【ライ麦畑シリーズ】雨川と少女飴

千織

羨むことなかれ 怒ることなかれ

雨川は、小説投稿サイト××××を楽しんでいたが、ある日うっかり読んでしまった小説で人生を狂わせてしまうことになる。



胸が大きくて困っちゃう話。



それを読んで、雨川はスマホを持つ手の震えを止められなかった。



痩せても胸だけは減らない人類がいるのだと?!

こちとら、太っても胸だけは大きくならないのに!!



雨川は、初めてブラジャーを装着した日のことを思い出した。


あの、有り余る空間。

虚無とはこのこと。

下着メーカーの規格外。

この布切れ一枚で何を守りたいの?


いや、いつかきっと周りのお姉様方のようなマシュマロおっぱいが生まれるはずだ。

そう祈っていたが、高校生になっても平野が隆起することはなかった。




雨川はベッドの上でしばし悶えていたが、新作通知が来ていたので、気を紛らわすために読むことにした。



『ライ麦畑で少女が消えるなら、少女を増やせばいいじゃない』



え? 何の話?


この怪しい小説は、カクヨムユーザーのコメントのやり取りから生まれたらしく、誰が何を話してどんな流れになって生まれたのかはもうわからない。


ただ、都市伝説のように、『ライ麦畑のことは知らないふりをするように』とか、『T博士の作品にハマッたら最後だ』とか、そんなコメントだけが大量にあった。



謎めいたライ麦畑シリーズを開く。



内容は、ライ麦畑の近くに住むT博士が、胸を小さくする薬を作ったという話だ。


大きな乳房は成熟を意味し、すでに他の男の子どもを孕んでいる可能性がある。

逆に胸が小さい女性はまだ経験がなく、自分の子をきちんと残してくれる可能性が高い。

托卵を防ぐために、男は小胸の女性を選ぶべきだ、と書いてあった。



そーだそーだ!

百歩譲って大胸の美しさは認めるが、男子の多数がおっぱい好きなのは社会的洗脳の結果だろ!

胸の大きさとモテ条件は切り離せ!

そもそも小胸をもう少し讃えろや!



雨川は、この架空のT博士に好感を抱き始めた。

さらにT博士はこう語る。



『そもそも人間に近い霊長類は乳房がない。

つまり、子を育てるのに乳房は不要なのだ。

では、なぜ人間には乳房が必要なのか。

それは、人間が直立姿勢になったからだ。

直立により、本来性欲を喚起する尻が下に下がり、見えづらくなった。

ゆえに、尻の代わりに乳房を発達させ、オスの性欲を引き出しているのだ』



と、T博士が語っている。

なるほど……胸元に擬似おしりをつけているのか……。

さらにT博士の語りは続く。



『いずれ、世界は人口減少に転じ、貧富の差が激しくなり、殺伐とした時代に突入するであろう。

そうならないためにも、少女、男子たちは健全な性行為に前向きになり、健やかに子孫を残してほしい。

そんな願いを持って、この”少女飴”を作った。

少女飴は女性の胸を小さくし、その初々しさから多くのオスを魅了するだろう……』



と、締め括られていた。

たくさんのコメントがついていて、見ると少女飴は、アマ××で売っているらしい。


私が買ってもしょうがないよな……。

と、むしろイラッとしたが、ふと、職場の巨乳美女を思い出した。

巨乳によるお困りネタをよく話していて、雨川のコンプレックスを刺激し、SAN値を削ってくる。

SAN値が尽きたら神殺しをするしかない。

雨川は巨乳ネタにそれくらい追い込まれていた。



雨川はアマ××に行き、少女飴を見つけると無表情でポチリした。

巨乳の話になると、雨川のSAN値は急激に下がり、思考が停止する。

この飴がどんな飴なのかなど、気にもとめなかった。



♢♢♢

 


翌日、職場の巨乳美女に飴をあげた。

おいしいと言って食べている。


縮め縮め! 巨乳よ縮め!


雨川の脳内に悪魔の声が響く。



さらに翌日も飴を差し出す。


どうだ、そろそろブラジャーのカップに隙間が出てきたんじゃないか?

その隙間は私の心の隙間!

腕を上げた時にずり上がる、あのノーフィット感をとくと味わうがいいわ!


雨川は恨めしそうに巨乳美女の乳をガン見した。




あれから一週間、飴を与え続けたが、乳が小さくなっている様子はなかった。


「はあ、肩が凝って仕方ないわ」


と、巨乳美女が言うので、雨川は目眩がして会社を早退した。




家に帰るとライ麦畑シリーズの新作通知が来ていた。

アマ××で売っているものは、薬の効きが強くできないのだという。

だから、少女飴の”作り方”を公開するという。



雨川は、”本物の少女飴”を作る決意をした。

少女飴の効果を決める植物は、東北の山奥にあるらしい。


雨川は、溜めていた有休一カ月分をぶち込んで、旅立った。



それから、雨川の姿を見た者はいない。

雨川は気づいていなかった。

自分のSAN値がゼロになっていたことを……



(完)


▼T博士とライ麦畑▼

https://kakuyomu.jp/works/16818093082680871910/episodes/16818093082680898285

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