対異能捜査一課
ピクルス寿司
第1話
「やぁやぁ君が
顔にかぶせられた布を取られるとまばゆい蛍光灯の光が眼を刺激する。
正面には白髪を整えた糸目の男が椅子に座り目線を合わせながらこちらに語り掛ける。
ここ…取調室か?
その部屋は刑事ドラマでよく見た犯人を取り調べする部屋に酷似していた。
窓なんてないむき出しのコンクリートの壁に部屋の中央のグレーの机の上には卓上ランプが点灯している。
「何ですか!?これは!」
何と僕の手足をロープで椅子に縛り付けられていた。
僕はただならぬ雰囲気を感じ取りこの場を抜け出そうとするとがガタガタとパイプ椅子を揺らすだけだった。
「あーあー心配しないでください手は出しません。君にはいくつか質問して問題なければそのまま家に帰しましょう」
糸目の男は僕の両肩に両手を添え静止する。僕が大人しくなったのを確認すると再び椅子に腰かける。
ちくしょう…どうしてこんなことになってるんだよ!僕は大学から帰る途中だったのに…そうだ!あいつのせいで僕はこんな目に…
<時は遡る>
3限目の講義が終わりさっきまで寝ていた生徒や携帯を触ってた生徒が続々と退出していく。全く…彼らは普段授業のやる気はないのになぜ退出するのはこんなに速いのだろう
「なぁ優斗ー今日予定無いなら打ちに行かねぇ?今俺の右手が疼いてるんよ」
眠そうな
「昨日3万負けたのにまた行くのかよ…今日は四限目とゼミの手伝いがあるから無理だよ」
彼の名は
彼は大学入学当初はまじめな生徒だったが、ギャンブルや酒を知るとこんなざまになってしまった。やはり娯楽とはここまで人を変えてしまうのかと恐ろしく感じる。
「えー優斗はまじめだねー、大学生なんだからもっとはじけようぜ~、酒、たばこ、ギャンブル、二十歳になればできる選択の幅が広がるし社会に出れば奴隷みたいに働いて、汗水たらして稼いだ金を税金として国に持ってかれるんだぜ?」
と力説しているが、進級単位がやばい彼に言われてもサボり魔の言い訳にしか聞こえない
「普通のことだよ、それよりお前単位の方は大丈夫なのか?この講義とかお前3回くらい休んでるよな?」
「単位なら
と祐樹はおちゃらけて返す、僕は彼を見ているとまじめにするのが馬鹿らしくなってくる。就職だの会社だの言ってるけどお前は卒業のこと考えろよこのままだと社会の云々の前に社会出られずに終わるぞ。
と内心あきれながらも適当にスルーした。
「おう!
友人の名前を呼ぶ声が聞こえたので振り向くと三人組がいた。
両脇にはキャップやだぼだぼのデニム、ピアスなどを身につけた二人組、真ん中には金髪を刈り上げ日焼けした身長190cmくらいの筋肉隆々な男が僕たちを見下ろした。
「あっ!
と祐樹は深々と頭を下げる。おそらく鬼山というのはこの真ん中の人間とゴリラのハーフみたいな人だろう。しかも名前も滅茶苦茶怖いし、もし喧嘩売ったら懐から拳銃を抜きそうな見た目だ。
「これからバイトで人手が足らねぇんだわ、だからお前も来な」
とドスが利いた声で祐樹に話しかける。絶対碌なバイトじゃないだ…ここは友人として止めるべきだが無理だ…僕にはそんな正義感があっても勇気がない
すると鬼山が急に僕の方に視線を向けた。
「で、さっきから君何なの?祐樹の友達?」
突然僕の方にターゲットが向いた途端蛇に睨まれた蛙のように委縮した。心臓が変に高まり足元が委縮した
「ねぇ?なに?シカトしてんの?」
と鬼山は苛つきながらも再度僕をにらみつける。僕はこのままいることのデメリットとここから逃げ出すことのデメリットを天秤にかける。そして、傾いたのは…
「あっ…いえっ…そのっ失礼しましたーーーー!!」
逃げ出すという選択肢が勝った。
僕は鬼山の殺気?を感じ取りダッシュで次の教室へと向かった。
よかった!僕の生存本能は正常に機能してくれたみたいだ。やっぱりこういう荒事は逃げるに限るな。
ここからはいつものルーティーンだ。
黙々と最前列で講義を受ける、教授と少し話しながらゼミの手伝い、帰宅だ。
祐樹がいないと僕の生活はこんなものだ。大学1年生友人作りに失敗し祐樹と出会ってぼっちの学校生活は無いと思ったが祐樹は色んなグループに所属してるので僕はそのグループの会話には入りずらかった。
僕は祐樹の生活に憧れているかもしれない。勿論鬼山みたいなメンツとつるみたいわけではない。単純に友人と遊びに行ったり、夏休みはバイト漬けの生活ではなく女友達と海に遊びに行ったり、自分のSNSアカウントのプロフィールを友人と遊びに行った写真にしたりそんなことをしたかった。と内心後悔している。
そう、僕は言い訳していたかもしれない、祐樹の生活を不真面目などと言って否定して真面目に暮らすのを至高だと必死に言い聞かせていたのかもしれない。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
時刻は21時30分を指していた。
今日は思ったより仕事量が多く疲れてしまった。まぁでも教授からの評価が上がるのならそれもいいだろう。
最寄駅を降り自宅へと向かう。今日はもう遅く仕方ないので
このルートは信号などを渡らずにショートカットができるのだが街灯が壊れてる上廃ビルや放置された工事現場が多く存在するため防犯的にも使用は控えたかった。
僕は恐る恐る早歩きでルートを抜ける。目を細めできるだけ視界を狭める。だが…それがまずかった。
曲がり角を曲がる直前ドンっと何かにぶつかったような気がし尻持ちをついた
おそらく感触からして人にぶつかったのだろう
僕の予感は的中し暗い視界の先には眼鏡をかけたスーツの男がこちらを向けている。
「あっすいません!怪我はないでしょうか?」
しまった、と思いながら反射的に謝ってしまった。もとはといえば僕が不注意をしたのだから謝って当然だろう…
しかし、スーツの男は何も答えずただただ一点こちらを向いている。
明かりもない場所でこうも見つめられると滅茶苦茶怖いまるで僕を敵かそうでないかを判断している感じがする。
そんな眼差しから一転男は急に柔らかな笑みを向けると一礼する
「申し訳ない…こちらも前を見てなかったもので」
男は僕に右手を差し伸べる、よかった思ったよりいい人そうだ。僕は彼の手を取ると汗なのか滅茶苦茶ヌチャヌチャする。があまり気にしないようにした。その時「しまった」という声が聞こえた気がしたがスルーすることにした。
それは聞き間違えなのではない。と自覚したのは男の表情を見てからだ。
男の顔から笑みが消え奥歯をかみしめこちらを凝視する。さっきの柔らかな目とは裏腹に敵意、獲物を見つけたような目をこちらを向ける。
「利き手を使ってしまった」
ふと握った手をスマホのライトで照らす。
「うおぉ!」
思わずスマホを落とした。何せ僕の片手にはおびただしい血がライトに照らされ輝いてる…男が一歩こちらに歩み寄ると僕も釣られるように一歩下がる。
下手に動けば刺激する可能性がある。こいつは鬼山とは違うベクトルでイカれていると直感で感じる。
「すまない…君個人には恨みはないのだが死んでもらいたい」
と男がスーツの内ポケットからナイフを取り出す。
一歩、また一歩とコツコツとスーツの革靴の足音が闇夜に響く。
なぜだろう普通の人間の殺すぞという脅し文句は単なる脅しに過ぎないのだがこの男の殺す、には妙な説得力がある。
一瞬だった。男は僕との間合いを一瞬で詰めた。スタートダッシュなんてない…まるで既にそこにいたかのように男は移動してきた。
呆気にとられる僕を前にゆっくりとナイフを振り上げる。
僕は今から死ぬという実感ができずその場を立ち尽くしている。
その瞬間、男が跳躍し僕の頭上をハードル走のように飛び越え着地する。
「やれやれさっきの不良か、てっきり殺したと思ったけど」
と男は再び立ち尽くしこちらを見据える。
「優斗大丈夫か!?」
その声にハッとする。その声の正体は僕の友人…柏木祐樹であった。
彼は鉄パイプ片手に白い服を真っ赤に染めながら僕に手を差し伸べる。
僕はその手を取り再び闇夜を駆け走る。
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