最終話

「どうしてワタシだってわかったの?」


 プリンちゃんに似た女子高生が、言った。


 名前は夢島ゆめしまヒメちゃん。


 わたしの友達。なったばかりだけど。


「詩でコンテスト取ったんでしょ?」


「うん。最優秀賞ね」


「それを読んだら、夢の世界の地名が出てきて」


 ウルタールとかセレファイスとかヴァクワク島とか。


 題名だって、夢の大冒険ドリーム・クエストだったし。


「それで、この人は夢の世界に行ったことがあるんだって思って、ネットで授賞式の写真を探したら、ヒメちゃんが写ってて」


「やらかしたなあ。安直だったか、さすがに」


「なにそれ、見つかりたくないみたいな言い方だけど」


 わたしが頬をふくらませれば、ヒメちゃんはおかしそうに笑った。


「逆だって。あんなに啖呵たんかを切るんだったら、なにしても見つけてくれるかなーって」


 ヒントなしだと一か月もかかったみたいだけど。


 ヒメちゃんのからかう声に、わたしの頬は膨れたモチみたいになってる。


「名字だけで探せるわけないじゃんっ」


「あの神様の力でも使えばよかったじゃない」


「どっか行っちゃったって言ったじゃん!」


 あの神様――門の守護者ゲートキーパーは、うちの蔵からきれいさっぱり消え失せていた。


 というか、あのどんでん返しの影さえない。となると、どうやってあの闇のなかに入っていったんだろうか。……その謎はいまだにわかっていない。


「そうだった。じゃあ、どうやって夢の世界に行くつもりなの?」


「それをヒメちゃんに教えてほしいんだけどなー。専門家でしょ」


「専門家ってほどじゃないけど、うん、わかった」


「え、できるの?」


「夢の中で階段を探すの。ずっと奥までつづく長い階段」


「そんなのあるのかなあ」


「ある。ワタシが実際に使っているもの」


 そう言って、ヒメちゃんは遠い目をした。このなったばかりの友達は時々そんな目をする。


 誰もいなくて寂しそうな顔を。


 わたしはヒメちゃんの手をぎゅっと握る。その手はひんやりしていて気持ちよかった。


「なんですかいきなり……」


「なんでもっ。それより、その方法、今日試してみたいんだけどいいかな」


 ヒメちゃんは、わたしを見た。


 信じられない、みたいな表情から、一気に顔が赤らんだ。まるで、うれしさの花火が炸裂さくれつしたかのように。


「じゃ――幻夢でまた会いましょう」


「うん」


 またね。


 わたしたちは手を振り、別れる。


 覚醒の世界で別れ、夢の世界に続く階段の先で、また再会する。


 今夜はどこを、かけがえのない友達と旅しようか。

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女子高生は、邪神うごめく夢の世界に転移してしまったので脱出するようです 藤原くう @erevestakiba

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