではないのだが少し棘があるのが苦手だ。でもそれは彼女なりの感情表現と割り切っている。


燃堂…初めて聞く名前だ良い人だといいな。


防刃加工されたスーツを身に纏い腰に小型の拳銃を装備したりと身支度を済ませ駐車場へと向かう。


「遅いわよ!身支度は5分以内に済ましなさいな!」


来て早々葉月から注意を受ける。警察は時間との戦いなのだから至極当然のことだろう今度から気をつけよう


そんなことをしていると一人の男が現れた。髪はスポーツ刈りというものなのか短く整えておりとても真っすぐな目をしている。


「君が横井優斗君っすね!自分!燃堂正ねんどうまさといいますっ!!」


と燃堂という男はびっくりするくらいの大声で自己紹介をするとビシッとお辞儀をする。感心するほどきれいな30度の敬礼に僕もその勢いに圧されて思わず咄嗟に返した。


「ちょっと!近くで大きな声を出さないでくれる!?」


と葉月が耳を抑え怒り始める。


「申し訳ないっす!以後気を付けます!!」


と燃堂はさらにでかい声で返事しこの地下駐車場に響き渡る。彼女もあきれたように首を振り後部座席に乗り込む


「自分何かしましたかね?」


と本人はわかってないようだった。僕は苦笑で返事をし助手席に乗り込む。はたしてこのチームで任務が成功するのか心配になっていた。



・・・・・・・・・・・・


「うおおおおぉぉぉぉ!!何て悲しい話なんですかっ!!!」


車内に燃堂の声が泣き声が響く。彼の顔は涙と鼻水でなんというかとても悲惨な感じになっている。


目的地に到着する前に僕がここに入った経緯を訊かれたのであの時のことを話したらこんなことになってしまった。


ルームミラーから葉月の般若の顔が見えたが咄嗟に視線を外した。これ以上見るとホラゲーのびっくり演出が発生すると思ったからだ。


「そいつ許せないです!!微力ながらこの燃堂正もお供させてください!」


「は…はい、ぜひとも」


と僕も若干引きながらも頷いた。


「ところで今日の任務って一体?」


このまま話を続くと色々厄介なことが起きそうなので急いで会話を逸らす。ていうか僕はまだ任務の概要をもらってないのだがこういうのは出発前に教えてもらうのではないのだろうか?


さっきまで泣いていた燃堂が涙を拭い顔を整える。


「今日の任務は異能者の捕縛っす、捕縛対象は東海斗あずまかいと私立の高校に通う2年生です」


そして僕は燃堂から今回の任務の概要を聞いた。

要約すると東海斗という高校二年生が通う私立高校では生徒が行方不明事件が多発しておりそれも被害者は東の在籍するBクラスの生徒だけとのこと…それなら東をターゲットに絞るのはいささか早計にも思えるが


「いじめを受けていた?」


「はい、東海斗のクラスメイトから聞き込みを行ったところ東はその被害者から日常的にいじめを受けていたみたいです…詳しいことはこの資料に書いてますが自分の口からではとても…」


燃堂は言葉に詰まりながらある資料を僕に手渡す。それは東が日頃書き連ねていた日記であった。


「何これひどいっ…」


前の座席に顎を乗せ資料を見ていた葉月も思わず言葉を失うほどだっいた


その日記にはいじめの内容が記されており思わず僕も目を背けたくなった。教科書を破られたり、弁当に泥水を入れられたり、食虫を強制されたり、格闘技の練習台になったり、因縁を付けられて金銭を要求されたり見るに堪えない内容だった。


「最後らへんの日記を見てほしいです」


日記を飛ばして見ると徐々に字がなぐり書きになっており死にたい、殺したい、といった単語が目立つ。そして日記の最終日思わず手を止めた。

その文字は今までのなぐり書きとは違いとても綺麗に書かれていた。


神様に出会った…僕は神様から救う資格と罰を与える資格を授かった。もうあんな苦しい思いをしなくて済む、母さんのお弁当を食べられるし父さんからお金を借りなくて済む。そして人の人生を奪って平気な社会のゴミとそれを見て見ぬふりの社会を壊せるんだ…僕は救世主、弱き者を救う救世主になったんだ…



と日記に書かれていた文章に困惑してると


「この日記の二日後に行方不明事件が起きてることからおそらく東海斗は異能が発現しその能力でクラスメイトを殺害してる可能性が高いです」


と燃堂が冷静に語る。異能者には先天性と後天性が存在し前者は生まれつきもので葉月がその例に入る。そして後者の後天性は脳に強いストレスがかかると起こるとされておりおそらく東もその例に入ったのだろう。


「確かに彼の気持ちもさぞ辛かったのだろうと理解できます。しかし、もし彼が犯人ならその罪は償ってもらいます」


と燃堂の握るハンドルの手が強くなる。僕も東の殺人を肯定するわけではないが相当追い込まれていたのだろう…何回も死にたいと葛藤しそして異能が発現し復讐をした。無理もない言ってしまえば突然天からマシンガンを貰ったようなものだ。




東の通う高校に到着した後僕たちは張り込みを開始した。いきなり東を尋ねれば刺激し一般人にも被害が及ぶと考え東が一人になるタイミングをうかがう。



午後17時、生徒たちが正門が出ていくが東の姿は見当たらなかった。18時半ある生徒たちが正門から出るのが目に付く。


「燃堂さん、あの人は」


僕が指を差した先にいたのは東海斗本人だった。おろした髪に眼鏡をかけており第一印象は大人しい生徒といった感じだ。彼の周りには短髪の生徒やだらしなく制服を着た男子生徒、カバンにキーホルダーをじゃらじゃら付けた金髪の女子生徒たちが東をどこかに連れ出そうとしてる。


誰から見てもこれは仲がいい雰囲気ではなかった。


「追いかけるわよ!」


葉月から指示を受け燃堂が車を走らせる。彼らが着いた先は古びたボーリング場だった。


「あそこは数年前に潰れたボーリング場っす」


そこは二階建てのゲームセンターとボウリング場が一緒になった娯楽施設だった。


「となると間違いなくあの子はここでやるわね」


と葉月がパンっと腕がなるように右拳を左の掌に叩く。


そして僕たち三人組は廃ボーリング場に足を踏み入れる。



「おっしゃ!ストライク!!」


ボーリング場に声が響き渡る。

その声の主は短髪の男子生徒の声だった。ソファには男性生徒と女子生徒がニヤニヤと笑みを浮かべ座っている。


「やっぱ人間ボーリングは楽しいなぁ!」


レーンの上には東が地面を這いつくばっている。東の眼鏡はひどく歪んでおり鼻からは血が流れていた。その表情は苦痛で歪んでいる。


「ねぇさすがにやばくね?警察にばれたらどうするん?」


と女子生徒が口角を上げながらで短髪の男子生徒を見る。


「大丈夫だって!こいつには階段で落ちたことにすればいいし!仮にばれても俺ら未成年で軽く済むっしょ!」


と男子生徒はその姿勢を崩さなかった。

なんだろうこのこみあげてくる殺意は…実際にいじめの現場に初めて遭遇したがこれほどむごい物なのか…僕はあの闇夜に出会った殺人鬼並みに恐ろしく感じた。


隣の葉月も同様に歯を食いしばり瞳孔を小さくしている。今にも飛び出しそうな彼女を僕と燃堂で制止する。


「おらっ!奴隷3号!速くに立てやっ!」


と短髪の生徒が東にペットボトルを投げつける。投げられたペットボトルは東の額に命中しカラカラと床を転がる。


東は先程の指示を無視しゆっくりと立ち上がる。

痛みのせいなのか足元がふらついており立つのがやっとの様子だ。

だがその目は先程まで苦痛で何も出来なかった青年の目ではなかった。


その眼には明確な殺意が宿っていた。



東は銃を構えるように右手の人差し指を短髪の生徒に差し向ける。


この状況で普通の人間がそんな動作をするはずが無いと思い腰の銃に手をかける。


だが一足早く行動を起こしたのは葉月だった。


彼女は拾った釘を念動力で東に向けて飛ばす。


射出された釘は東の右腕に浅く突き刺さる。

どうやら距離が長すぎたようだ。刺さった釘は血と共にポロポロと地面に落ちる。


続くように燃堂が前に飛び出し東に飛び蹴りを放つ。


蹴りは東の左肩に命中し突き飛ばされその反動で燃堂が背中から地面に落ちる。


「いてぇ…痛てぇよ」


短髪の男が肩を押さえ倒れ込む。彼の白い制服からは血が滲み出しておりその傷はまるで銃で撃ちぬかれたかのようだった。


「何やってるの!早く逃げなさい!」


葉月が逃げるよう促してるのにも関わらず生徒たちは状況を飲み込めていないどころかドッキリだの、投稿したらバズるなど呑気なことをのたまわっている。


その間に東は仰向けの状態で銃に弾倉を差し込み何かを引く動作をする。再び東はライフルを構える真似をしソファに座る生徒たちに狙いをつける。


研修中に武器について教えてもらったからわかる。あれはアサルトライフルの構えだと一目でわかった。


葉月は大きく腕を振り上げ床板を剥がし東に向けて飛ばすが二度も同じ手が通じるはずがなく東は地面を転がり木片を避ける。



仰向けの状態ですかさず東は照準を向け引き金を引く真似をする。引き金を引く動作と共に一人の女子生徒の頭が血しぶきと共に爆ぜる。


血しぶきと白とピンクの肉片を浴びた女子生徒の叫びがボーリング場に反響する。

さっきまで余裕でいた生徒たちは状況を察知し飛び出すように逃げていく。


それを東は見逃すはずもなく再び彼らの背中に標準を合わせる。


止めようとした矢先隣から燃堂が現れ東の腕を蹴る。


手元が狂い粉塵と共に床に穴が開く。

危なかったここで燃堂がいなければもう一人死んでいた。


「あーあっ…せっかく殺せると思ったのに」


東は立ち上がり僕たち三人組を睨みつける。その眼には

より一層の殺意が宿っていた。


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