砂山・テセウス・そしてアオハルー青春のパーツをバラせー

花森遊梨(はなもりゆうり)

第1話

青春否定リスト


・クラスの集まりに不参加

・ほんの些細なきっかけで男女や同性の交際を始める。

・コストを減らせるだけ減らす



ーユーアーデッド

18歳以上かなんて愚問はしねえ、後払い決済サービスを利用して今すぐコンティニューしようぜ?決済処理 完了!

ご利用ありがとうございました!!お前の銀行口座はわかっています


「コンティニューなんかにお金を使うんだ?」


コンティニューなんかにお金を使える贅沢なコイツは田中。ここだけの話、生まれつきY染色体を持つ(遺伝子上は男である)


「なんでおまえはメガネを外したら犬飼貴丈そっくりなのにコンタクトにしないの?そうやってメガネを外したらイケメンをじっせんして世の中のメガネ男どもを全員まとめてそんげん破壊するのが趣味なの?スマホばっかやって漫画を描かない尾田っちなの?」


「やかましいんだ口の減らない心身共に痩せっぽちなクソチビが!!二度とそのツラ見せんな!!この場で男をわからせて(自主規制)を生涯できねえ体にされたいか!」


田中、マセガキとクソガキのコンタクト融合体を一喝する。


今ホース娘ガチャを引くと、推しキャラのクレジットカードが新しく作れちゃうキャンペーン中!!


「小川も、推しキャラとかいないのかよ?」


「いるわけないじゃない。こんなものいつのまにか事前登録してた特典がいい感じだったんで、このままプレイしないのもどうかと思うからなんとなく続けてるだけ」

そんなソシャゲの楽しみをプチプチしてるコイツは小川、頭が良さそうに見えるという理由だけで伊達メガネをかけるなかなかのイロモノ。こう見えてX染色体を二つも持っている(女の子っていえ)


「どけよガキども。年金さえもらっておけば、こっちのものだよ。おまえらみたいな脳の腐った若いヤツらのことなんか知るか」

邪悪なジジイの介入、いつも若人は老人に虐げられる…

「「抜かしてんじゃねえぞジジイ!!」」

と思ったその時。男女両方の声の怒号が響いた

「文明が作り出した最も悪しき存在が人の真似をしやがって、年金だけじゃ暮らしていけねえからお情けで再雇用された分際で仕事が何もできないくせになに呼吸してやがるんだバカが!!家事もできない、育児もできない、介護もできない、脳軟化症でズルズルになった回らない頭ひとつ下げられない生ゴミが生意気にも俺たちの心配なんざしてんじゃねえ!」

「できることといえば挨拶を返さないその口で「最近の子どもは挨拶ができないねえ」と言う事だけ!威張り腐ってルールを守らず「自転車は降りて押しましょう」と書いてる看板のまんまえで子供を自転車で轢き逃げして死なせておいて挙げ句の果てに「私、長生きできるんですかねえ」だとお?」


「「ざけんな死ねよまだ生きる気かよ現世の幸せODオーバードーズしてラリって生きてんじゃねえよ今すぐくたばれ死に損ないが!!風呂場で孤独死して溶けて特殊清掃されてゴミはゴミらしい身の程を知れ!」」


「クソジジイとはいえ、そのくらいにしといたら?」

さっきのクソガキであった。

「コイツはお前の血縁者なの?」

小川が(逃げようとしたジジイの首に腕を絡めてチョークの体勢に入りつつある)田中を視界の端に入れつつ応じる

「うん、でもうちのおじいちゃんはいずれまたこうなると思ってた。春休みの頃も別の人にこのくらいやられてやっと大人しくなったからね」

このジジイはこういうことの常習であり、そして血縁者なのに異様なほどの場慣れぶり。ちょっとだけで同情の思いが湧いた小川。多くの人間が青春をやっている年頃だけあって、(ジジイを全否定したくせに)複雑なメンタルである。




「お互いソシャゲにすら楽しみを見出してないね〜」

「じゃあ残りのクラスメイトみたいに甲子園の応援に行って熱中症で意識失いつつアオハル!と叫んでそのまま死ぬ方がいいのか?」

公民館で老成した人間をしばいておいて今更かもしれないが、彼らは一文の得にもならないジジイハントに来たのではない。

「嫌だよ私は今年16なんだよ死んだら走馬灯がショート動画より短くなるじゃん」

青春を否定しに来たのである。


全ての始まりは先週。通ってる高校の野球部がクラスのみんなは甲子園に出場し、思い上がった野球部が「クラスから人民を差し出し喜び団を作れ」などと多様性を重視する総書記みたいなことを言い出したことに端を発する。

「いや、それは学校が勝手に気を遣ってるだけじゃない?それも貧乏神のテーマを作業用BGMにして」

「だから甲子園球場には「この場にいる全員が本気で勝利を願っている」というアナウンスと共にこの世の終わりと熱中症で死にそうな顔が観客席にズラリと並ぶわけだな」


そんなわけで、田中影人たなかえいと(フルキラキラネーム)は、実はスタメンから二軍まで全員彼女(か彼氏)持ちの野球部の勝利を真に望んだ。そのために近所の病院に梅子の描かれた五千円を出してコロナ陽性にしてもらったのだ。

「アンタまでここに来てたの?」

その待合室で出くわしたのが小川東佳おがわはるか(フルネーム)だったのだ。クラスメイトにして毎朝おはようというだけのオウム程度の関係であった。

「いろいろあってコロナ陽性になった。そっちはインフルエンザにしてもらったのかよ?」

「チッ」

ちなみに「おはよう」に毎朝舌打ちを返す、年号や出来事といった暗記科目が壊滅的など、小川の鳥レベルはクラスで一番だ。


「青春なんてね、やることないからみんなやってんのよ!学校はスマホとかあらゆる娯楽が禁止されている。だから性別職業問わず人が2人以上いれば昼間から学校の非常階段でおっぱじめられる青春に走るのよ!」

「そこは未成年しかできないことをする!とか言ってホテルにINしてIN行に決まってんだろ」

「ドッキングなんて人工衛星とか宇宙ステーションに任せておけばいいのよ。地上で生身の10代がやることじゃないわ」


そんなわけで、二人は青春を否定することにしたのだ


青春否定リスト


・クラスの集まりに不参加→クリア青春の筆頭、強制的な集まりに参加しなかった

・ほんの些細なきっかけで男女や同性の交際を始める。→病院の待合室で偶然あってご都合主義も同然に一緒になったのでクリア

・コストを減らせるだけ減らす→サイゼリヤにすら行かずに地元の公民館に行き、わざわざソシャゲをしたのでクリア


「こうして私たちは汚い青春を滅ぼすことに成功したわけね。お腹がすいたな、サイゼリヤにでも行こうか」


「サイゼリヤに行ったら炎上するんだろ?「サイゼリヤを初デートに使うとネットが炎上する」という諺があるし」


「インプレになるじゃん?そういうことをする暇人は大抵リアルじゃ若い女に飯を奢って7、8人と下半身の関係を持ってる、その上にパパ活なんてできない、いたいけな女の子にもインプレを通して金をくれるんだからもうこれは慈善家」


「考えてみりゃあ炎上なんて甲子園優勝と同じでやろうとしてもやれないからこそみんなやりたがるし成功するとニュースになるもんだしな。」


老いと病の蔓延する呪われた公民館を旅立ち、聖地へと去った男と女。

新たな青春の物語がまた一つ。



青春とはくだらない束縛や強制がなくなった時、自ずと見えてくるものだ。


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砂山・テセウス・そしてアオハルー青春のパーツをバラせー 花森遊梨(はなもりゆうり) @STRENGH081224

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