最終話


「裕樹くんを殺した犯人の居場所がわかりました」


僕が対異能捜査一課に配属されて9カ月経過した。

その間にもたくさんの犯人と対峙してきた。


連続放火魔や異能で革命を起こそうとする危険団体など様々な修羅場を乗り越えた。


鏑木から衝撃のことを口にされたためその僕ですらあまりにも突然の事で状況を飲み込むことが出来なかった。


「本当なのそれは!?」


僕よりも先に葉月が机を両手で叩き立ち上がる。

僕も葉月の机を叩く音ともに我に返る。


「えぇ本当です。犯人の男は山中にある廃ホテルに潜伏中です」


廃ビル…か、またあの嫌な記憶を思い出す。でも今の僕は昔の僕とは格段に違う。

体力鍛錬から肉体鍛錬、武器の扱い方から格闘術、までこの4ヶ月でかなり成長できた。

いまならあの殺人鬼を捕まえることができるはずだ。


「ちなみにそいつの名前は?」


僕は今まであの殺人鬼の名前すらも聞いたことがない…居場所が分かったのなら名前などもわかるはずだ


「対象の名前は明智悟あけちさとる、彼は関わってるだけでも7件の殺人に関わっておりその内3件は異能者を殺害してます」


「なんだ!いつもの仕事と同じじゃない!あんたもさっさと行くわよ!」


葉月は僕のシャツの首元をつかみ半ば強引に連れ出されようとする。

相変わらず、この人の破天荒さは治らないものか…敵の情報が少ない以上無暗に突っ込むのは危険だ。


「気を付けてください、相手はおそらく身体強化系の異能者、尚且つ戦い慣れしてます」


と鏑木が見送るが葉月にはその声が聞こえて内容で部署の扉を荒々しく閉める音で返事をした。



僕と葉月は準備のためにいったん分かれることになった。


準備のために武器庫に行き武器を物色する。


指紋認証、顔認証、をクリアし重い金属の扉を抜けた先に武器庫が存在する。

対異能捜査一課の武器庫は警察や自衛隊は比べ物にならないほどの量、種類の武器が壁に立てかけられている。


鏑木によれば敵の異能者にも様々なタイプがおりそれらに臨機応変に対応するためでもありもう一つの理由が捜査官にも武器にこだわりがある者がいるようで中にはイタリア製の銃しか触らない者もいればナイフにこだわりがある者がいるそう


政府としても彼らの機嫌を損ねれば士気が下がるどころかこちらに牙を向く可能性だってあるため、それなら法を犯して彼らの武器を海外から輸入し敵の異能者からお偉いさんを守ってくれれば万々歳である。


準備を終え葉月のいる駐車場へと向かう。防弾チョッキにヘルメットはたから見れば海外の軍隊だろう・


「随分長かったじゃない」


葉月は相変わらずピクニックに行くお嬢様みたいな服装をしており明らかに僕の装備に比べれば浮いている。


「ごめん遅くなった。葉月は準備の方は大丈夫?」


「私は異能があるからこれで充分だわ」


と彼女はベルトにつけているホルスターに入ったを叩く。

確かに彼女には異能があるから僕のような装備は必要ないか


「ほら早く行くわよ」


と葉月に急かされながら車に乗り込む。


車を走らせ約3時間ようやく目的の廃ホテルに到着する。


壁にはツタが絡みつき所々経年劣化で所々ひび割れをしている。まさに心霊スポットにうってつけだろう。


「うわぁ虫よけもってこればよかった」


と葉月が嫌悪感を露にしながら廃ホテルの中に渋々足を進める。

内部は不良のたまり場だったのかゴミが散乱しており、壁には派手な落書きが描かれている。

もうそこにはホテルという面影は無いに等しかった。

だが、この中に例の殺人鬼がいると思うと恐ろしくなった。背中から走る悪寒を押さえるように銃のグリップを強く握り込み恐怖を和らげる。


僕たちは恐る恐るホテルの内部をクリアリングしていく。葉月が後ろで僕が前という陣形だ。



5階の廊下を捜索しているうちにあるものを発見した。


それは廊下の窓から正面の部屋にかけて続く血痕だった。窓には梯子なんか付いてない、血痕が続くということは血痕の主は何らかの方法で窓からその部屋に入ったことになる。


それは紛れもなく明智悟の可能性が高かった。


昂る心臓の鼓動を抑え背後の葉月に突入の合図を送る、葉月が顎を引き念動力発動の準備をする。ゆっくりとドアノブを捻る。どうやらカギは開いてるようだ。閃光手榴弾を手に取りピンを抜くと同時にドアを勢いよく引き閃光弾を手から離す直前


「危ないっ!!」


葉月が僕の背中を思いっきり引っ張る。思わず転倒すると同時に僕の頭上に何かが風を切る。チッという葉月の舌打ちと共に宙を舞う閃光弾を窓の外に放り投げる。

おそらく念動力を使ったのだろう


「外した…最近調子が悪いな」


それは聞き覚えのある声だ。無機質で機械的…しかしその言葉の一つ一つに狂気が見え隠れしている。

生気のない瞳に汚れの目立つスーツ、腕にはネクタイが巻いており先ほど僕が立っていたドアには奴の腕がめり込んでいる。


それは紛れもない僕の友人祐樹の仇、明智悟あけちさとるであった。


「まさかここまで追ってくるなんて日本の警察って暇なのかい?」


僕は歯を食いしばり奴に銃口を向け引き金を引く。ライフルとは比べ物にならない反動が肩を襲う。


同時に奴は窓から飛び出すと窓枠を走り外から中へ一瞬の隙を突き飛び込む。


「伏せなさい!」


奴への反応が遅れ間一髪のところで葉月が念動力でガラス片を飛ばす。奴はガラス片を軽い身のこなしで簡単に避けながら僕たちから距離を離す。葉月の異能を警戒してからだろう


「ありがとう助かった!」


「礼より敵に集中!」


と再び奴へ銃口を向ける。距離はざっと10mか…僕の銃と葉月の射程範囲だが、先ほどみたいに闇雲に攻撃すれば隙を作ってしまう。


「念動力の異能者に散弾銃か…随分と対策してきたみたいだね」


と男が相変わらず無機質な声で話す。

奴の言う通り今回持ってきた装備は身体能力強化系の異能に対抗するためだ。ロシア製のセミオートショットガン、威力と制圧力が高い上にホテルのような狭い場所なら尚更その効果は絶大だ。


「ハァ…ハァ…当たり前じゃないあなたは何人も人を殺したのよ。これ以上誰も殺させないわ」


葉月の首筋にかけて汗が流れ始める。


「何か僕が悪いみたいな言い方してるけど僕からしたら国の犬に保護されて殺人が許されてる君たちはどうなんだって話だけどね」


葉月がガラスの破片を飛ばす。葉月の煽り耐性が低いことは重々承知なので僕も続けて引き金を引く。奴先程と同様窓から身を乗り出す。


「二回も同じ手に乗るものですか!」


彼女が腕を振ると同時に窓の外からガラス片が放たれる。空中にいた明智は迎撃することができず落下する。

葉月の念動力の射程はこの廊下よりも広い、おそらく奴が窓から飛び出すことに備え窓の外にガラス片を空中に固定し射出する準備をしていたのだろう


「ちっ!浅かった」


当の彼女はというと唇を噛みしめている。


「下の階に行ったわ!警戒を怠らないで!!」


葉月と背中を合わせ周囲を警戒する。


「葉月!どうする!?」


一番まずい状況になった。ここで奴を見失えばまたどこからか攻撃される危険性がある。それにここは上階と下階かかいに挟まれている場所…状況的に奴が有利だ。


「ひとまず屋上に行くわよ!」


と葉月に促され僕も周囲を警戒しながら上を目指す。なるほど屋上に出れば奴の出現地点を絞ることができる。


窓からの侵入を警戒し窓際を警戒しながら屋上を目指す。


だがいつまで経っても奴の攻撃が来ることはなく益々冷や汗が流れ始める。

ついに最上階の屋上に到着する。


長い年月放置されたせいか緑に覆われており屋上を柵は錆びついている。


結局あいつはいったいどこに消えたのだろうか?逃げたか?いや奴の性格上獲物を逃がすなんてしないはずだ。確か僕が初めて出会ったときは下の階から飛んで屋上に降りたはずだ。


「そりゃあ屋上に行くしかないよね」


背後から機械的な声が聞こえる。咄嗟に振り向き様に散弾銃を向けるが既に遅かった。奴は既に僕と葉月の間に立っており

途端に裏拳が振るわれる。寸前散弾銃を盾にし直撃を避けたが数m先まで吹き飛ばされる。


地面を転がり手首でブレーキをかけ身を止める


「葉月!」


僕の視界に映ったのは右肩から鮮血を流す葉月の姿だった。

明智の手にはポケットナイフが握られておりその手は真っ赤に染まっている。


「やっぱり外部に作用する異能は発動までに時間がかかるみたいだ…反応はできたみたいだけど異能の発動が遅れていた」


と明智がナイフを持つ手をひらひらとさせる。


呼吸が弱弱しくなりながらも明智を睨みつける。彼女の闘争心は消えてない様子で明智を睨みつける。を制止するように彼女の側頭部を踏みつける。


「ぐっ…ああぁぁぁぁぁ!!!」


彼女の痛みに悶える声が木霊する。

見ていられなくなった僕は奴に向け散弾銃を向け発砲する。

しかし、着弾のコンマ数秒前、奴は霞むように消える。


その刹那、僕の左胸部に激痛と共に強い衝撃が走る。

僕は地面を何回か跳ね上がり壁に叩きつけられる。


防弾チョッキ込みでこの様だ…生身なら死んでいただろう


「誰だか知らないけど…君も楽しませてもらったよ」


ナイフを振り上げられ今まさに自分に振り下ろされようとしている。


「おぉ?」


ナイフが振り下ろされる直前…明智の体が大きく横に飛ばされる。


それはまるで巨大な空気の塊に吹き飛ばされたみたいだった。


突如右耳の通信機から電子音が聞こえる。


「すみません援護が遅れました…少々いざこざがありまして」


ノイズと共に見覚えのある声が聞こえる。


「…燃堂…さんっ…」


それは東との戦闘で全治半年の傷を負った燃堂の声だった。この見えない能力にハッとして思わず顔を上げる


「少々交渉に時間がかかりましたがようやく上からの承認を得られました。彼の異能は規格外そのものですからね」


「もしかして…その彼は…」


「そう、新しい僕たちの仲間、東海斗君です」


やはり…東海斗か。まさかここで彼の協力を得られるとは思いもしなかった。

それに彼の異能は反則級の異能。もしかしたらこのまま行けば明智に決定打を与えられるかもしれない


「すみません実は彼の開放は一時的なもので今の一撃が最初で最後でした…でも優斗君今の君ならおそらく倒しきることができるでしょう…どうかご健闘を」


そう言い残し通信機の電源が切れた。彼らには感謝してもしきれないな。


背中の激痛に耐えながらなんとか重い腰を上げ立ち上がる。


深く呼吸をした後背中のナイフを構える。


その様子に明智は軽く笑みを作る。


「驚いた…まさかこの程度に勝った気でいるなんてね。いいよそのプライドぐちゃぐちゃに裂いてあげるよ」


明智はやや前傾姿勢になり僕を見据える。その眼は今までの無機質な目と異なり子供のような無邪気さを帯びていた。


地面がパァンと弾ける音と共に明智の姿が消える。

僕は壁に背中を付け背後の攻撃に備える。瞬間足を弛緩させ体制を低くする。


咄嗟にナイフを気配のする方向に刺し込む。肉が刃に食い込む感触がする。


「なぜっ?僕ははたしかに君の頭を」


明智が苦悶の表情を浮かべる。本人もまさか攻撃を受けるなんて思いもしなかっただろう。

このチャンスを逃さぬよう腰に装備した拳銃を抜き明智の胸に押し当て引き金を引いた。


1発…2発と引き金を引いていく。すべての弾倉を撃ち切る気で引き金を引いた。

そしてようやく明智は膝から崩れ落ちる。


胸に複数の銃弾を受けたのだ無事では済まないだろう。


「いやぁ最後はこんな人間に負けるなんて屈辱だな」


そう言い残し明智の目から生気が消えようやく息絶えた。


僕の復讐はここで終わったのだ。


その瞬間僕の胸から重い何かが抜けたようにすっきりした。


「やったのね優斗!」


葉月が早歩きで僕の元に歩み寄る。


「それよりも葉月けがの治療をしなくちゃ」


僕は急いで彼女を安静にさせ応急手当キットを取り出し処置を始める。


「ちょっともっと優しくしなさいよ!」


と肩を強めに叩かれる。とてもじゃないが怪我人の力じゃない、


「仕方ないじゃないか!応急処置は慣れないんだ!」


と色々一悶着あって応急処置を終えた。後は迎えの車が来るのを待つだけだ。ただ静寂が僕たちを包み込む。


「ねぇ」


先に話しかけたのは葉月だった。


「あんたこれからどうするのよ?」


そう、僕の目標である祐樹の敵討ちは今日で終わった。今後は引き続き対異能捜査一課にお世話になるだろう


再び静寂な時間が訪れた末口火を切る


「もちろんずっといるよ…確かに悲しいことや苦しいことだってあるけどそれでも前の生活よりは楽しいよ」


と彼女に語り掛けると彼女は穏やかな笑みを見せる


「そうね、それがいいわよ…」


と彼女は頬を赤らめるのを横目に僕は只空を眺めた。安心感や次の生活の高揚感などを胸にしまいながら

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さらば僕の退屈な日常よ<対異能捜査一課> ピクルス寿司 @280243gsrdqi

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