エピローグ

エピローグ

 硫黄島、東側。

 サルベージ船は作業していた。海中から引き上げられた穴の開いた円盤に銃を構えた海軍兵一隊が入っていく。電源が消失している船内をライトが照らす。

「ロシア語だ」

 壁の所々にロシア語で案内が表示されている。


「コックピット

 関係者以外立入禁止」


 スライドドアを開けるとGスーツ(飛行機の加速時に身体を加圧して脳への血流を保つ機能のある服)を身に着けた2つの死体があった。ヘルメットを外して両方の死体の瞳孔等生体反応を調べて死亡を確認する。


「白人男性2人の遺体を確認」

 無線で連絡していると、片方の死体が上体を起こして水を吐いた。近くにいた海軍兵は流れるように胸元の鞘からナイフを抜くと逆手のままその死体の胸に刺した。ナイフを引き抜くと再び倒れこんでいく。


「運ぶぞ」


 死体の足首を拘束具で縛ってから遺体袋に入れ、二人で一つの袋をもって船外へ出て行った。


  ◇◇◇


 元・芝公園にはこの場で撃墜された国籍不明機の爆発炎上に巻き込まれた市井の人々と、現場で国籍不明機により撃墜されたUH-1ヘリコプターから自衛官1名の慰霊碑の前に白いユリの花束が置かれる。


 美しい女性がその前にしゃがみ込み、手を合わせている。陸上自衛隊・犬上いぬがみ 美月みつき曹長である。


「桜花、出撃命令なんか出てなかったのに、どうしてひとりで行動したの」

 美月が呟く。ヘリコプターから回収された映像を見て何人かの幹部が辞職した、という噂もある。しかし、映像は機密扱い指定されており、美月では閲覧することができなかった。


 東京上空にいた最後の円盤が撃墜されて30分後に東欧の一国ベラルスキーでは軍事クーデターが発生している。ロシアで独裁政権を敷いていた大統領ブラドミルも一時、クーデターによる暗殺の噂があったが生存が確認された。しかし、ブラドミルは退任に追い込まれ、後任には大統領代行として首相が就いた。


「桜花、私ね国連軍として派遣されることになったから、しばらく来れなくなるけど、あなたの守ったこの国をこれからもきっと守っていくからね」





おわり

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4万文字の戦争 薬瓶の蓋 @HoldTabDownTurn

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